愛してるなんて言わないで第2話
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そうだ、この四年間、明は私を完全に手中にしていたと、そう思った。
妊娠がわかった時、ほんの一瞬、嬉しかった。でも、現実を思い知らされた。私の家は貧乏だったから。
「金の切れ目が縁の切れ目」って、物心つく前から、両親が金のことで繰り返す喧嘩ばかり聞かされて育ってきた。
学費に食費、そして服代……生きるのにも何かにつけて金がかかる。金がなければ、何もできないんだ。
それでも、こっそり願っていた。明ももしかしたら……この子を喜んでくれるんじゃないかって。
だから、万に一つも可能性がなくたって、この気持ちだけは伝えたいんだ。
あの時、明は一瞬、硬直した。じっとこちらを見つめ、眉をひそめ、目にわずかな疑念がよぎた。
だが、それは一瞬だけ。すぐに彼は何もなかったようにそっと私を抱き、ソファに寄り添わせた。甘やかすような声で囁いた。「そうか。でも、ずっと薬は飲んでたはずだろ?どうして孕めちゃったんだ?」
幸せのど真ん中にいた私は、明の怪しむ口調に微塵も気づかず、軽い調子で答えた。「自分でもよく分かんないの。うっかり飲み忘れちゃったのかも」
無意識にお腹を撫でながら、彼の胸にすり寄った。無自覚な期待と幸せを滲ませ、続けて尋ねた。「ねぇ……この子、産んでみない?」
明がゴムを嫌がるから、初めての夜から私にピルを飲むように頼んだ。最初は体に悪いからと嫌がった私に、彼は「絶対に大丈夫」と誓い、メリットをいくつも挙げて説得してきた。
結局、飴と鞭を使い、ねちねちとせがむ彼に、あの辛そうな顔を見せられて、私はしぶしぶ承知するしかなかった。
「ああ、そう?」明の手がぼんやりと私の背中を軽く叩く。彼の考える時の癖だ。
「どうしようかな。俺もこの子はもちろん欲しいけど、俺の中では夕恵ちゃんもまだ子供だよ?今は二人きりの時間を楽しんで、夕恵ちゃんをいっぱい甘やかしたいだけなんだ」
彼は深刻そうに眉を寄せ、顔を近づけて、いつもの不真面目な笑顔でからかった。
「一回堕ろさない?夕恵ちゃん、将来結婚したら、また俺の子供いっぱい産んでくれるよな?
あと二、三年は、二人だけで過ごそう、いいだろ?」
彼は相変わらずに眉を上げ、口元をニヤリとゆがめて、考え込む私をソファの上で軽くひっくり返し、陽気に覆い被さってきた。
子供は堕ろしたくない。彼の言葉に胸がじんと痛んだ。顔を上げ、どうにか説得できないかと考えた瞬間、ふと彼の瞳にあるものを認めた――普段の不真面目さの裏に、一瞬、紛れもない本気の色がのぞいた。私は咄嗟に言葉を飲み込み、込み上げてくる想いを必死に押し殺して、こう答えた。
「うん、実は私もこの子は要らないと思ってたの」
そうを聞いた瞬間、彼の張りつめていた表情がかすかに緩むのがわかった。それを見て、私の心臓は無数の細い針で刺すように、ちくりちくりとした痛みに包まれた。
明が立ち上がろうとした時、私は慌ててその袖をつかみ、小さな声で頼んだ。「ねえ、明日病院に一緒に来てくれない?」
明は悪戯っぽく私の顎をつまみ、からかうような軽い口調で探りを入れてきた。「夕恵ちゃん、まさか俺の金目当てじゃないよな?付き合い始めの頃は、デート費も俺に一切出させねえって、強気だったくせに」
私は彼の不信感に満ちた視線に押され、必死に否定した。「ち、違う、お金じゃなくて、ただ……」
彼は私の言い訳を最後まで聞き入れず、遮るように言い放った。「なら、一人で堕ろしにいけよ。そうすれば信じてやる」
そう言い残すと、彼は私の顎から指を離し、口元にささやかなキスを落とした。そして、細長い指で丁寧にワイシャツのボタンを掛けていった。
「よし、夕恵ちゃん、俺用事ができたから出かけるよ。二、三日戻らないから、手術が終わったら電話してくれ。迎えに行くから」
明が去った。私は両親に打ち明ける勇気がなかった。
手術費用を稼ぐため、時給千円のアルバイトを見つけ、貯めていたお金と合わせて、やっと必要な金額を用意した。
恐怖と周りの好奇の目を必死に無視し、緊張しながら手術を受けた私は、真っ先に明に電話した。だが、彼は出なかった。
SNSで明がこの店にいることを知り、手術直後の身体の不調を押して駆けつけたのに、まさかあんな言葉を耳にするとは思わなかった。
呆然とその場に立ち尽くし、お腹がちくちくと疼くのを感じ、無意識に入り口のドアハンドルを握りしめた。
携帯のバイブ音で我に返ると、慌てて涙を拭い、一目散に逃げ出した。
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