結婚式の最中に、彼は他の女を選んだ第2話
この話は約1681字。当サイトで読める2話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第3話からは公式アプリで読めます。
ステージに上がる直前、由紀子から動画と数件のメッセージが届いた。
【ねえ、知ってる?あんたが一生懸命準備したこの結婚式、和也にとってはなんの意味もないの。ただ私への当てつけに使われた道具に過ぎないんだから】
【どうしてかって?私が家の言いつけでお見合いしたからよ。私が結婚したがってると思って、拗ねちゃったのね】
動画の中の和也は、息を切らしながら彼女の手を握りしめ、涙ながらに声を詰まらせていた。「無事で本当によかった」と。
感情が高ぶった彼は、愛の言葉を吐露し始める。
私には一度だって言ってくれたことのない、甘い言葉の数々を。
かつて彼は言った。「そういうのは子供っぽいから」と。
見ての通りだ。ただ単に、相手が私じゃなかっただけのこと。
動画は最後まで見なかった。出番が来たからだ。
だが、動画の続きは、十分間にも及ぶ私への糾弾だったらしい。
二人の再会を阻もうとした私が、いかに残酷で薄情な人間かという訴え。
もし動画に映っている男が私の婚約者でなければ、自分こそが仲を引き裂く悪役だと錯覚してしまいそうだった。
司会者の合図が聞こえる。
私は動画を切り、返信もしなかった。
どうでもいい。そんなことは今、何一つ重要じゃない。
花で埋め尽くされたステージの向こう、バージンロードの先には、純白のタキシードに身を包んだ長身の男が立っていた。
どこか所在なさげにしていた彼は、私の姿を見た瞬間、その迷いを消し去った。
彼の名は星野悟(ほしの さとる)。和也の親友だ。
車椅子の父は、どうしても私と一緒にこの道を歩きたいと譲らなかった。
参列者たちは静まり返り、誰一人として異変に気づいていない。
笑える話だが、招待客リストの中に藤原家側の親族は一人もいなかったのだ。
和也は言った。「親戚付き合いは希薄だし、両親も海外にいるから必要ない」と。
私が急いで結婚話を持ち出し、彼がさらに急いでそれを承諾したため、事前に父に会おうとすらしなかった。
だからこそ、こうして悟を呼ぶことができたのだ。病床の父は私の婚約者の顔を知らない。おかげで、この場をどうにか凌ぐことができた。
結婚式の規模は小さく、進行も簡素なものだった。父の体力が長くは持たないからだ。
悟は参列者が見守る中、敬虔な面持ちで「誓います」と宣言し、私と指輪を交換した。拍手が湧き起こり、式は終わった。
私たちは父を連れて病院へ戻った。
父は道中、ずっと人知れず涙を拭っていた。
その時私は、単に私を嫁に出すのが寂しいだけだと思っていた。
黙々と車を運転していた悟が、不意に真剣な表情で口を開いた。
「お義父さん、安心してください。俺は一生葵を大切にします。
この命に代えても」
父は私の手を強く握りしめ、微笑んで頷いた。
その後、病院に戻ると、父の容体は急変した。
最期の言葉を途切れ途切れに紡ぐ父を見て、私の心臓は刃物で貫かれたような痛みに襲われた。
その時初めて知ったのだ。部屋を出た和也が、父と鉢合わせしていたことを。
彼は私への報復として、父に直接言い放ったのだ。「俺は新郎だが、結婚式から逃げる。あんたの娘にまともな貰い手などつくものか」と。
父が車中で涙を拭っていたのは、すべてを知っていたからだった。
和也と父の最初で最後の対面は、父に致命的な一撃を与えるものとなってしまった。
やっぱり、ダメだったんだ。
父を心残りなく見送ってあげるって決めたのに。
固く握られた父の手の甲に、私の涙が落ちる。その時、傍らで沈黙していた悟が動いた。
彼は片膝をついたのだ。
「お義父さん、安心してください。葵への想いは、芝居でも冗談でもありません。本気です。俺が、彼女を一生守り抜きます」
父は頷き、穏やかに微笑んだ。
「分かっていたよ……
ただ、葵があんなに傷つけられたというのに……私はもう、この子を守ってやることも、代わりに怒りをぶちまけることもできないのが……」
悟は低い声で続けた。
「俺がいます。葵を傷つけたすべての人間には、必ず代償を払わせます」
私は驚いて顔を上げ、彼を見た。
その時、バッグの中のスマホが鳴った。和也からだ。
悟の表情が凍りつく。彼は私に代わって通話を切断した。
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