結婚七年、夫が七日間浮気を宣言第3話
この話は約1590字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「どうしても外したいのであれば、用具で切断するしかありません。ただ……奥さまは画家ですから、手を傷つける危険がありますので、やめた方がよいかと」
私は一瞬、呆然とした。
「では、切ってください」
「ダメ!」
思いがけず、浩史は大声で拒絶した。
彼は階段を駆け下り、勢い余って足を踏み外しそうになりながら叫んだ。
「観鈴、俺はお前に切らせない!」
突如飛び出した言葉に、その場にいた誰もが目を見張った。
特にあんずにとっては衝撃的だ。
彼女が私の助手になって以来、浩史がここまで取り乱す姿を見るのは初めてだ。
「……旦那さま?」
浩史は我に返り、咳払いをして取り繕った。
「別に……ただ、お前が手を傷つけて絵が描けなくなって、また俺の前で泣き喚かれたら面倒だと思っただけだ」
そう言うと、ふと思い出したかのように眉を上げた。
「そうだ、昨日俺に描いてくれた絵は?今なら見てやる」
「燃やしたわ」
私は目を伏せ、淡々と答えた。
浩史は愕然とした。
「……何だって?燃やしたの?どうしてそんなことを!」
怒りを含んだ声で詰め寄ろうとしたその瞬間、彼のスマホが鳴った。
男友達からのボイスメッセージだ。
「浩史、離婚したって聞いたぞ?そんな大事なこと、なんで黙ってたんだよ。俺たち親友だろ?」
「そうだよ、こんなめでたいことなら、俺たちを呼んで祝いのパーティーを開くべきだろ?」
「あの若い彼女、俺たちも見たけど確かにイケてるな。観鈴とは違って、前にお前が言ってたじゃん、ベッドの中じゃ死んだ魚みたいって。これでやっと満足だろ?」
軽薄な笑い声がスピーカーから部屋中に響き渡る。
浩史は慌ててスマホを切り、取り繕うように言った。
「観鈴、違うんだ。今のは誤解だ。あいつらは、俺たちが偽装離婚だって知らないんだ。ただの冗談だ」
私は小さく「ふうん」とだけ答え、彼と荷物を一緒に玄関から押し出した。
そのとき初めて、私は浩史の顔に――狼狽の色を見た。
扉が閉まった後、部屋はしばらく重苦しい沈黙に包まれている。
特にあんずは、今にも泣き出しそうなほど目を赤くしている。
「奥さま……いや、観鈴さん……」
私は彼女に微笑みかけて、安心させようとした。
すると、頬を伝う冷たいものに気づく。
「……指輪を切ってください」
その後数日間、浩史は気まずさからか家に戻らなかった。
だが、不思議なことに、プレゼントだけは一日も欠かさず届いた。
私が【いいね】を押したトルマリンのブレスレット。
インスタで一度だけ口にしたオートクチュールのドレス。
ずっと購入を迷っていた、A市北部にある一戸建ての別荘。
どのプレゼントにも、彼は必ず小さなメモを添えている。
【俺たちの復縁まで、あと五日】
【俺たちの復縁まで、あと四日】
【俺たちの復縁まで、あと三日】
――そして、残り二日という日のプレゼントは、朝香のインスタに映っていたものと同じ、「今生の最愛」と名付けられたブルーサファイアのブローチだ。
手に取った瞬間、私は「これは人違いだ」と直感した。
そして、その予感は現実となった。
出国前に主催した最後の美術展で、朝香が突然ステージに駆け上がった。
「観鈴!あの『今生の最愛』を返してよ!
これは浩史が私にくれた誓いの証なの!『この一生、愛するのは朝香だけだ』って!
他のものは全部譲ってもいい。でも、これだけはダメ!
お願いだから、彼氏がくれたものを横取りしないで!」
彼女は涙で頬を濡らしながら泣き叫び、その鋭い爪で私の腕を深く抉った。
鋭い痛みが走り、思わず手を振り解こうとしたその瞬間――朝香はわざとらしくそのまま床に崩れ落ち、胸を押さえて「痛い、痛い」と叫び始めた。
私が状況を理解するよりも早く、浩史が会場に飛び込んできた。
泣き腫らした目の朝香を見るや否や、彼の怒りに火がついた。
「朝香!大丈夫か?」
そして、私を睨みつけて怒鳴った。
「観鈴!文句があるなら、俺に言え!どうしてこの子をいじめるんだ!」
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