社長とネット恋愛して、バレてしまった第2話
この話は約3172字。当サイトで読める2話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第3話からは公式アプリで読めます。
メッセージに気付いた時にはすでに送信取消のタイミングを逃していた。美しいものを好むのは人間の本能だけど、なぜだか妙に落ち着かない気分だった。
そんな時、相手から突然メッセージが届いた。
「こういうのが好きなの?」
そして送られてきたのは一本の動画。
どうやらジムで撮影したばかりらしく、過度に発達した筋肉ではなく、整った美しいラインが際立つ体つきだった。肌は白く、綺麗な腹筋の線が緩やかに腰の下へと続き、灰色のトレーニングパンツに消えていく。
そしてその上には――
うん、とてもピンクだ。
動画の主はどうやら恥ずかしがっているらしく、動画の終盤に映る顔は赤く染まっていた。
私は完全に陥落した。
「もっと見たい!もう少しちょうだい!」
そうメッセージを送ると、彼はさらに恥ずかしそうにいくつか動画を送ってきた。
美しい肉体に魅了されながら、内心こう思った。
普段は禁欲的なイメージの社長が、プライベートではこんな姿を見せるなんて......なんだか刺激的じゃないか?
そんな時、相手からまた突然メッセージが届いた。
「もし君が僕の彼女になってくれるなら、毎日撮って送ってあげる。思う存分見られるよ」
人間が一生を通じて追い求めるものには、大きく分けて四つある。金、権力、名誉、そして美。
前の三つは私に縁がないけど、最後の一つには大きく心を揺さぶられる。
「......それなら、まあ、別にいいけど」
もちろん条件付きだ。
「公表しない」「アイコンを変えない」「ビデオ通話しない」「会わない」。
彼は少し不満そうだったけど、最終的にはこの条件を飲んだ。
そしてそのまま始まったネット恋愛は、気づけば2年続いていた。
彼がどんどんおしゃれになり、私もどんどん彼の魅力に惹かれていった。でも、そんな日々がいつまでも続くと思っていた矢先、彼が突然会いたいと言い出した。
「最初に約束したでしょ?現実では会わないって。これはネット恋愛だけ」
そう伝えると、彼は申し訳なさそうに言った。
「わかってる。でも、どうしても君に会いたいんだ」
彼の意図は明らかだった。
ちょうど数日前、大学の同窓会があった。帰ってから、同級生の一人から告白され、一度断ったものの、その後に届いた気持ち悪くて不快なメッセージに頭に来て、彼のことをSNSに晒して嘲笑った。
もちろんその後、彼を即ブロックして削除した。
私のSNSは彼にも見える。それを見て、彼は会って堂々と「彼氏」としての存在を示したいのだろう。
でも、現実で会えない理由は私も十分わかっている。だから答えは変わらない。
それでも彼が1週間以上粘るので、ついに私は嫌気がさして「別れよう」と切り出した。
すると、彼は完全に怯えてしまい、すっかり気力を失ったようだった。
スマホに何度目かの着信が表示され、ため息をついてそれを机に伏せた。
そんな時、上司の山崎花子が私を呼んだ。
「桑原、この企画書を時松社長に届けてちょうだい」
山崎花子が時松弘明に好意を抱いていることは、会社中が知る事実だ。
いつもなら彼女は積極的に接触しようとするはずだが、最近は時松弘明の機嫌が悪い。前に彼女が空気を読まずに慰めようとして怒られたことがあるので、それ以来は控えているらしい。
私は少し困り顔で答えた。
「山崎部長、これは越権行為だと思います。直接渡すのはさすがに......」
時松弘明は私がネットで付き合っている彼氏だった。仕事用の連絡先は知っているものの、直接接触したことは一度もない。しかも、この企画書はずっと難航していて、彼がずっと不満を抱いている案件だ。
彼の機嫌が良い時でさえ厳しい批判を受けるのだから、今のように機嫌が悪い時に持って行けば、間違いなく叱責されるだろう。これは完全に私を盾にして彼の怒りをかわそうという魂胆に違いない。
山崎花子は目を丸くして言った。
