生まれ変わった妻の華麗なる復讐第2話
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「お父さん……お母さん……私……私、蒼真と離婚する……」
泣き崩れながらかかってきた琴音からの電話に、海外に住む両親はひどく動揺した。彼らの目から見ても、二人は誰もが羨むようなおしどり夫婦だったからだ。
「琴音、どうしたんだ?蒼真くんと喧嘩でもしたのか?」
「一体何があったの?急に離婚だなんて。どうしてそんなに泣いているの、お願いだから何か言って。お父さんもお母さんも、心配でどうにかなりそうよ!」
受話器越しに飛び交う両親の焦った声を聞いて、琴音は痛みに引き裂かれそうになりながらも、ハッと我に返った。
蒼真が自分に対して行ったあまりにも残酷な所業。もし今の状態で両親に全てを打ち明ければ、ショックのあまり二人が倒れてしまうかもしれない。
両親を巻き込むわけにはいかない。
琴音は必死に嗚咽を噛み殺し、溢れ出る苦痛と涙を無理やり飲み込んで、どうにか声を絞り出した。
「詳しいことは……私がF国に渡ってから、ちゃんと説明するから。
お願い、お父さん、お母さん。今日私が電話したことは、絶対に誰にも言わないで。蒼真にも、絶対に内緒にして……
こっちの手続きが全部終わったら、そっちへ行くから。また、三人で一緒に暮らそう」
両親はなおも心配そうだったが、昔から芯の強かった娘の言うことだ。老夫婦はそれ以上深くは追及せず、「何があってもお前の味方だ。よく考えなさい」とだけ伝えてくれた。
その後の入院生活。蒼真はまた「優しく愛情深い夫」の仮面を被り、病室でかいがいしく琴音の世話を焼いた。
彼の献身ぶりは、誰の目にも明らかだった。彼女の好きなお菓子を買ってきては自ら口へ運び、車椅子に乗せて散歩へ連れ出せば、数歩歩くたびにしゃがみ込んで「寒くないか?」「傷は痛まないか?」と優しく気遣った。
すれ違う看護師や他の患者たちは皆、そんな琴音を羨望の眼差しで見つめていた。
だが、琴音だけは知っていた。これがすべて、狂気を孕んだ「嘘」であることを。
愛しているという「演技」すら、人間はここまで完璧にこなせるのだ。
退院の日。蒼真は一本の電話を受けると、「会社で急用ができたから先に行く」と言い残して病室を出て行った。
琴音は、その電話の主が悠里であると分かっていた。
なぜなら、彼の顔にあの壊れ物を扱うような、ひどく優しい表情が浮かぶのは、彼女と話す時だけなのだから。
これほどまでに、彼が悠里を愛している証拠が転がっていたというのに。私はこの五年間、どうして一度も気づけなかったのだろう。
蒼真が去った後、琴音は一人でタクシーに乗り、区役所へと向かった。
引き出しの奥に大切にしまっていた、結婚当時に蒼真が持ってきた『婚姻届受理証明書』を窓口の職員に差し出した。
しかし、書類を確認した職員は困惑したように眉をひそめ、首を振った。
「あの……この証明書は、偽物ですよ。いくら離婚したくないからといって、わざわざ偽物を作ってまでおふざけになるのはやめてください」
「……え?」
琴音は呆然と立ち尽くした。しばらく経ってから、彼女の口から乾いた笑い声が漏れた。
笑って、笑って、そして大粒の涙が零れ落ちた。
ああ……彼は「一条の妻」という、紙切れ一枚の戸籍上の名分すら、私には与えたくなかったのだ。
だが、好都合だ。おかげで、泥沼の離婚裁判をする手間が省けた。
琴音は区役所を出ると、そのまま大使館へと向かい、F国への永住・移住ビザの申請手続きを行った。
担当者によれば、全ての手続きが完了するまでに「七営業日」かかるという。
七日間……
あと七日間だけ、私は何も知らない哀れな女を演じたまま、あの家で過ごさなければならない。
家に着き、家政婦が玄関のドアを開けた瞬間だった。
「ママ!」
五歳になる息子の一条湊(いちじょう みなと)が、小さな体を弾ませて飛びついてきた。りんごのように赤い頬をして、琴音の首に抱きつきながら甘え声を上げる。
「ママ、おかえりなさい!ずっと会いたかったよぉ!
パパが、病院に行っちゃダメだって言うから、湊、お家ですっごく心配してたんだよ。
ママ、これからは湊がずっと一緒にいるからね。ママ、絶対にまた歩けるようになるよ!」
自分の膝にすがりつき、無邪気に甘えてくる我が子を見下ろした瞬間――琴音の心臓は、刃物で滅多刺しにされたような激痛に襲われた。
この五年間、私がこの手で大切に、大切に育ててきた子。
でも……この子は、私の息子ではない。
一度顔を見ることすら叶わず、冷たい暗闇の中で息の根を止められた、私の本当の赤ちゃん。
その子の命を奪ってまで、蒼真は、悠里との間にできたこの子を私の手で育てさせたのだ。その事実を思い出すたび、全身が震え、狂いそうなほどの痛みが襲ってくる。
でも、目の前で自分を慕って泣いているこの子は……私がオムツを替え、離乳食を作り、初めて歩いた時に一緒に泣いて喜んだ、私の愛する子だ。
一瞬、彼女は地獄のような絶望と愛憎に引き裂かれそうになった。
だが、やがて琴音は静かに自分に言い聞かせた。蒼真と悠里の犯したおぞましい罪を、この幼い子供に背負わせてはいけない。
結局のところ、湊もまた何も知らない、たった五歳の子供なのだから。
琴音は車椅子の上からゆっくりと身をかがめ、湊の小さな体を力強く抱きしめた。
堪えきれなくなった涙が、子供の背中にポロポロとこぼれ落ちていった。
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