燃え尽きても、君を想う第3話
この話は約1662字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
琉那は水中で浮き沈みを繰り返し、大げさに騒ぎ立てて、人たちがざわめき始めた。
やがて琉那が潜ったまま浮かび上がらなくなると、誰かがプールに飛び込んだ。
大地は素早く潜り、琉那を抱きかかえて引き上げた。
美優はその光景に息を呑んだ。
大地は心配そうに琉那を地面に寝かせ、タオルをかけて人工呼吸をした。
琉那は咳き込みながら目を開き、涙を滲ませて言った。
「川村さん......長谷川さんが私たちの関係を誤解してるみたいで......さっき、ずっと私の頭を水に押しつけて、溺れさせようと......」
大地は一瞬、疑うような目で美優を見た。
その視線に、美優の胸は裂けるほど痛んだ。彼がこんな目で自分を見るのは初めてだった。
「まずは彼女を休憩室に連れて行ってやってくれ」
大地は係員に指示し、美優の方へ歩み寄った。
「美優、今日は機嫌が悪いのか? 家政婦に八つ当たりするなよ。あとで一緒にジュエリーでも見に行こう、な?」
「私は彼女を押さえつけていない」美優は驚きながら言った。
「彼女の言葉を信じて、私を信じないの?」
「信じてるさ。君は一番大切な人だ」
大地は美優の腰を抱き寄せ、唇を重ねた。
「ただ、君に笑顔でいてほしいんだ。くだらない奴のせいで気分を悪くしてほしくない。......もうやめよう。夕食を一緒に食べて、それから帰ってゆっくりしよう」
彼は頬にキスしようと顔を近づけた。
しかし美優は顔を背けた。言葉を返す前に、大地のスマホが鳴り、彼は少し距離を取って電話に出た。
女性の声が微かに聞こえた。
戻ってきた大地は、「ごめん。会社から急ぎの用件だ。少し行ってくる。君は先に帰っていて。すぐ戻るから」とお詫びした
美優は何も言わず、頷いた。
30分後、着替えを済ませた美優が休憩室を出ると、通りかかったトイレの中から物音がした。
足を止め、耳を澄ませると、大地の声が聞こえた。
「泣くなよ。あなたは俺の宝物だ。ちゃんと大事にしてるだろ? すぐ駆けつけただろう?」
琉那の声が拗ねた。
「でも、さっきは長谷川さんと長く一緒にいたじゃない。私がトイレで待ってるって電話したから、やっと来てくれたんでしょ......あっ、大地、優しくして......」
「琉那、こっち向いて......抱きしめて......」
やがてトイレから漏れる声は高まり、途中でピタリと止まった。大地が琉那の口を塞いだのだろう。
美優の顔色は真っ白になり、そのままプールを出た。
彼の裏切りはもう確信していた。それでも、こうして目の前で、耳で聞く裏切りは、心に深い裂け目を刻んだ。
涙が溢れ、降り出した雨の中を彼女は気づかぬように歩き出した。
過去の幸せな日々が美優の脳裏をよぎった。あの時、大地は999本のバラを並べて彼女の名前を形作ったのだ。
「永遠に君だけを愛する」と言い、寺で裏切り除けのお守りをペンダントにし、「これを裏切ったら、俺は死んでも死にきれない」と誓った。
今、そのお守りを握りしめ、美優は惨めに笑った。
琉那と出会った瞬間、あの誓いは消えたんだ。
涙を拭い、彼女は大急ぎでM国行きのビザを手続きに行った。
家に戻った頃には高熱で体が震え、ベッドに倒れ込んだ。
どれほど時間が過ぎたのか分からない。誰かが薬を飲ませてくれている。
目を開けると、大地がスプーンで薬を口に運んでいた。
「美優、気分はどう? ちゃんと薬飲んで、少し休めばよくなるよ」
美優はぼんやりと頷き、再び横になった。
大地はバスルームへ向かった。
ベッドに置かれた彼のスマホが鳴り、画面には琉那からのメッセージがあった。
【大地、ずっとダイニングテーブルの下で隠れてるの。早く降りてきて、服が薄くて寒いのよ】
琉那をここまで連れてきたの!?
本当に情けないやつ!
美優は眠ったふりをした。
シャワーを終えた大地がスマホを持って出て行き、ドアをカチリと鍵で閉めた。
階下から、押し殺した笑い声が聞こえた。
「別の部屋に行こう。君と離れたくないんだ......」
美優は目を開き、拳を握り締めた。
あと8日。私がここを去れば、大地は琉那と好きなだけ愛し合えるのだ。
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