秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座!?第1話
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汐見結衣と長谷川涼介は八年間愛し合った。
だがかつて涼介にとってかけがえのない存在だった結衣は、今や彼が一刻も早く切り捨てたい存在へと変わっていた。
結衣は三年間、必死に関係を修復しようとしたが、涼介への愛情が尽きた時、ついに諦めて、彼のもとを去った。
別れの日、涼介は嘲るように言った。
「汐見結衣、お前が泣きついて復縁を求めてくるのを待ってるぞ」
しかし、いくら待っても結衣は戻らず、代わりに届いたのは彼女の結婚の知らせだった。
激怒した涼介は結衣に電話をかけた。
「もう十分だろう」
電話に出たのは低い男の声だった。
「長谷川社長。悪いが、あいにく俺の婚約者は今シャワー中なんだ。お前の電話には出られない」
涼介は冷笑し、一方的に電話を切った。どうせ結衣の気を引くための駆け引きだろうと高を括っていたのだ。
だが、結衣の結婚式当日。ウェディングドレスに身を包み、ブーケを手に別の男へと歩み寄る彼女の姿を見て、涼介はようやく悟った。結衣は、本気で自分を捨てたのだと。
涼介は狂ったように結衣の前に飛び出して、懇願した。
「結衣!俺が悪かった!頼むから、こいつと結婚しないでくれ!」
結衣はドレスの裾を持ち上げて、涼介には目もくれずに通り過ぎながら言い放った。
「長谷川社長。あなたと篠原さんはお似合いのカップルだと仰っていませんでしたか?私の披露宴に来てひざまずいて、いったい何をするおつもりですの?」
* * *
「汐見結衣(しおみ ゆい)様、先日ご予約いただきました結婚式場の件ですが、キャンセルということでよろしいでしょうか?」
結衣はスマホを握る指先にぐっと力を込めたが、声に感情はなかった。
「ええ、お願いします」
「かしこまりました。それでは、キャンセル手続きを進めさせていただきます」
「ありがとうございます」
電話を切ると、結衣は薬指から結婚指輪を抜き取り、テーブルに置いた。それから立ち上がって、スーツケースを引いて家を出て行った。
……
半月前。
夕方、結衣は一件の裁判を終えて、裁判所を出るとすぐにスマホを確認した。
LINEを開くと、ピン留めされたトーク画面には、結衣が送った数十件のメッセージが並んでいたが、相手からの返信は一件もなかった。
先月、二人は結婚式の招待状のデザインで口論になった。
その翌日から、婚約者の長谷川涼介(はせがわ りょうすけ)は海外出張に出てしまった。
この一ヶ月間、結衣がどんなにメッセージを送って仲直りを求めても、涼介はすべて既読無視だった。
この関係において、結衣は惨めなほど自分を低くして尽くしたが、それでも涼介の心を取り戻すことはできなかった。
親友の相田詩織(あいだ しおり)は見ていられず、皮肉交じりにこう言ったものだった。
毎年あれほど多くの離婚訴訟を担当して、数々のくず男を見てきたでしょう?なのにどうしてまだ長谷川涼介にこだわって、彼の本性を見ようとしないの、と。
実は、結衣は涼介の本性が見えていないわけではなかった。ただ、どうしても手放せなかったのだ。
かつてあれほど愛し合っていた二人が、最後には心が離れて、互いに嫌悪しあう結末を迎えることが耐えられなかった。
そして結衣は……涼介のことを、どうしても諦めきれなかった。
八年も一緒にいたのだから、結衣にとって涼介がいない自分など想像もできなかった。
そして彼のいないこれからの生活を、いったいどう送ればいいのか、皆目見当もつかなかった。
メッセージを打ちかけていた、まさにその時。突然、スマホの通知が画面に表示された。
涼介のSNSが更新された知らせだった。
投稿されていたのはシンプルな海の写真。だが結衣は、それが自分が涼介と一緒に行きたいと何度も話していたモルディブだとすぐに分かった。
結衣の指が止まってから、彼とのトーク画面に戻ろうとした瞬間。親友の詩織からメッセージが届いた。
タップすると、篠原玲奈(しのはら れな)のSNS投稿のスクリーンショットだった。
涼介と全く同じ海の写真。ただ、そこには一文が添えられていた。
――出張で疲れたって軽くこぼしたら、彼がモルディブ旅行に連れてきてくれた!
モルディブが結衣にとってどれほど特別な場所か、涼介が知らないはずはなかった。
結衣があれほど「一緒に行きたい」と言い続けていた場所。涼介はいつも「忙しい」とはぐらかしていたのに、まさか別の女を連れて行ったなんて……
まばたきをした瞬間、抑えきれずに涙がこぼれた。
さっき外で感じた冷たい風が、まるで心の中にも吹き込んできたかのようになった。
その時、詩織から電話がかかってきた。
「あの篠原玲奈って女、マジでむかつくんだけど!
結衣が長谷川ともうすぐ結婚するって知ってて、わざと彼と同じ写真をアップするなんて、最低な嫌がらせよ!
それに長谷川のやつも大概ひどいわよ!どこへ行こうが勝手だけど、なんでわざわざモルディブを選ぶの?
