身代わりの私?真実を知った彼は元カノを破滅へ第1話
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18歳の時、母親の治療費のために、鹿野寧々(しかの ねね)は10歳年上の男・御堂雅臣(みどう まさおみ)に自分を売り渡した。
後になって知ったことだが、雅臣はあの御堂グループの社長だった。仕事では冷酷で誰もが恐れる存在なのに、寧々にだけは、信じられないほど優しかったのだ。
雅臣はどこまでも彼女を甘やかした。それは、自分は愛されているのだと寧々に錯覚させてしまうほどだった。
寧々が「南区にあるスイーツが好き」と何気なく言うと、翌日にはそのお店ごと雅臣に買い取られた。そして、寧々だけのためにスイーツを作らせるようになった。
寧々が夜中に熱を出した時、雅臣は大切な国際会議を抜け出し、一晩かけて飛行機で戻ってきた。そしてベッドサイドで付き添い、何度も冷たいタオルを取り替えてくれた。
寧々の20歳の誕生日に、雅臣は彼女をオーロラを見るために連れて行ってくれた。美しくきらめく光景の中で、寧々の指先に口づけを落とし、「寧々、これからは毎年の誕生日を一緒に過ごそう」と微笑みかけた。
寧々はその言葉を本気で信じていた。
* * *
18歳の時、母親の治療費のために、鹿野寧々(しかの ねね)は10歳年上の男・御堂雅臣(みどう まさおみ)に自分を売り渡した。
後になって知ったことだが、雅臣はあの御堂グループの社長だった。仕事では冷酷で誰もが恐れる存在なのに、寧々にだけは、信じられないほど優しかったのだ。
雅臣はどこまでも彼女を甘やかした。それは、自分は愛されているのだと寧々に錯覚させてしまうほどだった。
寧々が「南区にあるスイーツが好き」と何気なく言うと、翌日にはそのお店ごと雅臣に買い取られた。そして、寧々だけのためにスイーツを作らせるようになった。
寧々が夜中に熱を出した時、雅臣は大切な国際会議を抜け出し、一晩かけて飛行機で戻ってきた。そしてベッドサイドで付き添い、何度も冷たいタオルを取り替えてくれた。
寧々の20歳の誕生日に、雅臣は彼女をオーロラを見るために連れて行ってくれた。美しくきらめく光景の中で、寧々の指先に口づけを落とし、「寧々、これからは毎年の誕生日を一緒に過ごそう」と微笑みかけた。
寧々はその言葉を本気で信じていた。
ある見知らぬ女から、呼び出されるまでは。
「自己紹介をしておくわ。私は椎名汐梨(しいな しおり)、雅臣の元カノよ。7年前、彼にプロポーズされたんだけど、私は仕事を選んで海外へ行ったの。それ以来ずっと連絡は取っていなかったけれど、私が戻れば、雅臣は必ず私のところへ帰ってくることは目に見えてるわ」
そう言うと、汐梨は1枚の小切手を取り出し、寧々の目の前に置いた。「私は雅臣と復縁する。でもその前に、邪魔な女はすべて片付けたいの。ここに10億円あるわ。あなたみたいな囲われた女にとっては、十分すぎる金額でしょ。これを持って、雅臣の前から姿を消して」
寧々はのどが引き裂かれそうに感じた。これまで、雅臣にどんな女性がいたのか、一切聞いたことがなかったのだ。
まだ若かった寧々は、これまでの短い人生の中で雅臣のことだけを一途に思ってきた。けれど、彼は別の女性を深く想っていたのか。
これまで一緒に紡いできた日々にすがるように、寧々は勇気を絞って言葉を絞り出した。「ですが、もう随分と昔の話です。雅臣さんは、あなたのことなど、とうに忘れているかもしれません……」
汐梨はくすっと笑い声を上げた。「そっちは知らないでしょうね。かつて雅臣が、私をどれほど熱烈に愛していたのかを」
汐梨はスマホを取り出し、勝ち誇った笑みを向けた。
「それなら、賭けをしない?今から私が雅臣に、『帰国したけれど車が故障したから迎えに来て』ってメールを送るわ。
そしてあなたは、『交通事故に遭った』と送るのよ。
それで、雅臣がどちらに先に返事をするか賭けるのよ」
汐梨は顔を上げ、勝利を確信した視線を寧々にぶつけた。「もし雅臣が、私を優先したら、そのお金を持って彼から離れて。
でも、もし彼があなたを選んだら、私がおとなしく退いてあげるわ」
