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振り返るなというゲーム中、彼氏は親友とキスしていた第1話

この話は約2741字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私――桐生寧々(きりゅう ねね)は生まれつきの負けず嫌いで、勝負事となれば必ず一番を取らないと気が済まない。

だからクルーザーの上で、誰かが『決して振り返らないチャレンジ』をやろうと言い出した時も、周りは皆笑いながら「寧々の勝ちで決まりだな」とはやし立てた。

ルールは、その場にじっと立ったまま、何があっても後ろを振り返らないこと。振り返った時点で負けだ。

私の背後には彼氏の深沢研吾(ふかざわ けんご)と親友の浅井茉白(あさい ましろ)が立ち、兄の桐生豪(きりゅう ごう)が私をあの手この手で騙して振り返らせる役回りを引き受けた。

ゲームが始まって間もなく、豪が唐突に声を張り上げた。

「寧々、研吾が茉白の手を握ったぞ」

私が瞬き一つせず前を見据えているのを見て、豪はまた笑った。

「本当に振り返らなくていいのか?あいつら、抱き合ってるぞ」

私はそれでも微動だにしなかった。豪が、どこか引きつった声で口を開くまでは。

「寧々……あいつら、キスしてるぞ」

私を振り返らせるための茶番だと分かっていたはずなのに、私は振り返ってしまった。

だが、研吾は俯き、茉白は顔を仰がせて、二人は本当に唇を重ねていた。

頭が真っ白になり、私は足早に歩み寄って研吾の頬を思い切り平手打ちした。

茉白の瞳は一瞬で潤み、研吾も長いこと押し黙ったままだった。

長い沈黙を破り、ようやく口を開いたのは豪だった。

「寧々、二人ともほんの一時の気の迷いだって。

それに……お前は勝つためなら絶対振り返らないと思ってたからさ。まさか本当に振り返るなんて思わなかったんだよ」

茉白がそこでようやく、おずおずと口を開いた。

「寧々、もう隠したくないの。研吾は昔、4年間ずっと私を追いかけてくれていたの。私たちはただ、大学の4年間を後悔として残したくなかっただけで……」

研吾が大学時代、ある女性を4年間一途に追いかけていたことなら、私もずっと前から知っていた。

その4年間、彼がその女性のために泥酔する姿を見てきたし、一緒に「その女は見る目がない」と悪態をついたことだってあった。

けれど、まさかその女性が、私の親友である茉白だったなんて夢にも思わなかった。

周りの人間は全員、その事実を知っていたのだ。

ただ一人、私だけがピエロのようにずっと騙され続けていた。

* * *

甲板の上は、寄せては返す波の音しか聞こえないほど静まり返っていた。

私の冷たい視線を浴びても、研吾は黙りこくったままだ。先に口を開いたのは、やはり茉白のほうだった。

「寧々、ごめんなさい。私、昔……確かに研吾のことが好きだった時期があったの」

私は鼻で笑った。

「なら、どうして彼と付き合わなかったの?」

「釣り合わないからよ。深沢家がどんな家柄で、私の実家がどういう状況か、あなただって知っているでしょう?」

豪がかばい立てするように割って入った。

「茉白はその当時、自分が研吾に釣り合わないって思い詰めてたんだよ。だから研吾が4年間アプローチしても、最後まで首を縦に振らなかったんだ」

実の兄でありながら、豪はずっと茉白の存在を知っていたのだ。

研吾が一番必死に彼女を追いかけていた頃、豪は彼にプライベートジェットを用立ててやり、有名アーティストを招いて専用のシークレットライブまで開いてやった。

この大掛かりな口説き劇の蚊帳の外に置かれていたのは、私だけだった。

私は自分の兄、婚約者、そして親友をゆっくりと見渡した。

「面白かった?私が何も知らず、ピエロみたいに的外れな悪態をついていたのを、どんな顔で見てたの?」

私の放つ威圧感に、豪は口ごもったものの、それ以上何も言えなくなった。

私は研吾に向き直った。

「答えてよ。すごく面白かったんでしょう?」

研吾がようやく重い口を開いた。

「寧々、俺たちが付き合い始めてからは、俺と茉白の間には何もない。

それに、俺とあいつじゃ家柄が違いすぎて一緒になれるわけがないんだ。さっきのは、ほんの一時の気の迷いでキスしただけだ。

両家の顔に泥を塗って、これ以上事を荒立てる気か?」

豪も頷き、無意識のうちに研吾と茉白の隣に並んだ。

かつては仲の良い4人組だと思い込んでいたのに、今や彼ら3人が肩を並べて立ち、私1人だけがその対岸で冷ややかに孤立していた。

背後から足音が響き、私の両親と研吾の両親が2階のサロンから下りてきた。

このクルーザーは深沢家の所有物で、今回のクルージングには乗組員を除けば両家の人間しか乗っていない。

私の母は、研吾の頬にくっきりと残る平手打ちの痕を見るや否や、早足で駆け寄って私を背後にかばった。

「寧々、研吾に何か酷いことされたの?」

「こいつ、さっき茉白とキスしてたの」

母の表情がぴたりと凍りついた。私は母が怒り狂うのを待っていた。

しかし母は、振り返って父と視線を交わしただけだった。

「お母さん……?まさか、お母さんたちも知ってたの?」

私は弾かれたように、母に握られていた自分の手を引き抜いた。

「寧々、落ち着きなさい。実は大学時代、研吾がうちに来てね、女の子はどういうものを喜ぶのかって、私に何度か相談してきたことがあったのよ」

母は私のただならぬ顔色を見て、耳元の乱れた髪をそっと整えた。

「でもその後、あなたが茉白とあんなに親しくなったでしょう?蒸し返したら、かえって皆が気まずくなると思ったのよ。どうせ研吾は卒業後、あなたを選んで婚約したんだから。もう細かいことに目くじらを立てないでちょうだい」

父も威厳を込めて淡々と言い放った。

「桐生家と深沢家は長年の付き合いで、事業でも深く提携している。お前と研吾も幼馴染だろう。こんな些細な意地の張り合いで、大騒ぎするんじゃない」

私が黙り込んでいると、今度は研吾の母が歩み寄って私の手を握った。

「寧々、結婚というのは当人同士の恋愛ごっこではなく、家と家との結びつきなのよ」

研吾の父も重々しく眉をひそめ、言い聞かせるように口を開いた。

「寧々、男という生き物は、若い頃には火遊びのひとつやふたつするものだ。だが、いざ所帯を持てば必ず家庭に戻ってくる。お前たちのような家柄に生まれた以上、個人の好き嫌いだけで人生を決められないことなど、とうに承知のはずだろう」

私はそれ以上一言も発さず、背を向けて船室へと足早に戻った。

中に入ると内側から鍵をかけ、外からどれほど扉を叩かれても一切応じなかった。

だがしばらくすると、ノックの音すらあっけなく途絶えた。

30分後、ドアの外から豪の潜めた声が聞こえてきた。

「研吾、本当に寧々の様子を見に行かなくていいのか?」

続いて、研吾の冷めた声が返ってきた。

「放っておけ。あいつは昔からそうだ、何でも一番じゃないと気が済まない。今日はゲームで負けた上に、昔の話をいきなり知って、プライドが受け止めきれないだけだ」

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