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死後、私の日記を読んだ夫は壊れた第3話

この話は約1402字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

それから数日後。颯人と怜奈が慌ただしく結婚式の準備を進めるなか、颯人の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきた。

電話の相手は中年の女性だった。声は感謝で震えていた。

「榊原希さんのご家族でしょうか。宮下琴音の母です。希さんには、いくら感謝してもしきれません。角膜を提供してくださったおかげで、娘はまた光を見ることができました。家族一同、どうお礼をすればいいのか分かりません。希さんは娘の恩人です」

私は思い出していた。

事故の日、現場へ真っ先に駆けつけたのは、意外にも養父母だった。

血だまりの中で息も絶え絶えになっている私を見ても、二人は動揺も悲しみもしなかった。あるのは、ぞっとするほど露骨な欲と打算だけだった。

養母は私の耳元に顔を寄せ、冷酷な声で吐き捨てた。

「希、あんたにも少しは使い道があったね。海外の資産家が、あんたの臓器に大金を出すと言っている。だから、ここで死んでもらうよ。私たちを恨まないで。怜奈の邪魔をするために榊原家へ戻った、あんたが悪いんだから」

あの事故は、養父母と怜奈が前から仕組んでいたものだった。

そもそも、私たちは偶然取り違えられたのではない。養父母は、自分たちの娘を裕福な家で育ててもらうため、わざと私と怜奈を入れ替えたのだ。

私を殺すだけでは飽き足らず、臓器まで金に換え、その金を、怜奈が裕福な家へ嫁ぐための資金にするつもりだった。

意識が薄れていくなかで、私はもう助からないと悟った。

完全に意識を失う前に、残る力を振り絞った。以前から携帯していた臓器提供意思表示カードに、血に濡れた指でどうにか署名した。

万一に備え、前もって用意していたものだった。

自分の死が誰かの明日につながるのなら、惨めだった人生にも、最後に一つだけ意味を残せる気がした。

もちろん、颯人は何も知らなかった。

火葬炉へ送られたとき、私の体には提供できる臓器も組織も、ほとんど残っていなかったことを。

私の最後の「価値」まで他人に利用されたのに、颯人は何一つ知らず、知ろうともしなかった。

電話を握ったまま、颯人はしばらく黙り込んだ。

受話口からは、感極まった女性の声が聞こえ続けていた。その言葉が、颯人の思い込みを少しずつ崩していく。

「角膜を……提供した?」

声はかすれ、目には戸惑いが浮かんでいた。

――希が、そんなことを?

颯人にとって希は、身勝手で、性悪で、欲深く、榊原家へ戻るためなら手段を選ばない女だった。

そんな女が、見返りも求めず自分の臓器を提供するなど、信じられなかった。

電話を切った颯人の表情に、初めて怒りでも嫌悪でもない色が混じった。

困惑と、かすかな疑念だった。

すぐに森下に電話をかけた。声には、隠しきれない焦りがにじんでいた。

「希が最近何をしていたのか調べろ。特に、病院に関係することは全部だ。事故の前後の記録も、一つ残らず調べてくれ」

険しく寄った眉を見ながら、私は言葉にできない思いを抱えていた。

この愚かな男が、ようやくわずかでも真実を調べようとしていることを、喜べばいいのだろうか。

けれど、こみ上げたのは喜びよりも深い悲しみだった。

これほど時間がたっても、颯人の中の私は、怜奈の嘘で歪められた姿のままだった。

あの電話がなければ、颯人は永遠に私を思い出さなかったのだろうか。

私について、ほんの少しでも知ろうとはしなかったのだろうか。

私の死は颯人にとって、本当に厄介者から解放されただけの出来事だったらしい。

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