「いいからやれっての。文句ばっかり言ってないで!」
仕方ない。
オンラインではほとんど裸同然の彼を見慣れているけど、現実で接触するのはやっぱり緊張する。まして仕事では、彼は超厳しくて、強烈な毒舌家としても有名だから。
私は一瞬ためらい、スマホを取り出した。
あの日、勢いで別れを告げてからというもの、彼はずっと謝罪のメッセージを送り続けていた。完全にパニックになっているのが手に取るようにわかったけど、私は一切返事をしていなかった。
返さなかった理由は二つ。ひとつは、自分が情に流されないようにするため。もうひとつは、少し彼の態度を引き締めるため。
会うのは無理だけど、別れるのもなかなか踏ん切りがつかない。
少し考えた末、メッセージを送ることにした。
「別れなくてもいいけど、もう少し大人しくしてくれない?私は本当に約束を守らない人が嫌いなの」
送信すると、即座に返信が来た。
「やっと返事してくれたんだね、ダーリン!ごめん、本当に反省してる。もう絶対に同じことはしないよ」
そして続けて送られてきたのは、泣いている子犬のスタンプ。
私は深く息を吸い、オフィスの扉を軽くノックした。
中から少し慌てた様子が聞こえた後、落ち着いた声で言われた。
「どうぞ」
ドアを開けて入ると、まず目に飛び込んできたのは時松弘明の赤くなった鼻先だった。――泣いていたの?
その様子に気づいた私を察したのか、彼は少しバツが悪そうに机を軽く叩いた。
「資料を届けに来たのか?そこに置いておいて、戻っていいよ」
普段ならすぐに越権行為だと叱られそうなところだけど、今日は妙に穏やかだった。
もしかすると、少し機嫌が良くなったのかもしれない。
以前、ある同僚が越権報告をしたせいで解雇されたことがある。
もちろん、それだけが理由ではなく、その人自身の業務能力の問題や指示不服従も関係していたけど、それでも越権行為がきっかけだったのは間違いない。
今回持ってきた企画書も、結局彼から再度却下され、再び私の手元に戻ってきた。
仕方なく私は残業して修正することになった。
ところが、今日、時松弘明は珍しく機嫌が良く、定時に退社してしまった。しかも金曜日だったので、他の同僚たちも早々に退社してしまった。結局、オフィスには私と受付の事務員だけが残ったが、私の企画書はいつ完成するかわからない状態だったため、事務員には「最後にちゃんと戸締りするから」と言って先に帰ってもらった。
どれだけ時間が経っただろう。突然、オフィスの入口から顔認証ロックが作動する音が聞こえた。
時計を見ると、すでに夜の10時を回っている。この時間に誰が来るのだろう?
私は思わず身構えた。頭の中ではオフィスビルを舞台にしたホラー映画の場面がよぎる。「幽霊なんて存在しない」と自分に言い聞かせながら、息を潜めてその場でじっとしていた。
やがて、見覚えのあるシルエットが近づいてきた。その顔を見て、私は大きく息を吐いた。――時松弘明だ。
「なんでこんな時間に一人でいるんだ?家に帰らないのか?」
彼は私がまだ残業していることに驚いている様子だった。私は内心で彼を恨みながら答えた。「この企画書が急ぎでして、明日持っていってもまたダメ出しされると思ったので、今日中に何とか仕上げようと思って」
「ああ、その企画書か」
時松弘明は少し考えるように黙った後、私の方へ歩いてきた。
「もっと具体的に説明しよう。そっちの方が修正もしやすいだろう」
心臓がドキッと跳ねた。――今はまずい。
理由は簡単。メッセージを返す必要があるので、手間を省くために仕事用のパソコンを生活用アカウントに切り替えているからだ。
時松弘明が私の近くまで来ると、「画面を開いて見せてくれる?」と言った。
私は頭の中で瞬時にシミュレーションを巡らせながら、手元の操作を慎重に進めた。
画面をなんとか調整して彼に見せようとしたその時、彼が椅子を引き寄せながら言った。
「ちょっと代わってくれる?」
「待って!」
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