寧々の胸には、嫌な予感や強い不安、そして迷いが次々と押し寄せた。だが、そのすべては最後には揺るぎない決意へと変わっていった。
「いいですよ」
二人のスマホから同時にメッセージが送られると、1秒1秒の時間が拷問のように感じられた。
寧々は画面を見つめていた。まるで走馬灯のように、脳裏に雅臣との無数の幸せな光景が映し出される。
生理が辛い時に、心配そうな瞳でおなかを温めてくれた記憶。降り積もる真っ白な雪の中、唇に重ねられた柔らかなキス。大晦日の夜に掃き出し窓の近くで抱きしめられた温もり……
一つ一つの光景が鮮明に浮かび、意識を思い出の中へ誘っていった。
突如鳴り響いたけたたましい着信音により、寧々は我に返った。汐梨が、優越感に浸った笑みで見つめていた。そして、スピーカーホンのボタンを押しながら通話に応じる。
「場所はどこだ」
雅臣の温度の通わない、冷酷ともいえる声が室内に響いた。それは寧々の心臓を鋭く突き刺した。
寧々は唇をきつく結び、指の関節が白くなるほど拳を握りしめた。息をすることさえ苦しかった。
その苦しげな顔を見て、汐梨は愉悦を感じていた。
「急に連絡して、迷惑じゃなかったかしら?他にもっと大事な用事があるのではと心配で……」
ほんの短い静寂の後、雅臣の声が何もなかったかのように返ってきた。
「大丈夫だから、場所を送れ」
汐梨は満開の笑顔で、勝ちを噛みしめながら、スマホで位置情報をゆっくり送信した。
何の通知も来ないスマホを見つめたまま、寧々は目の前が完全に真っ暗になり、体中の血の気がすうっと引いていった。
瞳からは生気が徐々に消えていき、やっとのことで弱々しい声をこぼした。
「彼は……昔、そんなに深くあなたを想っていたの?」
汐梨は嬉しそうに口を開いた。「そうね。どんなふうに、私が雅臣に大事にされていたか教えてあげようか?」
汐梨は幸せに浸りながら一つ一つ思い出すように話し始めた。
「オーロラを二人で見に行ったとき、これから先、毎年同じ日を側で一緒に過ごしたいと言われたわ。
私が『このスイーツが気に入ったの』って軽く一言口にしたら、雅臣はお店ごと買ってくれたの。
それに、彼は猫が大嫌いだったのに、私が拾ってきた野良猫を追い出そうともせず、寝室で寝ることまで黙って許してくれていた……」
寧々は体の芯まで凍りついた。
これまで、自分に捧げてくれたはずの無数のぬくもり、そして思い出は、雅臣の心に残った汐梨に対する深い愛慕と面影にすぎなかったのだ。
「約束だから。彼から離れなさい」と、汐梨は冷たい声とともに小切手を寧々に再び差し出した。
「ええ。確かに、私の惨敗ですね」
たったそれだけの言葉なのに、寧々の残りの生きる気力をすべて吸い尽くしてしまったように感じた。
彼女は爪が食い込み、血が滲んだ手でその小切手を受け取った。そして絶望に満ちたまま目を閉じ、感情を失ったような声で呟いた。
「言われた通りにします。私は二度と彼の前に現れません」
確固たる回答を得た汐梨は、引き止める理由もなくなり、ハイヒールを鳴らしながら出て行った。
世界は再び静まり返り、寧々は唇から血が滲むほど強く噛み締め、胸の奥に込み上げる感情を必死に押し殺した。そして疲れ切った体を引きずるようにして、カフェを後にした。
外は土砂降りの雨が降っていて、彼女は降り注ぐ雨の中を歩き出した。
そして、汐梨が車で通り過ぎる際に、わざとスピードを上げて水たまりをはね上げ、その水しぶきが寧々の全身を濡らしたことにも気づかなかった。
車窓が下がり、汐梨が嘲笑した。「ごめんなさい、でも負け犬にはその姿がお似合いだと思ったの」
捨て台詞を残して、車を走らせるとあっという間に見えなくなっていった。
降りやまぬ雨の中、びしょ濡れの体で寧々は雅臣の邸宅へ戻った。
ふいにスマホが鳴った。大学の指導教員からだった。
「鹿野さん、例の留学の件はどうしますか?本当に辞退するつもりなんですか?」
先生、長谷川利明(はせがわ としあき)の溜め息混じりの言葉が、寧々の意識を現実へと引き戻した。
寧々は窓の外で降り続ける雨を見ながら首を振り、静かに言った。「いえ、辞退しません」
「私に行かせてください」
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