藤堂社長、この子はあなたの子ではありません!第3話
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「どうか、私を信じてください!」
待ち合わせ場所は街の中心だし、安全なところだ。
私は、確かめに行ってみることにした。
あらゆる可能性を考えていた。
まさか、彼だとは思わなかった。
藤堂直樹(とうどう なおき)だ。
結婚相談所の人が「彼の身元はすぐ確認できます」と言っていたのも納得だ。
直樹は経済ニュースや雑誌の常連だ。
誰もなりすましなんてできない。
しかも、私と慎也は昔、こっそり藤堂家のことについていろいろと調べあげていたのだから、藤堂家の人たちのことはすべて知り尽くしていたのだ。
だから、藤堂家と近藤家の正当な後継者である直樹のことを、私が知らないわけがなかった。
彼と慎也は、どことなく似たような顔つきだった。
そして、実際に会ってみると、映像で見るよりずっと彫りが深くて、目鼻立ちもはっきりして凛々しい感じがした。
正直、こういう顔が私のタイプだってことは認めざるを得ない。
じゃなかったら、慎也と何年もくされ縁を続けたりしなかっただろう。
でも、直樹が本気で私とお見合いをしに来たなんて、信じられるわけがないのだ。
だから、挨拶もそこそこに、私は思わず口にした。「あなたたちみたいな名家の跡取りって、みんな政略結婚をするんじゃないの?」
直樹は私のあまりにも率直な質問に、すこし驚いたようだった。
でもすぐに彼は片眉をあげて、少し笑みを浮かべて言った。
「結婚相手すら自分で決められないんじゃ、名家の跡取りなんて言えないよ」
直樹の答えに、私はもっと驚いた。
それじゃ、彼は政略結婚をする必要がないってこと?
慎也のことを思うと、なんだか皮肉な気持ちになった。
とはいえ、直樹が私の結婚相手としてふさわしいってわけじゃない。
いろんなニュース記事を見るかぎり、彼の性格は慎也よりもっと強引なはずだ。
慎也ひとりだけでも、私は心身ともに疲れ果ててしまうのに。
彼以上に強引な相手となると、手に負えるとはとても思えないのだ。
そう思っていると、ウェイターが高級そうな赤ワインを持ってきた。
断ろうとした、その時。私のスマホが立て続けに震えだした。
画面が明るくなって、慎也からのメッセージだとわかった。
【気が済んだら、会社に戻ってこい】
【もういい年なんだから、俺に宥めさせようなんてわがままをいうなよ】
私は呆然とスマホの画面を見つめた。
そして、三通目のメッセージが届いた。
【どうせお前は名家に嫁げるわけないんだから、何をごねてるのか意味がわからない!】
実際、今回別れるきっかけとなった喧嘩の原因は、慎也が私と結婚してくれるかどうかではなかった。
私が本当に絶望したのは、彼が言った「もしかしてお前、玉の輿目当てで俺と付き合ってきたのか?」という一言だった。
私たちはこれでも幼馴染として長く付き合ってきたのに、それが彼の数々のやり方によってもはやかつての情は跡形もないのだ。
そう思いながら直樹に目を向けると、彼はにこやかに私に向かってワイングラスを掲げていた。
その瞬間、私はふと悟った。
どうして人は、恋愛感情を持てる相手を探さなくちゃいけないんだろう?
慎也が私を玉の輿狙いだと言うのなら、いっそ本当にそうなってやらないと、ぬれぎぬを着せられたままで損じゃないか。
しかも相手はお金持ちでイケメンだ。これはどう考えても損する話じゃない。
それに相手が直樹だと思うと、なんだか妙にスカッとするのだ。
次の日、私が病院へ行かないと思ったのか、慎也が自ら家まで迎えにきた。
私がのんびりと目玉焼きを食べていると、彼は何度も腕時計に目をやった。
「わざと時間を稼いでるのか?
引き延ばしたって無駄だ。今日は絶対に行ってもらうからな」
私は可笑しくなって彼を見た。
「考えすぎよ。ただ、これまでずっと急ぎすぎてきたから、たまにはこうしてゆっくり生活を楽しむのも悪くないなって思っただけ」
慎也は一瞬黙って、それから珍しくやさしい表情を見せた。
「長期休暇をやるから手術が終わったらゆっくり休め。莉奈に頼んで、世話をしてくれる使用人を手配もさせるよ」
「長期休暇なんていらないから。これにサインしてくれれば、それでいい」
それは、私が昨夜徹夜で書いた退職届だった。
それを見て慎也の顔色が変わった。「冗談がきついぞ」
私は、彼がゼロから事業を立ち上げるのをずっと支えてきた。
彼は父親のお金を受け取りたがらなかった。だから最初の出資金は、私が胃を壊すほどお酒を飲んで調達した。会社の中心メンバーも私がひとり、ひとり必死に説得して引き抜いてきたのだ。そして何と言っても、一番難しいクライアントだって、私が何日も徹夜してやっと契約に漕ぎつけたのだ。
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