彼と結婚しようとする度に必ず事故に遭う件第3話
この話は約1742字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
【愛は時に、人に責任を忘れさせる】
SNSのタイムラインには、こんなメッセージが投稿されていた。
コメント欄では、誰もが修也に【大胆に真実の愛を貫け】とエールを送っている。
2億円もあれば、私の今後の治療費をすべて賄うのに十分だ。
私は自嘲気味に笑った。目の前が涙で霞み、スマホの画面にぽつりと雫が落ちた。
少なくとも、これで私と修也は自由になれるのだ。
1ヶ月近く、修也からは一切の連絡がなかった。
彼はすべての時間を玲奈に捧げているようだった。
めったに更新されなかった彼のSNSには、毎日新しい投稿が上がっていた。
まるでタイムリミットを計算しているかのように、彼は玲奈と過ごし、やりたいことをすべて叶えていった。
そして最後の投稿は、タキシード姿の彼が、玲奈と一緒に撮ったウェディングフォトだった。
投稿には【最後に、愛する人がウェディングドレスを着る姿を見たかった】というキャプションが添えられていた。
その投稿の翌日のこと。
修也から電話がかかってきた。彼の声は少し掠れていた。
「明日香、マイナンバーカードを持って役所へ来い」
彼はそれだけを告げると、私の返事も待たずに電話を切った。
この3年間で、修也から自発的に婚姻届を出そうと言い出したのはこれが初めてだった。
断りのメッセージを送信しようとしたその時。
ふと、父が遺した形見の指輪をまだ返してもらっていないことを思い出した。
少なくとも、あれをこれ以上彼の手元に置いておくわけにはいかない。
私は役所へ向かった。この3年間、何度も歩いた見慣れた道だった。
珍しく、今回は何のトラブルも起きなかった。
入り口で1時間ほど待っていると、ようやく修也が姿を現した。
彼の目の下には濃いクマができ、体から漂うタバコの匂いはいつもより強かった。
長く一緒にいたからこそ分かっている。彼は思い悩んでいるときにしかタバコを吸わないのだ。
1ヶ月ぶりに私を見た彼は、一瞬だけ言葉を失ったように見えた。
「お前、どうしてそんな姿に……」
病の苦痛に苛まれ、たった1ヶ月で私は骨と皮だけのように痩せこけてしまっていた。
彼に言われなくても、今の自分がひどく醜いことくらい分かっている。
私が黙っていると、修也はさらに眉間を寄せた。
「今日、俺たちは婚姻届を出すんだぞ。本当にその姿で記念写真を撮るつもりか?」
「結婚しに来たわけじゃない。父が遺した指輪を返してほしくて来ただけ」
私は修也の前にスッと手を差し出した。
彼は微かに目を見張り、私が理不尽なワガママを言っているとでも思ったようだ。
苛立たしげに鼻で笑うと、私の手首を乱暴に掴み、そのまま役所の中へと引っ張っていった。
「俺の前でそんな当てつけがましい態度はやめろ。どうせ俺と結婚するのは、最初から決まっていたことだとでも思ってるんだろう?
ああ、分かったよ。お前の勝ちでいい。さっさと手続きを済ませて、適当な時期に結婚式も挙げてやる」
修也はヤケになったように吐き捨てた。
役所の職員は私たちを見ると、事務的な手順に沿って声をかけてきた。
「お二人の本人確認書類をご提示いただけますでしょうか」
修也が自分のマイナンバーカードを取り出し、職員に手渡そうとしたとき、袖口からタトゥーの一部が覗いた。
そこには玲奈のイニシャルが彫られていた。
事情を知らない職員は、場の空気を和ませようと明るく言った。
「お二人とも本当に仲がいいんですね。お名前を体に刻むなんて、とってもお幸せそうです」
修也はハッとして、気まずそうに袖口を引っ張って隠した。
彼は無意識に私の方を見た。だが、私が依然として冷めた目で立ち尽くしているのを見ると、いくらか皮肉めいた口調で言った。
「なんだ?また道中でトラブルでも起きて、マイナンバーカードを忘れたとでも言い訳するつもりか?」
そんな修也の態度を見て、私は深く息を吸い込んだ。
「言ったはずよ、私は結婚しに来たんじゃない。その指輪を……」
私の言葉が終わらないうちに、修也のスマホがけたたましく鳴り響いた。
電話に出ると、向こうから友人の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「修也さん、玲奈ちゃんが家で睡眠薬を飲んで自殺を図りました!遺書には、明日香さんに追い詰められたって書かれてて……」
友人の言葉が終わるやいなや、修也は弾かれたように立ち上がった。
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