生まれるも得ず、死ぬことも許されず第1話
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橘渉真と婚約する前日、私は両親に刑務所へ送られた。
3年の刑期を終え、迎えに来たのは橘渉真ただ一人だった。
彼が私を嫌っているのは分かっていた。私は震えながら、目を伏せ、その場を立ち去ろうとした。
しかし、彼は私の前に立ち塞がり、眉をしかめてこう言った。「葉山桜子、くさいんだけど」
彼は鼻をつまみながら、私を車に乗せた。
私は膝をつき、必死に「家には帰りたくない、帰ったら死んでしまう」と懇願した。
彼は冷たく言い放った。「じゃあ、死ねば?」
私はその言葉を受け入れた。
けれど、その後、彼は泣きながら「生きてくれ」と私に懇願したのだった。
* * *
刑務所を出たその日、空は晴れ渡っていた。
看守が私の背中を軽く叩いて、「しっかりやり直せよ」と声をかけてきた。
その一押しで少しふらついたが、何とか踏ん張り、荷物を手にして外に出た。
門を出た瞬間、目の前に見覚えのある背の高い男が立っていた。カジュアルな格好で、車に寄りかかりながらタバコを吸っていた。
端正な顔立ちにどこか品のある佇まいをしていた。橘渉真だった。
一方、地面の水たまりに映る私の姿は、3年前のくたびれた長袖を着て、痩せ細り、顔色は土気色。かつての華やかさなんてどこにもない。
胸がズキリと痛み、私は袋を握りしめた。
視線を落として、彼の前を通り過ぎようとしたが、その時、彼がタバコを消し、大股でこちらに歩いてきた。
「葉山桜子?」
低い声には苛立ちがにじみ出ていた。
思わず一歩後ずさりし、全身が震えた。
「くっせぇんだけど」彼は鼻をつまみ、露骨に嫌な顔をした。
私は自分の服の匂いを嗅いでみたが、確かに出所前にちゃんとシャワーを浴びたはずだ。
でも、長い間便所のそばにいたせいか、あの臭いが体に染みついてしまっているのかもしれない。
何も言えずにいると、彼は呆れたように私の襟元を掴んだ。
「わ、私......自分で......」
か細い声で、どうか自分で帰らせてもらえないかとお願いしようとした。
少しでも彼の目に触れないように、遠くへ行きたかった。
だが、彼は私の言葉を無視して、無理やり車に押し込んだ。
車の中で、彼は臭いが気になるのか、前の窓を大きく開けたまま運転していた。
私は隅に縮こまり、風に吹かれて目がしょぼしょぼしてきた。
車窓から見える景色は、懐かしさを感じる一方で、どこかよそよそしさもあった。
3年という月日が流れていたからだ。
今、橘渉真は私を家に送ろうとしている。
でも、私に家なんてまだあるのだろうか?
両親がドアを開けて橘渉真を見たら、笑顔を浮かべた。「渉真くん、来てくれたのね!
どうぞ中へ入って、美紀が君を待っていたのよ」
母は嬉しそうに彼の手を取ろうとしたが、彼はそれをさりげなく避け、桜子を送り届けただけだと冷静に伝えた。
その瞬間、両親の笑顔が消えた。
父は眉をひそめて何か言おうとしたが、母は橘渉真を一瞥して、すぐにそれを遮るように声を張り上げた。「桜子、帰ってきたのね!」
無理やり笑顔を作り、涙を浮かべるが、その目は冷たいままだった。
橘渉真は、両親の引き止めを振り切り、そのまま帰ってしまった。
彼が去ると、父はドアを閉め、こめかみを押さえながら言った。「どうして渉真くんに迷惑をかけるんだ?」
母は苛立ちを隠せず、私に厳しい声で命じた。
「服を脱ぎなさい!そんな不吉なものを家に持ち込まないでよ!」彼女は腕を組み、私から遠ざかるように立っている。
私は服の裾を握りしめ、歯を食いしばって上着を脱いだ。
冷たい風が体に当たり、全身が震えた。寒さと屈辱で、涙が溢れそうになった。
着替えた途端、母は私にビンタを食らわせ、私はその衝撃で倒れた。「このクソ女!美紀があんたのせいで傷ついたんだからね!なのに、よくものうのうと帰ってきたわね!」
私は何とか口を開けて一番親しい家族に説明しようとしたが、声が出なかった。
美紀を傷つけたのは私じゃない。
彼女が私を誘った。
私が被害者なのに。
だけど、言葉が喉に詰まってどうしても出てこなかった。
母は何度も私を蹴りつけ、ようやく父が口を挟んだ。「まぁ、もういいだろう。帰ってきたんだし、これ以上騒ぎを起こすのもどうかと思うぞ」
母は鼻で笑い、つぶやいた。「外で死ねば良かったのに......」
私は床に丸まって、痛みがどこから来るのかも分からなくなっていた。
涙が止まらなかった。
朝、看守が「迎えが来ている」と言った時、私は両親が迎えに来てくれると思っていた。
3年間、彼らは最初の2回しか電話に出なかったし、それ以降、私を一度も訪ねてこなかった。
それでも、私は希望を捨てきれなかった。
20年以上、父と母と呼んできたのだから。
でも、本当は、彼らは私が外で死んでいた方が良かったのだ。
「死ね」という言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
唇を強く噛みしめ、血の味が広がったところでようやく我に返った。
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