愛は、行き違いの果てに第1話
この話は約2212字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
私と夫の木村貞吾(きむら ていご)が帰国して最初に顔を合わせた場所は、役所の前だった。
彼はセダンのそばにもたれ、不機嫌そうに一本タバコに火をつけた。
「そこまでじゃないだろ。お前の親友と一度遊びに行っただけで、離婚するって?
それに、お前のためにプレゼントを選んでもらっただけだぞ。そんなに心が狭くていいのか?」
私は聞こえないふりをして、淡々と「中に入ろう」とだけ言った。
翌日の夜、私は貞吾が親友を抱き寄せ、冗談交じりに笑っているのを目にした。
「貞吾さん、美羽(みう)の友達とこんなことして、美羽は平気なの?」
貞吾は自信満々で、「あいつは俺をあんなに愛してるんだ。いずれ受け入れるさ」と言った。
彼が、私が別の人のためにウェディングドレスを着せているのを見て、ようやく気づいた。
私が望まないことに、どんなことがあっても妥協することはないのだ。
* * *
私と夫の木村貞吾(きむら ていご)が帰国して最初に顔を合わせた場所は、役所の前だった。
彼はセダンのそばにもたれ、不機嫌そうに一本タバコに火をつけた。
「そこまでじゃないだろ。お前の親友と一度遊びに行っただけで、離婚するって?
それに、お前のためにプレゼントを選んでもらっただけだぞ。そんなに心が狭くていいのか?」
私は聞こえないふりをして、淡々と「中に入ろう」とだけ言った。
翌日の夜、私は貞吾が親友を抱き寄せ、冗談交じりに笑っているのを目にした。
「貞吾さん、美羽(みう)の友達とこんなことして、美羽は平気なの?」
貞吾は自信満々で、「あいつは俺をあんなに愛してるんだ。いずれ受け入れるさ」と言った。
彼が、私が別の人のためにウェディングドレスを着せているのを見て、ようやく気づいた。
私が望まないことに、どんなことがあっても妥協することはないのだ。
……
「お二人、本当に離婚されますか?もう一度よく話し合われなくていいんですか?」
「必要ない、こいつがわがままを言うなら、聞いてやろう」
貞吾はそう言い終えると、こちらを睨みつけるように見て、断固とした口調で言った。
「わがままを言って、大切なものを失って初めて後悔する。そうだろ?」
私は答えず、落ち着いて戸籍謄本を職員に差し出した。
「お願いします」
職員はそれ以上何も聞かず、手続きを素早く終えた。
離婚届受理証明書を受け取ると、私は大きくため息をついた。
「これで満足か?」
貞吾はからかうように私を見つめた。
「お前がもうすぐ出演するあのドラマ、俺が投資してるんだぞ。
こんな些細なことで離婚して、他人に得をさせてもいいのか?」
そう言って、彼は入口で待っていた親友の篠川玲奈(しのがわ れいな)に視線を向けた。
私の胸の奥から強烈な吐き気がこみ上げた。
二人を一目も見たくなくて、私は足早に車の方へ向かった。
車のドアを開けたところ、乱暴に押し戻された。
貞吾は私を車のドアに押しつけ、ゆっくりと耳元に近づいた。
低い声には、歯を食いしばるような怒りが滲んでいた。
「ただの一つのバッグだろ?お前の欲しいもの、何でもあげただろ?
こんな小さなことで離婚まで騒ぐのか?俺にだって我慢の限界はある」
我慢?彼は我慢の限界なら、私はどうなるの?
私は貞吾と結婚して六年になるが、そのうち彼は三年ほど海外交流に行っていた。
私はずっと彼を信じていた。
何しろ、異国にいながら三年間、絶えず私にプレゼントや絵はがきを送り続けるなんて、誰にでもできることじゃないと思っていたからだ。
でも、こっそり彼のもとを訪れ、引き出し一杯のホテルのレシートを目にしたとき、私は初めて知った。海外交流の三年間、彼と親友が私を裏切っていたのだ。
私は二人が高級ブランド店に入っていくのを、この目で見た。
玲奈は適当に二つ選び、貞吾に尋ねた。
「いつも通り?」
「うん、お前が選ばなかった分を美羽に送って、ついでに絵はがきも書いてくれ」
玲奈は得意げな目つきで貞吾の耳元に近づき、何かを囁いた。
貞吾は表情を変えなかったが、視線が一瞬暗くなった。
彼は強く玲奈の腰を抱き寄せた。
「小悪魔だな。帰ったらたっぷり可愛がってやる」
玲奈は艶っぽく笑い、貞吾の首筋に腕を回した。
次の瞬間、二人は少し離れた場所にいる私に気づいた。
私が帰ってから、どうやって崩壊寸前の自分を立て直したのか、誰も知らない。
私は何晩も眠れず、このことを思い出すたびに泣いた。
三百枚の絵はがき、すべて貞吾と玲奈が一緒に書いていたものだった。
あの三年間の贈り物は、傲慢な彼ら二人が私に恵んだ施しにすぎなかった。
彼らは私を何だと思っていたの?
私を騙して面白がっているの?それとも、ただその「プレイ」の道具扱いなの?
貞吾は何度も電話をかけてきて、誤解だと説明した。
私は取り合わなかった。しかし、彼はまだ、私がただ二人が一緒に出かけているのを見ただけだと、都合よく思い込んでいた。
やがて彼は不機嫌になり、メッセージを送ってきた。
【プレゼント選びを手伝ってもらっただけだろ?親切にしてくれた人にお礼でバッグを贈って何が悪い?】
【美羽、お前を甘やかしすぎたようだな。さもないと、こんな態度を取らなかった】
【これは猜疑性だ。お前は病気だってわかってるか?医者に行くべきだ】
彼のメッセージを見ているうちに、私は次第に、彼によって自分の価値を踏みにじられていくのを感じた。
心もまた、少しずつ冷えていった。
涙を拭い、私は一文字一文字噛みしめるように打ち込んだ。
【帰ってきたら、離婚しよう】
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)