結衣がずっと一緒に行きたがってた場所だって知らないはずないでしょ?八年も付き合ったのに!
あいつら、ここまであからさまにしやがって!結衣が浮気されてもう三年になるのよ?それでもあいつと結婚して、この先一生そんな目に遭い続けるつもり?」
結衣の胸は締め付けられるように痛んだ。詩織の言うことは、それこそ痛いほど分かっていた。
でも、八年も付き合って、結婚式まであと一ヶ月余り。今さら諦められなかった。
結衣は、最後にもう一度だけ彼に賭けてみたいと思った。それでも望む結果にならなければ、その時はきっぱり諦めようと、そう心に決めた。
「詩織、土曜日はウェディングドレスとブライズメイドドレスの試着日だから、忘れないで来てね」
電話の向こうの声がぴたりと止まった。次の瞬間、詩織は何やら汚い言葉を吐き捨てて、一方的に電話を切った。
結衣の言葉に、詩織は呆れて怒りを抑えきれなかった。
ここ数年、涼介の心変わりは誰の目にも明らかだった。なのに結衣は、いわゆる痛い目を見るまで分からないタイプで、いつか涼介が必ずもう一度振り向いてくれると信じ込んでいる。
詩織が結衣には言わなかったことがある。それは、自分が何度も、涼介が別の女性と抱き合ってホテルに入っていくところを目撃していたことだ。
涼介はとっくに腐りきっていた。かつて結衣だけを見つめていた男ではなく、どこからどう見てもクズ男になり下がっていた。
あんなクズ男、事故にでも遭ってしまえばいい。一生、不幸のどん底にいればいいんだわ!
その夜、結衣はよく眠れなかった。何度も悪夢にうなされ、明け方近くになってようやく眠りかけた。
うとうとし始めた、ほんの束の間。玄関ドアの電子ロックが解除される音が聞こえた。
結衣ははっと目を開けた。体を起こすとほぼ同時に、涼介が寝室のドアを開けて入ってくるのが見えた。
涼介はスーツケースを引き、ひどく疲れ切った顔をしている。長い旅の疲れがありありとにじんでいた。
しかし結衣は、彼のシャツの襟元についた口紅の跡と、胸元に微かに見える引っ掻き傷を見逃さなかった。
布団を握る手がぐっと固くなって、心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような痛みが走った。
結衣が起きているのに気づくと、涼介はわずかに眉を上げた。
「起こしちゃった?」
涼介は答えを待つでもなく、スーツケースを引いてクローゼットへ向かって、扉を開けて着替えを探し始めた。
結衣は深く息を吸って、涼介の背中を見つめて問いかけた。
「……篠原さんを、モルディブに連れて行ったの?」
シャツを取り出していた手が一瞬止まった。涼介は振り返り、嘲るような笑みを口元に浮かべて結衣を見た。
「なんだ?そこまで行きたいなら、俺たちのハネムーンもそこにするか?」
涼介の口調に含まれた明確な棘を受け止めて、結衣の顔からさっと血の気が引いた。
「私がどれだけ……モルディブに行きたかったか、あなたは知ってるはずよ」
「お前が行きたいからって、玲奈が行っちゃ駄目なのか?」
「そういう意味じゃない……私は、ただ……」
——あなたと一緒に行きたかったのに。
結衣が言い終わるのを待たず、涼介は苛立たしげにさえぎった。
「もういい。こっちは出張帰りで疲れてるんだ。お前と言い争う気はない」
彼は一方的に背を向けながらバスルームに入り、「バン!」と乱暴にドアを閉めて、結衣の前から姿を消した。
結衣は俯いて、血の気を失って白くなった自分の指先を見つめながら、口元に自嘲めいた笑みを浮かべた。
以前ならまだ言い返してきたのに、今では口論することさえ億劫なのだ。
涼介がシャワーを浴びてバスルームから出てきたとき、結衣はすでに着替えと身支度を終え、ドレッサーの前に座って鏡に向かって、まさに口紅を引いているところだった。
結衣は今日、深い緑色のベルベットのロングドレスを身にまとった。腰まである長い髪を下ろし、丁寧に化粧をしていた。あまりの美しさに目を奪われるほどだった。
涼介は一瞬ちらりと彼女に目をやったが、何の感情も浮かべず、すぐに視線をそらした。
涼介がコートを羽織り、家を出て行こうとしたとき、結衣は落ち着いた口調で念を押した。
「土曜日はウェディングドレスの試着日だ。今度こそ遅刻しないで」
結衣が最も嫌うのは時間を守らない人間だった。涼介と付き合い始めた理由の一つは、彼が時間を守る人だったからだ。
しかし、涼介が心変わりしてからは、他の女のために何度も結衣との約束を反故にしてきた。
涼介の口元に、侮蔑の色さえ帯びた嘲りの笑みが浮かんだ。
「心配するな」
彼が言い終わると同時に、涼介のスマホがけたたましく鳴った。わざとか偶然か、彼はスピーカーフォンにした。篠原玲奈の妙に甘ったるい声がスピーカーから流れ出した。
「社長ったら、昨日はちょっと激しすぎたんだから。おかげで、アソコがまだ痛いんだもん。ちゃんと責任取ってよ!」
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