身代わりの恋が終わるとき第3話
この話は約1741字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「お前らしくないな。いつものお前なら、大騒ぎして大勢を巻き込んででも暴れまわるはずだ。こんなふうにあっさり受け入れるなんて」
私は無理やり笑みをつくった。
「こんな私を見て、智之は嬉しいはずでしょ?」
彼が一瞬固まったそのとき、電話の着信音が鳴った。
向こうから、千絵美が泣きながら言った。
「智之、私、怖い夢を見たの。夢の中で、道田さんに殴り殺されそうになって、それだけじゃなく、みんなの前であなたの服を全部脱いでやるって言われて……」
智之の目元がやわらぎ、宥めるような声をかけた。
「怖がらなくていい。すぐ戻って、一緒にいてやる。俺がいる限り、誰にも千絵美を傷つけさせない」
千絵美は、しゃくり上げながら言葉を続けた。
「ずっと言えなかったんだけど、道田さん、男を何人か使ってネットで私に嫌がらせしてきたの。それに、私のプライベート写真を合成して……もう本当に耐えられない。
もし道田さんが、私が智之を奪ったからって恨んでるなら、お願いだから別れよう。本当に道田さんを相手にするなんてできない……」
ひとつひとつの言葉が、あまりにも真実っぽく聞こえた。
その瞬間、私は表では身を引き、裏では陰湿な女として仕立て上げられた。
智之は私を見下ろし、一言一言を噛みしだくように吐き捨てた。
「つまり、亜紀が冷静を装ってたのも、ただの駆け引きだったわけだ」
冷たく落とされたその声が、胸の奥を深くえぐった。
「もっと早く気づくべきだった。お前は、生まれつき性根が腐ってる」
その目は、凍るほど冷たい。
言葉のひとつひとつが、胸に突き刺さってくる。
愛されていたときは、わがままで可愛い女。
愛されなくなれば、生まれつき性悪な女。
突然、もうこれ以上智之と絡み合っていたくない。
智之は声を潜めて千絵美に言った。
「千絵美、俺から離れようなんて考えるな。
これからはもう、あいつが千絵美の前に現れることはない」
そう言って電話を切り、私のスマホを取り上げた。
「この家がお気に入りなんだろ?ここで大人しくしてろ。俺の許しがない限り、一歩も外へ出るな」
私はとっさに立ち上がり、スマホを取り返そうと手を伸ばしたが、あっさりかわされてしまった。
そのスマホの中には、大和との小さな思い出が、ひとつひとつ詰まっている。
大和が私に残してくれたボイスメッセージもある。
どれも、かけがえのないものだ。
私は焦りのあまり目を血走らせた。
けれど智之は、満足そうに笑った。
私の頭をそっと撫で、優しい声で言った。
「亜紀が感情を制御できなくなる姿を見るのが好きなんだ。そういうところが、あの子にそっくりだ」
でも今の私は、少しも彼の初恋の人には似たくない。
ただ、自分のスマホを取り戻したいだけだ。
「安心しろ。絶対に亜紀を見捨てたりなんかしない。千絵美がそこまで怖がらなくなったら、また会いに来る」
そう言い残し、彼は扉を閉め、鍵までかけた。
私がいくら押しても、叩いても、開かない。
その場にへたり込み、ふっと力が抜けた。
家の中は、しんと静まり返っている。
ただ、誰かが急いで食事を運んできて、そのまま立ち去っていく。
夜になるまで、私は一人きり放置された。
日が落ちた頃、千絵美が扉を開けて入ってきた。
目が合った瞬間、彼女の唇がわずかに吊り上がった。私の惨めな姿を見て、満足しているようだ。
「何しに来たの?智之に言って、ここから出してって」
彼女の手には、私のスマホがある。
私はすぐに立ち上がり、鋭い声を上げた。
「どうして私のスマホを持ってるのよ!返して!」
千絵美は、スマホを頭上高く掲げた。
「へえ、そんなに大事なんだね。まさか、人には見せられないようなものでも入ってるの?」
私を見ながら、軽い調子で言った。
「これを壊しちゃったら、智之、怒るかな?だってこのスマホ、彼が私に預けてくれたものだし。最初は返してあげようと思ってたの。そうすれば、道田もここから逃げられるから……」
私が反応するより先に、彼女は腕に力を込め、スマホを床へ思いきり叩きつけた。
見るも無惨に壊れたスマホを前に、私は呆然と立ち尽くした。
頭の中が真っ白になった。
いくつもの夜を耐え抜く支えになってくれたものが、千絵美の手で、あっけなく踏みにじられた。
千絵美を見つめた。
さすがに彼女も、遅れて怖くなってきたらしい。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
S67916- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。