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愛娘を殺したクズ夫。後悔して泣き叫んでも遅い第2話

この話は約1992字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

看護師は同情するように紬を一瞥し、手術室の片付けを始めた。そして、子供を亡くしたばかりの母親に気を遣い、静かに病室を後にした。

手術室のドアが閉まった瞬間、紬は力が抜けたようにその場へへたり込んだ。瞳には、光がなくなっていった。

生まれたばかりの小さな葵の姿、初めて「ママ」と呼んでくれた瞬間、初めて自分の足で立ち上がった時のあの笑顔……

脳裏を駆け巡る思い出の最後の光景は、手術台の上で、冷たくなった葵の顔だった。

苦しくて叫び出したいくらいなのに、どうしてか涙は一滴もこぼれなかった。

どれほどの時間が経っただろう。紬はゆっくりと立ち上がると、生まれたばかりの葵を寝かす時と同じようにその体を優しく抱きかかえ、ゆっくりと揺らした。

「葵、ママがここから連れて帰ってあげるからね」

両足は鉛のように重く、一歩踏み出すことさえ簡単ではなかった。

なんとか手術室を出た後、満面の笑みを浮かべた正人がやってきた。

「紬、啓太は無事に手術室から出てきたよ。葵の様子を見に来たんだ」

無事、だと?

紬は唇を噛みしめ、呼吸すらうまくできなくなった。

その隠し子の命は、葵の命を犠牲にして助かったのに……

「葵は、彼女を大切にしない父親なんていらないわ」

正人は驚き、さきほどの笑顔がこわばった。

「何を言ってるんだ、紬。葵が大切じゃないなんて……葵は俺の宝物で、命をかけてでも守りたいお姫様なんだぞ。

もしできるなら、葵のすべての苦しみは俺が代わって受けてやりたいくらいだ。葵には何事もなく幸せに育ってほしいと願っているからね」

正人の言葉や真剣な表情は、娘を愛してやまない良き父親そのものだった。

しかしその言葉を聞いた紬は、思わず声を出して笑った。そして言いようのない悲しみに襲われた。

正人、葵の人生で一番の苦しみを与えたのは、あなたじゃないの?

「あらそう?葵を愛しているのなら、なぜ手術台に乗せたりできるの?葵は……」

葵は死ぬ直前、自分が何か悪いことをしたから病院に送られたのだと思い込み、「ごめんなさい」って謝っていたよ。

残りの言葉は喉に詰まり、どうしてもうまく言えなかった。

紬の真っ赤に充血した瞳を見て、正人は申し訳なさそうに口ごもった。

「こんなことはもう二度とないと誓う。啓太の命は本当に危ない状態だったんだ。それに、二人だって血のつながりがある兄妹……」

ますます青ざめていく紬の表情を見て、正人はとっさに話題をそらした。

「麻酔がまだ切れないのか?俺が病室まで運ぼう。目を覚ますまでずっと傍にいよう」

紬は葵を抱きしめる手に力を込めた。息もできないくらい、全身が悲しみに押しつぶされそうになった。

目を覚ます?

正人はまだ知らない。葵はもう、二度と目を覚まさない。

正人が葵の体に触れようとしたその時、一人のボディーガードが駆けつけてきた。

「社長!啓太様が目を覚まして、社長に会いたいと泣き喚いています。もし会えないなら病院から出ていくと騒いでおり、山口さんでも止められていません!」

「あの子、手術が終わったばかりだというのに、なんて無茶なことを!」口では叱りつつも、その眉間には明らかな焦りが見える。

結局正人は葵の様子を確認することなく、ただ申し訳なさそうに紬の顔を見た。

「紬、葵を頼んでいいか?啓太を落ち着かせたらすぐに戻ってくるから」

「正人」紬は極めて冷静な声で言った。「これが最後よ」

このまま行ってしまったら、この一生、もう葵と会えるチャンスなんて二度と訪れない。

正人は、自分の行いを許されたのだと思い込み、どこか安堵した表情を浮かべた。

「啓太が回復して退院したら、お前たちをしっかりと時間を割こう。前と同じ、幸せな生活が待ってるんだからな」

紬は葵を抱いたまま、早足で立ち去る背中を見送った。紬は、冷たい自嘲の笑みを浮かべた。

かつての幸せな生活なんて、もう過去にしか存在しないものよ。

……

紬は葵の小さな体を抱え、葬儀場へと向かった。

小さな体の一部が、白くて軽い灰へと変わっていく光景を、最後まで瞬きもせず見届けた。

その間、紬は相変わらず涙が出ず、まるで魂が抜けた人形のようだった。

葵の遺灰を受け取り、それを首飾りに加工して、肌身離さず身につけることにした。

葵は暗くて冷たい場所に閉じ込められるより、自分のそばにいたいに決まっているから。

気持ちを落ち着かせると、紬はまっすぐ法律事務所へと足を向けた。

「5年前の、あの離婚届をください」

正人と美羽の関係がバレたその翌日、正人自ら署名し、紬の面前に突きつけたあの離婚届だ。

正人は言った。「紬、もし俺が二度とお前を裏切ったら、これにサインして離婚してくれ。もう俺から離れるんだ!」

紬はてっきり、この離婚届を使う日なんて永遠に来ないものだと思っていた。

まさかこんなに早く、この離婚届が役に立つなんて思ってもみなかった。

紬は離婚届を受け取り、一画一画、力を入れて名前を書き連ねた。

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