愛人のために、娘を見捨てたあなたをもう許さない第1話
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5歳の娘・一ノ瀬桃子(いちのせ ももこ)は、二度目の骨髄移植に耐えきれず、静かに息を引き取った。
「お父様にも、最後のお別れをなさいますか?」
斎場の職員が丁寧に尋ねてくれた。
一ノ瀬陽菜(いちのせ はるな)は涙で滲む目を伏せ、そっと首を横に振った。この1年、誰もが羨むような完璧な夫・一ノ瀬京介(いちのせ きょうすけ)が、桃子を救うため、何度もある女子大生のもとへ頼みに行っていたことを思い出すと、胸が締めつけられる。
もし桃子の死を知ったら、彼は立ち直れなくなるかもしれない。
だから今は、まだ伝えないでおくことにした。
陽菜が桃子の遺骨を抱えながら斎場を後にした時、骨髄を提供してくれた女子大学生に、ある絵を渡してほしいという、桃子の最期の言葉を思い出す。
そして陽菜は、京介から聞いた住所を頼りにマンションを訪ねた。だが、その信じがたい光景に、彼女はその場で立ち尽くした。
窓越しに見える部屋の中で、その女子大生と唇を重ね合っていた男。それは紛れもなく、自分の夫だった……
* * *
5歳の娘・一ノ瀬桃子(いちのせ ももこ)は、二度目の骨髄移植に耐えきれず、静かに息を引き取った。
「お父様にも、最後のお別れをなさいますか?」
斎場の職員が丁寧に尋ねてくれた。
一ノ瀬陽菜(いちのせ はるな)は涙で滲む目を伏せ、そっと首を横に振ったが、こぼれ落ちる涙はどうにも止まらなかった。
この1年、誰もが羨むような完璧な夫・一ノ瀬京介(いちのせ きょうすけ)が、桃子を救うため、何度もある女子大生のもとへ頼みに行っていたことを思い出すと、胸が締めつけられる。
京介は誰よりも桃子を大切にしていた。もし桃子の死を知ったら、立ち直れなくなるかもしれない。
だから今は、まだ伝えないでおくことにした。
陽菜は安らかに眠る桃子の顔を目に焼き付ける。そして、柔らかな頬をそっと撫でながら、震える声で告げた。
「火葬をお願いします」
……
陽菜は桃子の遺骨を抱えながら斎場を後にした時、彼女の最期の言葉を思い出す。
「お母さん、骨髄を提供してくれたお姉ちゃんにお礼がしたいの。代わりにこの絵を渡してくれない?」
桃子が病気になってから、ずっと京介がその女子大生と連絡を取っていた。
でも桃子はもうこの世にいない。だからこそ、このお礼だけは自分の手で届けたかった。
そして陽菜は、京介から聞いていた住所を頼りにマンションを訪ねた。部屋番号に間違いがないことを何度も確認し、目の前に広がる信じがたい光景に、彼女はその場で立ち尽くした。
窓越しに見える部屋の中で、その女子大生と唇を重ね合わせていた男。それは紛れもなく、自分の夫だった。
唇が離れると、女子大生・篠原美羽(しのはら みう)は京介の胸にもたれながら、目を潤ませ、自分を責めるように呟いた。
「京介さん、私が痛がるから二回目の骨髄提供をやめたこと、もし陽菜さんに知られたら、恨まれたりしませんか?」
京介は優しく彼女の顔を指先でなぞり、甘い言葉を囁く。
「大丈夫だよ。俺たちは桃子をこれ以上苦しませたくなかっただけ。むしろ感謝されてもいいくらいだろ?それより……一回目の骨髄提供の後、キスしてくれなきゃ痛いの治らないって、俺に甘えてきたのは誰だ?」
美羽は頬を赤く染め、ふいに涙をこぼした。
「京介さん、桃子ちゃんは大丈夫でしょうか?一度会いに行ってあげてください。それに……私たち、このままじゃいけません。もう終わりにしましょう」
そう言って距離を取ろうとした彼女を、京介は強引に引き寄せた。「バカなことを言うな。俺の心の中には、君しかいないんだ」
「奥さんがいるのに……」
美羽は照れくさそうに彼の胸を軽く叩き、頬を真っ赤に染めた。
京介は彼女の顎をそっと持ち上げ、熱を帯びた目で見つめた。「あれだけ俺に甘えておいて、今さら他人のふりするのか?」
美羽は途端に態度を和らげ、甘えるように京介の胸へ身を寄せた。「いじわる……」
京介は小さく笑いながら、視線を彼女の唇へ落とす。「じゃあ、ちゃんと埋め合わせしてもらわないとな」
美羽は背伸びして彼の唇にそっと口づけると、急に慌てて身体を離した。「桃子ちゃんの治療をお願いしに来たはずなのに……こんなの、変ですよ」
京介は怒るどころか、ネクタイを緩め、一歩ずつ距離を詰めていく。
「変でも構わない。俺は、美羽がかわいくてしかたないんだ。だから……今日は楽しませてくれ」
陽菜はその光景を見て、骨壺を抱えながら震えていた。
ふいに、桃子が白血病と診断された日の記憶が蘇る。京介は神前に膝をつき、血走った目で叫んでいた。
「罰するなら俺にしろ!なぜ桃子なんだ!まだ5歳なんだぞ!」
しかし、身を削るような思いで祈り続けていたあの男が、今治療の最前線でドナーと互いを求め合っている。
あまつさえ、愛人が傷つくことを優先し、手術台で苦しみながら命を落としていく実の娘のことさえ、顧みようとしなかったのだ。
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