後悔しないように第3話
この話は約1438字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「さっさとこっちに来て梨乃に謝れ!
お前のせいで梨乃は人生めちゃくちゃなのに、自分だけのうのうと幸せな家庭に収まってやがるのか?
これから梨乃はどうやって生きていけばいいんだ!」
兄が大股で迫ってくる。
私は恐怖で瞳孔が収縮するが、逃げ場などどこにもない。
彼は私の腕を掴むと、乱暴にベッドから引きずり下ろした。
全身が悲鳴を上げている。
「兄さん、離して、痛いよ……」
涙が勝手に溢れ出した。
「兄さんと呼ぶな。お前のような妹を持った覚えはない。梨乃が俺の妹だったらどれほどよかったか」
悟の手の力が強まる。手首の骨が砕けそうだ。
彼は私を梨乃の前まで引きずっていくと、髪を鷲掴みにし、そのまま私の顔を床に押し付けた。
「土下座が好きだったろ?情けない奴だ。なら、梨乃に向かってきっちり九十九回、ゴツンと音が鳴るほど強く頭を打ち付けて詫びろ」
兄の口調はあまりに軽く、まるで些細な雑用でも命じるかのようだった。
息子の蓮が梨乃に寄り添い、真っ赤な目で私を睨む。
「梨乃さん、悲しまないで。僕が梨乃さんの息子になるから。あんなママ、僕もいらないの!
僕がママの代わりに、梨乃さんを幸せにするよ」
蓮は必死に顔を上げ、梨乃に媚びるような表情を向けていた。
私は自嘲気味に笑うしかなかった。これが、私の家族なのか。
「そう、なら彼女を家族にすればいい。私たちはもう赤の他人よ」
和也と離婚したい。もう二度と、彼らとは関わりたくない。
けれど、私にまだその時間は残されているのだろうか……
「まだ反省しないのか!この恥さらしが!どこまで悪事を働けば気が済むんだ!」
兄の蹴りが脇腹に突き刺さる。
激痛に息を呑み、激しく咳き込むと、口の中に血の味が広がった。
「被害者ぶって逃げられると思うなよ。早く叩け」
悟は私の異変に気づかない。
彼は私を死に物狂いで押さえつけ、床にねじ伏せる。
「いい子にしてろ。謝れば、何もなかったことにしてやる」
本当に?
私は彼の手を振り払い、まるで感情を失くした機械のように、ゴン、ゴンと額を床に打ち付けた。
悟の声が耳元で響く。「二十三、二十四……」
昔のことをふと思い出した。
「詩音、兄さん金これだけしかないけど、全部お前にやるよ」
「お前ら、俺の妹をいじめるな。指一本でも触れてみろ、俺が相手になってやる」
「詩音、両親も早くに逝っちまったけど、俺が親父の代わりだ。俺が絶対にお前を守ってやるからな」
意識は遠のいていくのに、脳裏に浮かぶ悟の姿は鮮明になるばかりだ。
小さな体で、迷うことなく私の前に立ちはだかった彼。チンピラに殴られて肋骨を折ったのに、私を笑わせようと冗談を言っていた彼。
いつからだろう。私を見る彼の瞳から、温もりが消えてしまったのは。
梨乃が私の目の前で階段から落ち、振り返りざまに「詩音を責めないで」と言ったあの時からか。
それとも、私が作ったお菓子を食べて彼女が入院し、「悟さんがいてくれたら、いじめられなかったのに」と泣いた時からか。
ああ、もう……思考が、続かない。
寒い……体の震えが止まらない。
「うわ、なんであんなに血が出てるの?怖いよぉ」
蓮の幼い声が耳に届く。そこでようやく気づいた。私の体から流れ出たものが、床一面を赤黒い海に変えていることに。
悟は動じない。冷酷に数を数え続けている。
ふと、懐かしい香りが鼻を掠めた。私は縋るように、目の前のズボンの裾を掴む。
力を振り絞って顔を上げ、その姿を捉えた。
「和也、助けて……」
彼は一瞬、呆然と私を見つめていた。
「詩音!しっかりしろ、今医者を呼ぶ!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R40278- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。