弁護士夫婦〜利益を選ぶ夫と正義を選んだ妻〜第2話
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翌日、地方裁判所。
木槌が打ち鳴らされ、裁判長が被告に無罪判決を下した。
澪が書類をまとめていると、被告の母親が彼女の手を握りしめ、何度も「ありがとうございます」と繰り返した。
澪は礼には及ばないと答え、これが自分の仕事だからと伝える。
裁判所の外へ出ても、澪の頭の中では先ほどの法廷でのやり取りが繰り返されていた。
「あの女だ!」
その時突然、鋭い金切り声が上がった。
澪が状況を飲み込む前に、人だかりが押し寄せ、取り囲まれた。
先頭にいた中年女性が、澪の袖を乱暴に掴む。
「あんたはあのクズの肩を持った!だから、うちの娘はまだ18歳なのに、病院のベッドでこれまでに3回も手首を切ったんだよ!あんたたち悪徳弁護士は、金さえもらえればどんな汚い手でも使うんでしょ!」
「あの、まずは落ち着いて私の話を聞いてください……」
「聞くもんか!」中年女性は澪を激しく突き飛ばした。「あんたたちは金持ちの犬だ!あのクズの家が金持ちだからって、無罪放免にして!娘は踏みにじられたっていうのに、あんたたちはそれを『合意の上』だって言うのかい!?」
取り囲む野次馬がどんどん増えていく。
澪はなんとか説明を試みた。「確かに証拠が不十分だったんです。警察が当時……」
「証拠不十分?」中年女性が金切り声で遮った。「あんたたち弁護士は、法律の抜け穴を探すのが専門だからね!黒いものも白と言いくるめて、死人からだって証言を取るんでしょ!」
澪は黙ることにした。今の状況で何を言っても火に油を注ぐだけだと分かっていたから。
「もうこの悪徳弁護士をやめてちょうだい!」
中年女性のその言葉を合図に、丸められた資料やペットボトル、さらには小石が澪の肩に当たり、鈍い痛みが走る。
そして、二つ目の小石が飛んできたその時。
澪は頭を抱え、手の中の書類袋を守るように身を縮めた。
だが、予想していた痛みは来なかった。
誰かに背後から抱き寄せられ、背中がその温かい胸板にぶつかった。自分を抱き寄せたその人物は腕を上げ、澪の体をすっぽりと庇うように抱き込んだのだ。
飛んできた小石が彼の顔をかすめ、一筋の血の跡を残す。
「隼人……」
澪は唖然とした。
隼人は駆けつけた警備員にいくつか指示を出した。決して大きな声ではなかったが、その場を制圧する絶対的な威厳があった。
人垣が引き離され、隼人は澪の肩を抱いて駐車場へと歩き出した。
どうして隼人がここに?
彼は一度だって、こんな……
「行くぞ」
頭上から降ってきた隼人の声には、感情の色が全くなかった。
澪が足元に視線を落とすと、自分が段差を踏み外しそうになっていることに気がつく。
駐車場に着くと、隼人は澪を放し、コートを澪の肩にかけた。
「法廷での立ち回りは完璧だったな」と隼人は言った。
澪は顔を上げた。
隼人の顔の傷跡からは血が滲み出ていたが、彼はそれを拭おうともしない。
「証拠の脆さを綺麗に崩していた。証人尋問の部分も、向こうの弁護士には反論の余地がなかっただろうな」
澪はなんと返したらいいのかわからなかったため、とりあえずコートの襟元をきつく握りしめた。
なぜなら、隼人はこれまで一度も、澪の法廷を見に来たことなどなかったのだから。
結婚して4年、大小合わせて百回以上の裁判に立ったが、隼人は一度も姿を見せなかった。
時折、澪が冗談めかして「アドバイスしに来てよ」と言っても、彼は「企業法務と刑事弁護では畑が違う。行っても何の役にも立たないよ」と返すだけだった。
だから澪はてっきり……
「隼人!」少し離れた場所に停まっていた隼人の車から、杏が降りてきた。澪の悲惨な姿を見て、杏は眉をひそめる。
「だから入口に停めればよかったのに。こんな目にあっちゃって……」
杏は隼人の方へ向き直り、責めるような口調で言った。
「激昂したあの人たちが私に怪我をさせたら困るって、わざわざ私を駐車場に降ろしてから向かったから、かなり時間を無駄にしたんじゃないの?」
隼人は落ち着いて杏に説明する。「君の住む世界はシンプルだからな。窮鼠猫を噛むというが、人間も追い詰められればどうなるか分かったもんじゃないだろ?」
杏が口を尖らせた。「分かったわよ。昔から本当に口うるさいんだから。私だってもう子供じゃないのに」
澪は一歩離れた場所から、二人のやり取りを見つめていた。
その軽々しい言葉の一つ一つが、澪の心に重くのしかかる。
そうか、これこそが隼人が本当に人を愛した時の姿なのか……
たとえ自分が窮地に陥っていたとしても、隼人は杏の絶対的な安全を確保した後にしか、自分を助けに来ない。
自分が彼の妻であったとしても……
杏が澪を見た。「白川先生、早く車に乗って。そんなボロボロになっちゃって……隼人に送らせるから、帰ってシャワーでも浴びてね」
そう言いながら、杏はごく自然に澪を車に乗せようとした。まるで、自分がこの車の女主人であるかのように。
澪は口角をわずかに上げる。「大丈夫。車で来てるから」
彼女は肩のコートを取り、隼人へ差し出した。「ありがとう」
しかし、隼人は受け取らず、「着ておけ」と短く言った。
「大丈夫」澪はそのコートを隼人の手に押し付け、背を向けて反対方向へと歩き出した。
乱れた髪を直そうと手を挙げた瞬間、自分の手が小刻みに震えていることに気がつく。
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