歪んだ愛第1話
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結婚して五年目、私はひどく愚かなことをしてしまった。
篠原清司(しのはら きよし)が最も大事にしていた情婦を海外へ追い出し、彼が心を入れ替えてくれることを期待したのだ。
けれど、それを知った彼は一言も発さなかった。
ただ一瞬で我が家を破産させ、父を跪かせ、母を一夜にして白髪になった。
そして今、彼は険しい表情を浮かべて私の前に立ち、手を上げようとしている。
「篠原悠(しのはら ゆう)、俺が甘やかしすぎたせいで、お前は分をわきまえなくなったな。生き地獄の味……今度はお前が味わう番だ」
* * *
結婚して五年目、私はひどく愚かなことをしてしまった。
篠原清司(しのはら きよし)が最も大事にしていた情婦を海外へ追い出し、彼が心を入れ替えてくれることを期待したのだ。
けれど、それを知った彼は一言も発さなかった。
ただ一瞬で我が家を破産させ、父を跪かせ、母を一夜にして白髪になった。
そして今、彼は険しい表情を浮かべて私の前に立ち、手を上げようとしている。
「篠原悠(しのはら ゆう)、俺が甘やかしすぎたせいで、お前は分をわきまえなくなったな。生き地獄の味……今度はお前が味わう番だ」
清司がその言葉を口にしたとき、私はようやく顔を上げ、彼を見た。
恋人として4年、夫婦として5年。
私たちは青春時代を一緒に過ごしてきた。
まさか、今こんな結末になるなんて思いもしなかった。
私はそっとお腹に手を当てた。妊娠して、もうすぐ3か月になる。
けれど清司は、まるで気づかないかのように、ただ陰鬱な声で詰問した。
「最後のチャンスだ。彼女はどこに隠してる?」
思わず嘲笑したくなった。
でも、人生でたった一回のわがままは、すでに家族全員の行く末を賭けてしまった。
「両親を自由にしてくれたら、教えるわ」
清司は小さく頷いた。
そしてゆっくりと歩み寄り、不意を突いて私の首を掴み、無理やり顔を上げさせた。
「悠、いい加減にしろ!澪の居場所なんて、いずれ分かる。お前に条件を出す資格なんてないよ」
激しい息苦しさに、思わずえずいた。顔は真っ赤になり、血管が浮き上がる。
歯を食いしばったまま、突如襲った恐怖と絶望に全身が鳥肌立った。それでも必死に叫ぶ。
「それで……それで父に、あんたに跪けって言うのか!?それは私の父よ!」
清司は表情ひとつ変えず、信じられないほどの力で私を締め上げ続けた。
涙が溢れ、私は彼の目を睨みつける。
それは暗く、そして狂気を孕んだ瞳。
――この人は、他の女のためなら、私を殺すことも厭わないのだ。
窒息しかけたその時、彼はふいに手を放した。
私は大きく息を吸い込み、恐怖で体が震え、ソファに身を縮める。
ほんの一瞬の間に、これまでの記憶が脳裏を駆け巡った。
堪えきれず、声を上げて泣き出した。
戻れない過去のために、この絶望的な結婚のために、そして今の自分の哀れさのために。
清司は、そんな私を冷ややかに見下ろし、何の感情も示さなかった。
彼は一息つく間も与えず、再び私の顎を掴み、底冷えするような声で言った。
「もう一度だけ聞く。お前は俺の澪をどこに隠してる?」
……
その後、清司は私の口から得た情報を手に、迷うことなく駆け出していった。
あの瞬間、彼の顔に浮かんだ――安堵と喜びを、私ははっきり見た。
私の夫は、もう完全に他の女に狂わされている。
私は涙を拭い、すぐに両親へ連絡し、今夜中に引っ越す準備を始めた。
叱られると思っていた父、周藤正夫(すどう まさお)は、ただ私を慰め、年老いた声を震わせながら言った。
「悠、今までよく耐えたな。お父さんは責めないよ。一緒に出て行こう」
電話を切った後、罪悪感と絶望が私を押し流した。
大学時代、私は清司と恋に落ち、卒業と同時に結婚した。
篠原家は大きな財閥で、こんな家と縁を結ぶなど、父にとっては夢のまた夢だった。
もちろん、父にも迷いはあった。私が結婚後につらい目に遭うのではないかと、心配だった。
なぜなら、実家はごく普通の家庭で、私の後ろ盾になれないのだ。
それでもあの時の私は、胸を張って父に言った――
清司は私を愛している、決して傷つけたりはしない、と。
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