身代わりの私?真実を知った彼は元カノを破滅へ第3話
この話は約1841字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
寧々の胸にはさまざまな感情が渦巻いたが、何も言わずただ静かに座っていた。
雅臣も相変わらず、寧々のことをこの上なく可愛がっていた。
上着を肩にかけてやり、フルーツを口元まで運ぶ。口元についたミルクの汚れを拭ってやり、ふと瞳の奥を暗く沈ませると、愛おしそうにキスをした。
寧々はそっと目を閉じたが、かつてのようなときめきは、もうこれっぽっちも感じられなかった。
彼女が顔を上げると、汐梨が暗い目をしてこちらを見つめていた。
それを見て、汐梨を嫉妬させるという、雅臣の目的は果たされたのだと分かった。
しかし、その芝居がかった時間は唐突に終わりを迎えた。汐梨が眉間にしわを寄せ、ソファに崩れ落ちたのだ。
周りの人たちが慌てて声を上げる。「汐梨ちゃん、どうしたの……」
「分からない、お腹がすごく痛くて……胃の調子が悪いのかも。誰か、お薬を持ってきて……」
その様子を見た雅臣は表情を一変させ、思わず勢いよく立ち上がった。
汐梨のテーブルに置かれたグラスを見るなり、雅臣は目つきを鋭くした。その声には、抑えきれない心配の気持ちがにじみ出ている。
「自分の胃が弱いのを知っているだろ?どうしてこんなに飲んだんだ?すぐに病院へ行くぞ!」
雅臣はそう言うと、汐梨を横抱きにして、足早に立ち去ろうとした。
その間、彼は一度も寧々のほうを振り返ることはなかった。
寧々は目を閉じ、自分の役目はこれで終わったのだと静かに悟った。
熱っぽくてだるい体にムチを打って立ち上がり、「お先に失礼します」と一言残して、その場を後にした。
それから数日間、寧々は雅臣の邸宅で体を休めながら、少しずつ身の回りの荷物を整理し始めた。
雅臣がプレゼントしてくれたアクセサリーやバッグ、無理やり一緒に撮ってくれた写真、雅臣の好みに合わせて買ったシャツやマグカップ……
最低限必要な生活用品だけを手元に残し、思い出の品々は、すべて未練なく処分した。
どんどん物がなくなっていく部屋を見つめながら、寧々はぽかんとした。そして、消え去りゆく思い出の数々が頭をよぎった。
ソファで雅臣に抱きしめられながら映画を観たこと。夜更かししてレゴに熱中したこと。ベランダいっぱいに二人で花を植えたこと。
こんな穏やかな毎日が、この先もずっと、永遠に続いていくのだと信じて疑わなかった。
だがどうやら、いい加減夢から覚めるべき時のようだ。
そんな物思いに耽っていると、不意に庭から車のエンジン音が聞こえてきた。
寧々が顔を上げると、雅臣が汐梨を伴って家に入ってくるのが見えた。
彼の表情はいつも通り淡々としていたが、汐梨のほうは嬉しそうに微笑みながら、しきりに話しかけていた。
二人で楽しそうにリビングに上がってきたが、部屋の様子があまりにひっそりとしているのを見て、雅臣はかすかに眉間にしわを寄せた。
「どうしてこんなに、家の中のものが少なくなっているんだ?」
「使わなくなった、いらないものを整理しただけだよ」
寧々は視線を落とし、さりげなくそう言い訳した。
雅臣は深く気に留める様子もなく、寧々を一瞥しただけで、すぐに汐梨へと視線を戻した。
「汐梨の体調が悪くて、家の水回りにも不具合が出たらしいんだ。だから、数日間ここに泊めることにした」
寧々は小さくうなずいた。「分かったわ」
雅臣は飼い主で、自分は籠の中の鳥にすぎない。
だから、わざわざ言い訳をする必要なんて、本当は最初からないのだ。
寧々の追及も詮索もしない不自然な態度に、雅臣は怪訝そうに少し顔をしかめ、問い質そうとした。しかしそれを遮るように、汐梨が別の話題を切り出した。
「ねえ雅臣、日当たりのいい南側の部屋を使ってもいい?それから私、花粉アレルギーがあるから、ベランダの花はどこかに移しておいてほしいな。このカーペットもヒールが引っかかりそうで嫌だから、片付けてもらえる?」
雅臣は短く頷くと、使用人に指示をして、すぐに汐梨の言う通りに手配させた。
汐梨は満足そうに口元をゆがめ、マウントを取るかのような冷ややかな視線を寧々に送った。
お気に入りのカーペットや花が運び出され、寝室があっさりと汐梨に明け渡されていくのを見ながら、この家が自分の知らない場所に変わっていくようで、寧々の胸にはさびしさがこみ上げた。
しかしその痛みをやり過ごすと、ふっと気持ちが軽くなるのを感じた。どうせここを出ていくのだから、この家のことなんて、もうどうでもいいのだ。
そう自分に言い聞かせると、寧々はただ静かにうつむき、誰にも気づかれないように部屋へと戻っていった。
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