彼氏の浮気相手は、結婚5年目の妻!?第1話
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私、小林喜乃(こばやし よしの)には、三年付き合っている彼氏がいる。
彼は私を甘く溺愛し、この上なく大切にしてくれていた。友人たちは皆、そんな私を羨んだ。
唯一の欠点を挙げるとすれば、彼が多忙すぎることだった。
いつもイベントや記念日の前になると、決まって出張に行かなければならなかった。
今年のバレンタインデー直前、彼の車の中でまったく同じプレゼントを二つ見つけてしまうまでは。
息が、止まった。
あの岩田景明(いわた けいめい)が、浮気?
一度落とされた疑念の種は、真っ黒な根を張り、あっという間に芽を出し始める。
そしてついに、彼がバレンタインデーにまた「出張」へ行くというので、私はこっそりと後をつけた。
突き止めた浮気相手を問い詰めても、彼女は少しも悪びれる様子を見せず、ひどく堂々としていた。
自分が泥棒猫であることを、頑なに認めようとはしないのだ。
私は怒りで感情を爆発させ、彼女を景明の元へ引きずり出し、直接対決させてやろうと騒ぎ立てた。
すると彼女は、景明との婚姻届受理証明書を取り出し、私の顔に叩きつけてきたのだ。
「よく見なさいよ。一体どっちが『泥棒猫』なのかしら!」
* * *
バレンタインデーを数日後に控えたある日。私、小林喜乃(こばやし よしの)は、彼氏である岩田景明(いわた けいめい)の車の助手席で、グローブボックスの中に予備のマスクがないか探していた。
その時、奥の方で指先に赤いベルベットの小箱が触れた。
心臓がトクトクと早鐘を打つ。甘い期待で、胸が張り裂けそうだった。
もしかして、ついにプロポーズ?
震える指で、ベルベットの小箱をそっと開ける。
だが、中に入っていたのは指輪ではなかった。
私がファッション誌で何度も眺めていた、『天空の輝き』という名のネックレスだ。
彼はいつも、私の些細な好みをちゃんと見てくれている。ほんの一瞬よぎった落胆は、あっという間に温かい喜びに溶けていった。
その時、運転席のドアがバンッと開いた。
飲み物を買いに行っていたはずの景明が、そこに立っていた。
「何してるんだ……」
彼の鋭い視線が、私の手元にあるネックレスに突き刺さる。表情は強張り、声には明らかな動揺がにじんでいた。
有頂天になっていた私は、彼の様子が決定的におかしいことに、まだ気づいていなかった。
「あ、見つけちゃった!バレンタインのサプライズ、先に見ちゃってごめんね!」
私は無邪気に笑いながら、嬉しさいっぱいで箱を掲げてみせた。
しかし景明は無言のまま運転席に乗り込むと、バンッと荒々しくドアを閉めた。
「なんで勝手に人のものを漁るんだ!」
耳を疑うほど尖った声。その横顔は、見たこともないほど冷ややかだった。
私は呆然と彼を見つめた。箱を掲げていた手が、行き場を失って宙で止まる。
付き合って三年になるが、彼にこんな冷たい言い方をされたのは初めてだった。
私がひどく怯んでいるのに気づいたのか、彼はふっと息を吐き、少しだけ口調を和らげた。
「ごめん喜乃、他意はないんだ。ただ、車の中には会社の機密書類を置いていることもあるから……次からは勝手に開けないでほしい」
彼はさりげなく視線を前方に逸らし、エンジンをかけて車を発進させた。
……私が、悪かったの?
