過去から抜き出した私第1話
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自分の研究成果が、夫の留学経験のある後輩――仲程雲雀(なかほど ひばり)に盗まれたと知った葉山芙美子(はやま ふみこ)は、彼女を告訴した。
法廷で対峙したとき、夫――陸川夕星(りくがわ ゆうせい)は雲雀の証人を担当し、多額の弁護費用まで負担して守ろうとしていた。
一審の判決は、芙美子の敗訴だった。
法廷を出た後、夕星は彼女を見つけ、冷たい口調で言い放った。
「芙美子、雲雀はもう一編の論文を発表すれば、海外の企業に応募できるんだ。同じ貧しい出身なら、その機会の貴重さは理解できるだろう?」
芙美子は唇を噛みしめ、声を震わせて反論した。
「機会?彼女が帰国した時、あなたはわざわざ平安市のポジションまで手配してあげたでしょう。それでもまだ、彼女の方が私より『機会』を必要って言うの?」
夕星は鋭く遮った。
「雲雀は俺の恩師の娘で、俺の後輩だ。彼女を助けるのは当然だろう」
* * *
自分の研究成果が、夫の留学経験のある後輩――仲程雲雀(なかほど ひばり)に盗まれたと知った葉山芙美子(はやま ふみこ)は、彼女を告訴した。
法廷で対峙したとき、夫――陸川夕星(りくがわ ゆうせい)は雲雀の証人を担当し、多額の弁護費用まで負担して守ろうとしていた。
一審の判決は、芙美子の敗訴だった。
法廷を出た後、夕星は彼女を見つけ、冷たい口調で言い放った。
「芙美子、雲雀はもう一編の論文を発表すれば、海外の企業に応募できるんだ。同じ貧しい出身なら、その機会の貴重さは理解できるだろう?」
芙美子は唇を噛みしめ、声を震わせて反論した。
「機会?彼女が帰国した時、あなたはわざわざ平安市のポジションまで手配してあげたでしょう。それでもまだ、彼女の方が私より『機会』を必要って言うの?」
夕星は鋭く遮った。
「雲雀は俺の恩師の娘で、俺の後輩だ。彼女を助けるのは当然だろう。
もういい、この件はそれで決まりだ。雲雀は法廷で怖い思いをして、さっきまで泣き続けていたんだ。これから彼女の元へ向かう」
そう言い終えると、夕星は芙美子の肩を強くぶつかるようにすり抜け、その場を去っていった。
芙美子の喉が詰まった。
結婚して五年、これほどまでに冷たい態度を取られたのは初めてだった。
角を曲がった先で、夕星が雲雀を優しく抱きしめ、慰めている姿が目に入った。
「もう大丈夫だ、すべて任せておけ」
その言葉は、まるで針のように芙美子の心臓を刺し貫いた。
微かな痛みが、胸の奥で静かに広がっていく。
――彼女と夕星の出会いは、とある講演会だった。
結婚前から、彼には一人の「後輩」がいることは知っていた。
「もし芙美子さんに出会っていなければ、夕星さんと結婚していたのは雲雀さんだったかもしれないね」
そうからかう人も多かったが、芙美子はこれまで気にしたことはなかった。
だって、結婚して五年。夕星は常に彼女を大切に扱ってくれたのだから。
彼女が「甘い物を食べたい」と言えば、夕星は真夜中でもデパートに駆けつけて彼女が一番好きな菓子を買ってきてくれた。
彼女を喜ばせようと、わざわざ他の町まで足を運び、高級時計を誕生日プレゼントとして贈ってくれたこともある。
しかし今日、夕星が雲雀の涙に心を痛める表情を見た瞬間、彼の心の内に、自分は一度も入り込めたことがなかったのだと悟った。
口元をわずかに上げ、芙美子は振り返ることなく歩き出した。
――腐り切った男なんて、もう要らない。
芙美子は研究室の前に立っていた。
中では、数人の学生が心配そうに彼女を待ち受けている。
「先生……論文の件、聞きました。敗訴したそうで……」
「これから研究は、どうなさるんですか?」
「もちろん続けるわ」
芙美子はきっぱりと答えた。
「資料を整理して。臨床試験が終わる前に、上訴の準備を進めましょう」
――偽物は本物にはなれない。自分のものなら、誰にも奪わせはしない。
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