製薬研究員の彼氏が、私の骨形成不全症の薬を浮気相手に渡した第1話
この話は約2180字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
私は「ガラスの人形」と呼ばれる骨形成不全症の患者だ。恋人の佐藤健一は製薬研究員。
彼に突き飛ばされた時、私は彼のズボンの裾にすがりつき、病院に連れて行ってと必死に頼んだ。
「優子、俺が開発した薬で、もうほとんど治ってるだろう。大げさなんだよ。仕事があるんだ。同僚と少し話すだけなのに、なんでこんなことになるんだ」
彼は苛立たしげに私の手を振り払った。
傍らで田中美咲が佐藤の腕に抱きつき、わざとらしく言った。
「もう、健一先輩ったら、彼女にそんな酷いことしちゃダメですよ」
床に倒れたまま、体のあちこちで骨が折れているのを感じた。肺まで骨が刺さっているようだ。呼吸が段々と苦しくなる中、震える手で救急車を呼んだ。
「先輩、早く行きましょう。研究会に遅れちゃいます。私、先輩に相談したいことがたくさんあるんです」
田中美咲はそう言って、佐藤健一を急かすように連れ出した。
仕事を理由に私を無視するのは、もう何度目だろう。
時間が経つにつれて、口から血が溢れ出してきた。目の前がぼやけてきた時、さっき電話した救急隊から連絡が来た。
「申し訳ありません。道が渋滞で身動きが取れません。できるだけ急いでいますので、もう少し持ちこたえてください」
涙を拭って、佐藤に最後のメッセージを送った。
【私を治してくれてありがとう。この命、もう返すときが来たよ】
* * *
静かに横たわる私の体は、口元の血の泡さえなければ、まるで眠っているかのようだった。
とても安らかで穏やかな様子だった。
外出を控えていたせいで、私の肌は陶器のように白く透き通っていた。
唇は紫色に変わっていたが、それでも微笑みを浮かべていた。
頬には涙の跡が残っていて、それは未来への無念さを物語っていた。
自分の倒れた遺体を見つめながら、私は突然、自分がもう死んでいることに気づいた。
30分前、私は佐藤健一と言い争いをした。
もう何度目だろう。二人で静かな時間を過ごしているときに必ず、同僚から電話がかかってきて、佐藤は急いで出て行ってしまうのだ。
今回は直接、家まで来られてしまった。
私の恋人の佐藤健一は、骨形成不全症の特効薬を研究する製薬研究員だった。
私たちは幼い頃からの知り合いだ。
骨形成不全症の患者がいかに骨折しやすいか、怪我をしやすいかということ。
そして転んだり、ぶつかったりするだけで、簡単に骨折してしまうこと。
彼は子供の頃からはっきり知っていた。
彼のおかげで、私は何とか25歳まで生きてこられた。
でも今日、彼は苛立ちながら私を突き飛ばしたのだ。
その瞬間、体中の骨が折れる音が聞こえた。
彼が私を無視して立ち去ろうとするのを見て、私は慌てた。
彼のズボンの裾を掴んで、泣き声を必死に抑えながら言った。
「健一、骨が折れたの。病院に連れて行ってくれない?」
彼は下を向いて私を一瞥すると、私の手を強く振り払った。
「優子、俺が開発した薬で、もうほとんど治ってるだろ。演技するなよ。仕事なんだ。同僚と少し話すだけなのに、なんでこんなことになるんだ。
ちょっと転んだだけじゃないか。車にでも轢かれたわけじゃないだろ。いつも嫉妬ばかりして、もううんざりだ」
私は必死で顔を上げて彼を見つめ、諦めたように笑って、自分で救急車を呼んだ。
佐藤健一は私の行動を見て、嫌そうな顔をした。「まだ演技してる」
傍らの田中美咲が佐藤健一の首に腕を回し、甘えた声で言った。
「先輩、早く行きましょう。研究会に遅れちゃいます。私、先輩に相談したいことがたくさんあるんです」
玄関のドアが強く閉められ、家には私一人が残された。
動くことができず横たわったまま、静かな部屋には時計の秒針の音だけが響いていた。まるで私の命の残り時間を刻むように。
口の中に広がる血の味。必死で飲み込んだ。
目の前がときどき暗くなり、呼吸がますます苦しくなってきた。
救急隊からの電話は、最悪の知らせだった。
「申し訳ありません。道が渋滞で身動きが取れません。できるだけ急いでいますので、もう少し持ちこたえてください」
絶望的な気持ちになりながら、もう一度佐藤に電話をかけた。
今なら、まだ間に合うかもしれない。
電話が繋がった途端、彼の怒鳴り声が飛び込んできた。
「うるさいな!仕事中だって言ってるだろ!怪我したならタクシーでも呼べよ。もうお前は昔のような壊れやすい人形じゃないんだ。いつまでも赤ん坊みたいなことやってんじゃねえよ」
血を飲み込みながら、かすれた声で言った。「救急車がなかなか来ないの。戻ってきてくれない?」
でも電話からは冷たい声が返ってきた。
「救急車が遅れたくらいで死ぬわけないだろ。俺は忙しいんだ。お前のためにやってる仕事なのだ」
もう一度かけ直したが、彼は電話に出なくなった。
「ただいま電話に出ることができません。しばらくたってからおかけ直しください。ご利用ありがとうございました」
自嘲的に笑うと、口から血が溢れ出てきた。
昔は、私が怪我をすると、すぐに病院に連れて行ってくれたのに。
「優子、大丈夫だよ。骨折しただけだから。帰ったら、そこに分厚いクッションを置くから、もう二度とぶつかることはないよ」
私の病気を治すため、彼は製薬の道を志した。
若かった彼は、固く約束してくれた。
「優子、治ったら、一緒に旅行に行こう」
「そうしたら自由に走り回れるようになって、二人で日本中を見て回れるんだ」
でも、彼はその約束を破った。
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