愛された代償は傷跡だけ第3話
この話は約1699字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
北都の毅然とした口調により、場の空気は一気に氷点下まで冷え込んだ。
以前の紅那であれば、自分が損をしてでも場を和ませようとしただろう。
だが今の彼女は、ただその場に立ち尽くし、冷ややかな目ですべてを見ていた。
長浜母には娘がいたが、北都という一人息子しかおらず、結局は折れ、孫に紅那へ謝罪させた。
食卓では、長浜母が北都の皿に次々と料理を取り分けていた。
「北都、また痩せたんじゃない?もっと食べなさいよ」
そう言いながら、紅那を睨みつける。
「嫁に来たからには、社交も家事もちゃんとできなきゃダメよ。社交がダメなら、せめて旦那の胃袋くらい掴まないと」
紅那は無理に食べ物を噛み、飲み込んだ。
「新しく雇った家政婦の料理がすごく美味しくて、北都はとても気に入ってるわ」
長浜母は不機嫌そうに言った。
「家政婦は所詮家政婦よ。長浜奥様じゃないの。北都の妻として、それくらい自分でやりなさい」
紅那は何も言わず、ただうっすらと笑った。
もしかしたら、自分はもうすぐ長浜奥様じゃなくなるのかもしれない。
北都が口を開き、会話を遮った。
「また始まったかよ......このままじゃ飯がまずくなるだろ」
長浜母はすぐに黙り込んだ。
「わかったわよ、もう黙るわ。食べましょ」
やっと静かになった食卓。
だが、北都のスマホが何度も震えた。
紅那は視線をそらさず、横目で画面を盗み見た。
ちょうど葉月からのメッセージが映っていた。
【旦那様、熱が出ちゃいました......でも、熱がある女の子の中も熱いって聞きますよ?試してみます?】
その下には、露出の激しい下着姿の自撮りが添えられていた。
北都は一瞬で顔を赤らめ、慌ててスマホを閉じた。
あまりの慌てぶりに、長浜母でさえ異変に気づいた。
「北都、どうかしたの?」
北都はすぐに立ち上がって言った。
「急に会社で問題が起きて......処理してくるよ」
彼は紅那の方を振り返る。
「紅那、戻るの遅くなるかもしれない。先に休んでて」
返事を待たず、彼は足早に家を出て行った。
彼が去った後、紅那も長浜母たちの顔をこれ以上見たくなかった。
席を立ち、帰ろうとした。
だが、長浜母がテーブルを叩き、大声を上げた。
「私がまだ席にいるのに、先に立つなんて、まったく礼儀がなってないわ!」
怒鳴り声が響く中、長浜母は叫んだ。
「鈴木さん、山口さん!彼女を屋根裏部屋に閉じ込めておきなさい。礼儀ってもんを教えてあげるわ!」
紅那は抵抗した。
「何の権利があってそんなことをするの?これは違法監禁よ」
長浜母は冷笑した。
「笑わせないで。姑が嫁を躾けるのは当然のことよ」
二人の年配の使用人に腕を取られ、紅那は無理やり屋根裏に押し込まれた。
真っ暗な空間の中、彼女の心臓は早鐘のように打ち、体は小刻みに震えた。
彼女には閉所恐怖症があった。
息ができないような圧迫感と死の恐怖が、波のように押し寄せてくる。
漆黒の闇は、まるで彼女を丸ごと飲み込もうとする怪物のようだった。
彼女は何度も扉を叩き、北都の名前を叫び続けた。
高校の頃、同級生の悪ふざけで彼女は物置に閉じ込められたことがあった。
そのときも、今と同じような恐怖に襲われた。
彼女を救ってくれたのは北都だった。
彼は扉を蹴破って彼女のもとへ駆けつけた。
光が彼とともに差し込み、それは彼女の心にも差し込む光となった。
それ以来、彼は彼女の救いとなり、彼女は彼を愛し、すべてを捧げる覚悟をした。
たとえ命さえも。
だが今、どれだけ声を枯らしても、北都は現れなかった。
代わりに来たのは冷たい水の入った洗面器だった。
山口がそれを手に持ち、睨みつけながら言った。
「奥様、大人しくしてください。これ以上騒ぐなら、次は手加減しませんよ」
全身ずぶ濡れのまま、紅那は一晩中、屋根裏に閉じ込められた。
そして翌朝、北都がようやく慌てて扉を開け、中で床に縮こまっていた紅那を抱き上げた。
「紅那、ごめん......遅くなってしまって......」
かつて彼女が救いだと信じていたその抱擁は、今では息苦しさと痛みしか与えてくれなかった。
紅那は彼の腕を振り払い、立ち上がって扉の方へ向かった。
そして、玄関を出た瞬間、視界が真っ暗になり、そのまま倒れ込んだ。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R37574- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。