和紙文詐欺婚約を捨てた日、幼なじみが結婚してくれた · 第3話設定≡

詐欺婚約を捨てた日、幼なじみが結婚してくれた第3話

この話は約1740字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

「泣くな」

洋隆は私をぎろりと睨みつけると、優衣奈の肩をより強く抱き寄せ、慰めながら彼女を連れて外へ向かう。

「出ていくなら一緒に出ていく。沙耶華、後悔するなよ」

後悔なら、すでにしている。

もっと早く洋隆の本性を見抜けなかったこと、何もかも失い、傷だらけになるまで走り続けてしまったこと。そのすべてを。

ただ、ひとつだけ残念だったのは――婚姻届受理証明書に書かれた名前が自分のものではないことに、洋隆は最後まで気づかなかったことだ。

――私がほかの男と結婚していたと知ったら、洋隆はどんな顔をするんだろう。

正直、ちょっとだけ楽しみだ。

……

タクシーで病院へ行き、傷の手当てを終える。家に帰る途中、優衣奈からメッセージが届いた。数枚の画像と、挑発的な言葉だけ。

【その証明書、本当に有効だと思ってる?洋隆と本当に繋がったのはこの私。本妻って言葉、使っていいのは私の方じゃない?】

送られてきたのは、彼女と洋隆の婚姻届の記念写真。そしてゴミ箱に捨てられた、中身の入ったコンドームの画像だった。

なんだか笑えてきた。包帯の巻かれた自分の手を見下ろす。

返信はしない。そのまま優衣奈をブロックし、削除した。気に留める価値すらない人間と出来事だ。ふたりのことは、もう放っておこう。

ベッドに横になったものの、ほとんど眠れぬまま朝を迎えた。翌日は早くから清掃業者を呼び、家中を片付け始める。

まだ洋隆の荷物を処分しきらないうちに、玄関のドアが開いた。洋隆が優衣奈と仲間たちを引き連れて、談笑しながらずかずかと入ってくる。

「おい、今日はシーフードの気分だ。ちょっと市場行って、買い込んできてくんない?ロブスターはオマールじゃなきゃ嫌だぜ。魚も活きのいいやつじゃなきゃ食わねえから」

「まあ気前いいしな、俺らが来るたび、いつだって一番いいもん出してくれるし」

「そりゃそうだろ。洋隆のこと、べた惚れなんだから。俺らもそのおこぼれに与ってるだけだって」

洋隆は、隣で黙ってそれを聞いているだけだ。むしろ当然だという顔で、ソファにふんぞり返っている。

一方で優衣奈が何か言えば、「無理すんなよ」「座ってていいから」と甲斐甲斐しく世話を焼く。洋隆の仲間たちも彼女には気を遣い、ソファの一番いい場所を空け、飲み物を勧め、絶えず笑いかける。

今ならはっきりとわかる。洋隆の仲間たちにとって私は、洋隆の「彼女」ですらなかった。ただの召使い――それ以下だ。そして彼らが認める本当の「洋隆の嫁」は、最初から優衣奈だけだったのだ。

「指図しないで。食べたいものがあるなら、自分たちで買ってきて。それと、ここは私の家よ。出ていって」

私の言葉に、その場にいた全員が固まった。

洋隆はみるみる顔色を変え、わざと怒鳴りつけてきた。

「お前、俺の友達になんて口の利き方してんだ。さっさと謝れ。それからシーフード買い足してくるんだ。それができねえなら、やる気のかけらもねえってことだぞ」

謝れ、謝れ、謝れ。この男はそれ以外の言葉を知らないのか。

でも――かつては、私こそが洋隆に守られる側だったはずだ。

付き合いたての頃、仲間のひとりが「沙耶華は金目当てだろ」と冗談を言った。洋隆は本気で怒り、絶交すると息巻いて、きちんと私に謝罪させた上でなければ許さなかった。

付き合って一年の記念日。レストランが誤って魚介の入ったスープを出したときもそうだ。甲殻類アレルギーの私のために、洋隆は店長とスタッフ全員を呼びつけ、私に謝るよう求めた。

あれから、私は今もアレルギーを持っている。でも、洋隆はまだ、そのことを覚えているんだろうか。

そのとき、優衣奈が今にも泣き出しそうに口元を歪め、洋隆の腕にすがりついた。

「洋隆、沙耶華さん、私たちのこと嫌ってるのかな。ふたりが入籍したお祝いをしようって、わざわざ来ただけなのに……」

優衣奈は「入籍」と「お祝い」という言葉に、わざとらしく力を込めた。洋隆の仲間たちもそれに便乗し、歓声を上げ始める。

「ねえ、沙耶華さん、あの受理証明書、見せてくれない?」

優衣奈が言うなり、部屋の中を物色し始めた。

昨日は帰ってから、受理証明書をしまう暇もなかった。優衣奈は目ざとくテレビ台の上からそれを取り上げる。

「みんなも見たいでしょ?洋隆と沙耶華さんの受理証明書」

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