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身代わりの花嫁第3話

この話は約1914字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

一週間後、藤原家の月に一度の家族の食事会が予定どおり開かれた。

時男は不在で、晴美は一人で出席するしかなかった。

時男の母・藤原恭子(ふじわら きょうこ)は晴美の姿を見るなり、顔を険しくした。

「時男は?」

晴美は目を伏せ、「用事があって、しばらく戻れません」と静かに答えた。

恭子は冷ややかに笑い、何か言おうとしたその時、執事が慌てた様子で駆け寄り、一枚のゴシップ紙を差し出した。

見出しには、時男と詩織がヨットの上で抱き合いキスしている写真が大きく載っていた。

バンッ!

恭子は箸をテーブルに叩きつけ、怒りを爆発させた。「悦子!書斎へ来なさい!」

書斎に入るや否や、恭子は怒鳴り始めた。「この役立たず!自分の夫もまともに取り繕えないなんて」恭子は怒りで全身を震わせながら言った。「今すぐに電話をかけて時男を呼び戻せ」

晴美のまつげがわずかに震えた。彼女には分かっていた。電話をしたところで、時男は戻ってこない。

それにあの二人の時間を妨げるわけにはいかない。万一彼を怒らせて、両家の協力関係にひびが入ったらまずい。

「ごめんなさい。電話をかけるわけには行けません」彼女は静かに答えた。

恭子は激怒して、「じゃあ、ここで土下座して反省しなさい」と言葉を残して立ち去った。

晴美は言われたまま、床に土下座した。先日の膝の傷はまだ治っておらず、痛みが全身に走った。やがて痛みで視界が暗くなり、そのまま意識を失った。

次に目を覚ましたとき、彼女は病院のベッドに横たわっている。膝には包帯がぐるぐると巻かれていた。

その傍らには時男が座り、眉間に深い皺を寄せていた。

「母さんにあんなことをされたのに、なぜ俺を呼ばなかった?」彼は冷たい声で問い詰めた。

晴美はかすかに笑みを浮かべた。「あなたと根元さんの旅行を邪魔したくなかったの」

時男は一瞬、動きを止めた。

彼は彼女の青ざめた顔を見つめ、ふと看護師の言葉を思い出した。

「藤原社長のことを深く愛しているからこそ、彼が好きな人の世話まで進んでするの……」

彼女は――そこまで俺を愛しているのか。

自分が罰を受けてもなお、時男に迷惑をかけまい――彼女のそんな思いが、時男の胸にわだかまる違和感を、さらにつのらせていった。

その後の数日間、時男は珍しくも病院に残り、晴美の世話をした。

晴美が「大丈夫だから」と幾度か促したが、結局彼は帰ろうとしなかった。

退院の日、時男は突然会社から呼び出しの電話を受け、急な会議が入ったと言った。

「自分で帰りな」そう言い残すと、彼はさっさと踵を返した。

晴美は小さくうなずき、ゆっくりと病院を出た。

階段を降りたところで、不意に誰かにぶつかってしまった。

「どこ見て歩いてんのよ!?」相手は怒鳴りつけた。「この服がどれだけ高いかわかってんの?そんな安っぽい格好で、弁償できるわけ?」

晴美が謝ろうとしたその瞬間、背後から冷たい声が響いた。

「失せろ」

いつの間にか車から降りていた時男が、札束を相手の顔に叩きつけた。「これで足りるか?」

男は反論しようとしたものの、時男の服装と漂う気迫に圧され、慌ててその場から逃げ去った。

時男は冷ややかに晴美を一瞥し、「悦子、神谷家も藤原家もお前にお金を渡してないのか?そんな格好で?」と吐き捨てるように言った。

晴美は黙り込んだ。

実際、神谷家からは一銭ももらっていない。藤原家のブラックカードはあっても、自分は本当の藤原夫人ではない。だから一度も使ったことがなかった。

彼女が何も言わないのを見て、時男の胸にはわけもない怒りが込み上げ、彼女の腕を掴んでくるりと車に押し込んだ。

「服を買いに行こう」

ショッピングモールで、時男は彼女にいくつものオートクチュールを選んだ。どれも目が飛び出るほど高価なものばかりだ。

晴美は終始無言で従い、まるで感情を失った操り人形のようだった。

だが、二人がモールを出たその瞬間――

「時男……?」

震える声が響いた。

晴美が顔を上げると、ウェイトレスの制服姿の詩織が少し離れた所に立っている。目を赤くし、潤んだ瞳で二人を訝しむように見つめる。

「会社で会議だって……言ってたじゃない?」

「詩織……」時男の表情がわずかに変わった。

「私を愛さなくてもいい……」詩織の頬を涙が伝う。「でも、どうして嘘をつくの?帰国しなければよかったのに……ただの邪魔者だっただけね……」

そう言い残すと、彼女はくるりと背を向けて走り出した。

「詩織!」時男はすぐに追いかけた。

晴美はその場に立ち尽くし、時男の背中を見つめながら、心の中は不思議なほど静かだった。

だが次の瞬間――

ドンッ!

轟音が響いた。

モール上層のガラスが突如落下し、詩織を直撃した。

彼女は何の声も発せず、血の中へと倒れ込んだ。

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