爆発で私を見捨てた男が、結婚を断られたら泣いた第2話
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「理咲、いつの間に帰ってきたんだ?俺と小春は何もしてない、誤解しないでくれ!」
拓真は目を覚まして私に気づくと、慌ててベッドから飛び起き、手近にあった服を乱雑に身につけた。
騒がしさで目を覚ました小春は、眠たそうに目をこすりながら口を開いた。「私、小さい頃から雷が怖くて……雷の夜はいつも叔父に抱っこされてないと眠れないの。理咲さん、こんな些細なことで怒らないでくれるよね?」
……もう、泣きそうだった。
でも、病院を出たとき私は決めたんだ。拓真の為に、もう二度と涙は流さないって。
「怒る理由なんてないよ。大丈夫。たとえあなたたちが私の目の前で何をしようと、止めたりしないから」
そう言い残して、私は背を向けた。
これ以上ここにいたら、涙がこぼれてしまいそうで。
だけど、拓真が後ろから追いかけてきて、私の腕を乱暴に掴んだ。
「小春とはやましいことなんて何もないんだ。大人のくせに、どうしてそんなひどいこと言えるんだよ?あんなこと言われたら、小春がどれだけ傷つくか分かってるのか?謝ってきてくれ!」
私は彼の手を振り払って、感情を抑えきれず叫んだ。「左から右まで『小春がご飯を食べない』だの『小春がトラウマになる』だの……黒瀬拓真、私は二十五日間も入院して、死にかけたのよ。あなた、少しでも私のこと心配したことある?」
私の言葉に、拓真の苛立ちは気まずさに変わった。「病院に行かなかったのは、行きたくなかったわけじゃない。小春が爆発のショックでパニックになって……俺が落ち着かせなきゃいけなくて、どうしても時間が取れなかったんだ」
その一言で、私の中にくすぶっていた未練はすべて吹き飛び、残ったのは、ただただ冷めきった心だった。
胸に詰まっていた想いも、込み上げる涙も、その瞬間すべて空っぽになった。
もう何も争う必要はない。
彼がもう私を愛していない——その事実だけで、すべての答えが出ていたた。
小春が拓真を呼ぶ声がして、彼は私を一瞥したあと、眉をひそめながら一言だけ吐き捨てた。「今日のところはそれでいい。でももう二度と、小春にあんなこと言うな」それだけ言い捨てて、去っていった。
……最後まで、私のことなんて気にも留めていなかった。
「これで、ようやく吹っ切れたよね……」
私はそう呟いて、しばらくその場に立ち尽くしたあと、荷物をまとめ始めた。
身の回りのものをいくつか残して、あとはすべて捨てた。
最後に残ったのは、拓真がかつて私を想って描いてくれた何十枚もの肖像画。
あの頃、美大の友人が言っていたっけ。「この肖像画、技術はともかく、感情だけはすごいよ。私には真似できないね」
あの絵たちを見て、「この人はきっと私を本気で好きなんだ」と、そう信じていた。
私は自嘲気味に笑い、絵の入ったダンボール箱を抱えて外へ出た。そして、それに火をつけた。
ちょうどそのとき、拓真が現れた。
火に気づいて慌てて走り寄り、私を押しのけて燃えている箱の中からまだ燃え残っていた絵を取り出そうとした。熱さなんてお構いなしだった。
「な、なにやってんだよ……!」
声が震えていた。
「虫でも湧いてた」本当は「もういらない」と言いたかったけれど、口から出たのはその一言だった。
何度も何度もぶつかりあってきたこの関係、もう疲れ果てていた。
争うことすら、もうしたくなかった。
拓真は一瞬だけ躊躇ったあと、拾い上げた絵をまた火の中へ投げ込んだ。「小春、虫が大の苦手なんだ。また描いてあげるよ」
「……必要ないわ」
もう、「これから」なんて存在しない。
炎は勢いを増したあと、やがて静かに鎮まり、黒い灰だけが残った。
まるで、私と拓真の愛情のなれの果てみたいに——
【今日を含めて、あと五日】
私はその灰をゴミ箱に捨て、SNSに一言だけ投稿した。そして寝室ではなく、主寝室から一番遠い客間で眠った。
翌朝、目を覚ますと、投稿を見た知人たちからのコメントが大量に届いていた。【まさか、もう新婦気取り?】
拓真もコメントを残していた。【俺も君がウエディングドレスで俺の元へ歩いてくる日が待ち遠しい】
あんなの、愛なんて語る資格すらない最低な男よ。
あんなにも私を踏みにじった人が、まだ恋人ごっこを続けようとしている。私はもう、彼に付き合ってあげる気力すら残っていない。
誰のコメントにも返信せず、顔を洗って下に降りた。
朝食の席で、拓真が問いかけてきた。「理咲、今日の午後に婚姻届出す予定だったよね?」
たしかに、予定はそうだった。でも、もう行くつもりはなかった。
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