身代わりの恋が終わるとき第1話
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四島智之(ししま ともゆき)には、身代わりへの執着がある。
智之の亡き初恋の人によく似ているから、私・道田亜紀(みちだ あき)は彼に甘やかされ、わがまま放題に振る舞うようになった。
身の程知らずな女が私に絡んでこようものなら、たとえ午前3時だろうと家まで押しかけ、何十発もビンタを食らわせてやる。
智之は、一度だって私をきつく叱ったことがない。ただ黙って、後始末をしてくれるだけだ。
そんなある日、彼の初恋の人に私以上に似ている女が現れた。
竹永千絵美(たけなが ちえみ)だ。
私を見たその瞬間、千絵美はいきなり私の前に跪いた。
涙目になりながら言った。
「道田さんは人を殴るのがすごく得意だって聞きました。私、痛いのが怖いんです。お願いですから、殴らないでください」
背後にいる智之が、くすりと笑い、彼女を立たせた。
そして私の前に立ちはだかると、千絵美に言い聞かせるように告げた。
「千絵美、今日からはやりたい放題にしていい。
俺に監視をつけてもいいし、他の女を殴ってもいい」
そう言って、ちらりと私を見て、指差した。
「こいつが今までやってきたことは、全部やっていい。こいつより上に立っていい」
智之は私の目を見つめ、そこにどんな感情が隠されているかを探ろうとしている。
けれど私は、ふいに笑った。
智之は知らない。
私にも、身代わりへの執着がある。
彼は、私が見つけた最初の身代わりだった。
そしてたった今、次の身代わりを探しに行くことに決めたのだ。
* * *
私が笑ったのを見て、千絵美は怯えたように、何歩も後ずさった。そのまま智之の胸の中へ逃げ込んだ。
声を震わせながら言った。
「道田さんが急に笑う時は、暴れ出す合図だって聞いた。智之、私、怖い……」
智之は眉を上げ、からかうように私を見た。
「亜紀も有名人になったな。みんな、すっかり怖がってるぞ」
ソファにだらりと腰を下ろし、腕の中の女をぎゅっと抱き寄せた。
「千絵美はお前を怖がりすぎてる。M町の家へ引っ越せ。時間が空いたら会いに行く」
見慣れた智之の顔は、私がずっと想い続けてきたあの人にそっくりだ。
智之がその顔で、今、私を追い出している。
私は笑みを浮かべ、二人の前まで歩いていった。
そして手を伸ばし、千絵美の頬に触れるふりをした。
彼女は血の気が引いた。
智之が勢いよく私の手首をつかみ、その表情が冷ややかになった。
「亜紀。これまではお前を甘やかして、好き放題させてきた。けれど、これからはそうさせない。まだわからないのか?」
その声は凍るように冷たい。
「もう、亜紀を甘やかすつもりはない。この家から出ていけ。
千絵美は他の女とは違う。亜紀が好き勝手に手を出していい相手じゃない」
私は手を引っ込め、くすっと笑った。
そして青ざめた千絵美の頬を、ぽんぽんと軽く叩いた。
「こんな顔、殴って台無しにするわけないでしょ?私以上にあの人に似てる女なんて、そうそういないものね」
智之にウインクして、弾むような声で言った。
「じゃあ、お邪魔しないでおくね」
そう言って、背を向けた。
けれど智之は立ち上がり、私の手首をつかんだ。
「また何を企んでる?いい子ぶるつもりか?」
私は手を振りほどき、完璧な笑みを浮かべた。
「二人の幸せを心から祈ってるわ。理想的な身代わりを見つけるのがどれほど難しいか、私には痛いほど分かってるもの!」
今日までの智之は、あまりにも理想的な身代わりだった。
体つきも、顔立ちも、声も、その性格さえ。
亡くなった元夫・赤羽大和(あかば やまと)と、ほとんど見分けがつかないほどそっくりだった。
私がどれだけわがままを言っても、どれだけ騒いでも、大和と同じように、限りなく甘やかしてくれた。
夢中になっていたのは、ただ甘やかされる感覚だった。
けれど今、新しい女が現れた。
智之は、もう私を甘やかさない。
それなら、もう私にとって立派な身代わりではない。
智之の顔色が、ますます険しくなった。
声を低くして言った。
「千絵美に手を出すな。彼女に何かあったら、必ずお前に責任を取らせる」
私は一瞬、言葉を失った。
かつて彼が私を庇っていたときも、みんなに向かって、同じように言っていた。
「誰だろうと亜紀に手を出すな。俺が許さない」
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