彼氏の浮気相手は、結婚5年目の妻!?第3話
この話は約2021字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
景明は喉仏を上下させ、私をさらに強く抱きしめた。
「やきもち?」
私は神経が張り詰めていて、彼の言葉には乗らなかった。
「西園寺(さいおんじ)社長が……奥さんにバレンタインのプレゼントを用意したいって。宝石のことはよく分からないから手伝ってくれって頼まれて、ついでにもう一つ買ったんだ」
彼の親指が、ゆっくりと私の手の甲を撫でる。これは謝る時の、彼の癖だ。
西園寺社長のことは知っている。五十代で、確かにプレゼント選びは苦手そうだ。
本当に私の思い過ごしだったの?
だって景明は、これまでずっと誠実で、私に絶対の安心感をくれていた。
以前、女性のクライアントからプレゼントを渡されそうになった時も、すぐに私に報告してくれた。「彼女の許可がないと受け取れないから」と断ったと言って。
今の彼の表情には、微塵のやましさもない。これではまるで、勘繰ってばかりいる私の方が、心の狭い嫌な女みたいだ。
けれど――彼の胸の鼓動がやけに早い。私の耳に直接伝わってくるその不自然なリズムを、どうしても無視することはできなかった。
「景明、このこと……最初から直接そう言ってくれればよかったのに。あんなに怒らなくても……」
私は彼の胸にさらに耳を押し当てながら、慎重に彼の出方を探った。
「怒ったのは、君が驚く顔を見られなくなっちゃったからだよ。プレゼントを開けた瞬間の、嬉しそうな君を見たかったのに」
景明は愛おしそうに私を見つめていた。その瞳の奥には、ほんのりと失望が滲んでいる。
「サプライズできなくて、本当にごめんな」
私の思い過ごしだった。
私は彼を抱きしめ返し、顔を胸に埋めた。
「ごめんね……勝手に漁ったりして。あなたを疑ったりして」
「バカだな」
彼は私の額に軽くキスをした。
「悪かったのは俺の方だ。当日、改めてサプライズさせてくれ」
私は彼の腕の中で何度も頷いた。涙が彼のパジャマを濡らしていく。
こんなに愛してくれているのに、私は疑ってしまった。罪悪感で胸がいっぱいになって、ひどく切ない。
彼が優しく涙を拭ってくれる。私は涙をこらえながら、彼の唇にそっと口づけた。
彼が体を翻して私を押さえつけ、激しく唇を奪ってきた。
ネグリジェが彼の温かい手の中でゆっくりと脱がされていく。肌が触れ合った瞬間、体のスイッチが入った。
ベッドの上の彼はいつもと全然違い、私がかすれた声で甘えるように許しを請うまで、焦っていて、荒々しくて、加減を知らなかった。
それまでの不安も不満も汗と一緒に流れていって、残ったのは快感だけだった。
明け方、彼のスマホの振動で目が覚めた。
急ぎの用事かもしれない。そう思って、私はスマホを手に取った。
西園寺社長からのメッセージだった。
【景明!もう芝居するのも面倒くさくなった?】
思わずトーク画面を開いて、上へ遡っていった。
画面に表示されているのが最新のメッセージだ。
「西園寺社長」から送られてきたのは、二つの家族が一緒に写った写真。数枚。
景明の隣に、物静かだけど綺麗な女の人が寄り添っている。
さらに遡ると、記念日にはどのレストランへ行くか、両親へのプレゼントは何にするか――もっと日常的なやり取りが続いていた。
もう両親に会わせてたの?
トーク履歴がびっしり並んでいる。
心臓を、大きな手で鷲掴みにされたみたいだ。
もう遡る気力もない。
残業だと言っていた時。接待だと言っていた時。電波が悪いと言っていた時。
私に一人の時間をくれると言っていた時。
私を抱きしめながら「疲れたから早く寝よう」と言っていた時。
このトーク画面には、全く違う温もりと、全く違う未来があった。
目の前が暗くなる。手が震えて、スマホを持っていられない。
今まで見て見ぬふりをしてきたこと。自分に言い訳してきたこと。
それが今、映画みたいに、一コマ一コマ、頭の中に押し寄せてくる。
どうりで結婚の話をするたびに、「最近忙しい」「まだ若いんだから」って軽くかわされたわけだ。
どうりで「将来、あなたに似た女の子が欲しいな」って言った時、急に黙ったり話を逸らしたりしたわけだ。
どうりで祝日や休日のたびに、急な出張とか大事なクライアントとかで、いつもいなくなったわけだ。
彼の忙しさを気遣っていた私がバカみたいだ。仕事に行っていたんじゃない。浮気相手のところに急いでいたんだ。
胃の奥から吐き気がこみ上げてきて、トイレに駆け込んだ。
えずいても何も出てこない。
胃が激しく痙攣して、涙が止まらない。拭いても、拭いても。
三年。
丸三年、一緒にいた。
世界で一番素敵な人を手に入れたって、ずっと思ってた。
なのに、甘い思い出も信頼も未来も、全部最初から嘘だったんだ。
ほんの数時間前まで、彼は私を抱きしめて、愛してるって言っていたのに。
演技、うますぎる。
心臓を何本もの矢で射抜かれたみたいなのに、不思議と憎しみは湧いてこなかった。
知りたい。誰が私たちの間に割り込んできたのか。
知りたい。なぜ彼が私を裏切ったのか。
知りたい。今、彼の心にいるのは一体誰なのか。
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