甘い喜びは一瞬にして冷え切った。私は黙ってネックレスを箱に戻し、そっとグローブボックスを閉めた。
車内に重い沈黙が降りる。いつの間にか、窓の外ではしとしとと冷たい小雨が降り始めていた。
雨だれを見つめるうち、ふと三年前の記憶が蘇った。初めて景明と出会った、あの雨の夜の出来事だ。
深夜二時。一人で残業を終えた私は、静まり返った会社の前に立ち、タクシーを拾おうとしていた。しかし、いくら待っても空車は一台も通りかからない。
傘もなく全身はずぶ濡れで、冷たい夜風が吹きつけるたび、ガタガタと身体の震えが止まらなかった。
そこに、一台の黒い高級車がすべるように目の前に止まった。スモークガラスの窓が静かに下りる。
「家、どの辺り?送るよ」
見知らぬ男の言葉に、私は警戒して思わず一歩後ずさった。
「大丈夫、怪しい者じゃないから」
彼は少し笑うと、スーツの内ポケットから運転免許を取り出し、窓越しに私の手のひらへと乗せた。
写真と目の前の整った顔立ちを何度も見比べてから、私はようやくその好意に甘えることにした。
「……ありがとうございます。タクシー代の倍額、ちゃんとお支払いしますので」
ひどく恐縮しながら、濡れた身体のまま、おずおずと助手席に乗り込んだのだ。
あの時の私は、彼が名門・岩田グループの一人息子だなんて知る由もなかった。
ただ、この親切で洗練された男性は、笑顔がとても温かく、変に気取ったところがなくて素敵だな、と思っただけだった。
ずっと後になってから、彼が笑って教えてくれたことがある。
あの日、土砂降りの雨の中で身をすくませ、今にも泣き崩れそうなのに必死で涙をこらえて立っていた私の姿が、ひどく意地っ張りな捨て猫にそっくりだったのだと。
「あの瞬間、君に一目惚れしたんだよ」
そう言って優しく微笑みながら、私の頬をそっと撫でてくれた彼の手の温もりを、今でも覚えている。
あの時、私は彼のために、一番得意なスープを心を込めて煮込んでいる真っ最中だった。
付き合い始めてわずか五日目で、彼は私を自身の親友たちに紹介してくれた。
華やかなパーティーの席で、私の手をしっかりと握り、皆の前で堂々と「俺の彼女の喜乃です」と紹介してくれたのだ。
それは、平凡な私にとって十分すぎるほどの安心感だった。
二人きりでいる時も、彼は私のどんな些細な癖や好みにも気づいてくれた。
私が室内でスリッパを履くのが苦手だと知ると、すぐさま家中に毛足の柔らかいウールのカーペットを敷き詰めてくれた。
私がたまに理不尽なわがままを言っても、嫌な顔ひとつせず全て受け止め、むしろ愛おしそうに目を細めていた。
付き合って三年。仕事が激務で、クリスマスや連休には決まって「出張」が入ってしまうこと以外、景明は私にとって、まさに非の打ち所がない完璧な恋人だった。
……
我に返り、現実に意識を引き戻す。これまでの甘く幸せな記憶を辿るうちに、先ほどの戸惑いや怒りは、もうほぼ溶けてなくなっていた。
普段あんなに優しい彼が、理由もなく怒鳴るはずがない。きっと本当に、見られてはいけない重要な機密書類が入っていたのだろう。
そう自分を納得させると、わだかまりはすっと消え、むしろ疑ったことへの申し訳なさが込み上げてきた。
「ごめんね、景明。マスクを探そうとしただけで、本当にたまたま触っちゃっただけで……
でも、プレゼント……すごく嬉しい。ありがとう」
私のしおらしい謝罪を聞いて、景明の強張っていた表情がようやく解けた。いつものように、甘く優しい微笑みを向けてくれる。
――けれどその笑みは、なんだか目の奥までは届いていないように見えた。
その日の夜。彼はいつものように、一人書斎にこもって仕事をしていた。
私が書斎の前を通りかかった時、ドアの向こうから、景明がひどく声を潜めて電話で話しているのが聞こえてきた。
「分かってる。こっちで何とかするから……」
仕事のトラブルだろうか。私は特に気に留めることもなく、そのまま通り過ぎた。
シャワーを浴び終え、ゴミ出しのためにマンションの階下へ降りる。そのついでに、新しいマスクの袋を一つ手に取った。
駐車場に向かい、彼の車にマスクを補充しようとグローブボックスを開けた時。私の指先が、再びあの馴染みのあるベルベットの感触に触れた。
――二つ。
私は、全身の血が凍りつくのを感じた。
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