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宿敵の子を宿したら、元夫が壊れた第1話

この話は約2928字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

夫の宮城瑛人(みやぎ えいと)は天才ピアニストだが、その偏執ぶりにおいてもある意味天才だった。私への執着は、もはや病的と言えるほどだった。

結婚して八年。私は仕事を持たず、家中の隅々まで監視カメラが仕込まれていた。知らない男と一言交わすことさえ許されない。

そんなある日、私は彼が絶対に触らせてくれなかった金庫の中に、十年分の誕生日プレゼントを見つけてしまった。

どのカードにも、たった一人の名前が刻まれていた。

「愛しき夏見へ」

霧島夏見(きりしま なつみ)。それは、瑛人の少年時代の初恋の人だった。

瑛人はプレゼントを奪い去り、その瞳を暗くして私を睨みつけた。

「死んだ人間のことに、いちいちこだわる必要はないだろう」

彼は冷たく言い放つと、私の顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。

「それより、お前、今日の宅配業者を一瞬でも見つめたのはどういうことだ?」

だが、その直後、彼の秘書がこっそり送ってきた写真が、私の心を抉った。瑛人が、ある女性を抱き寄せ、涙を拭っている。その優しさは、まるで壊れやすいガラス細工に触れるかのようだった。

その女性は、夏見に酷似していた。

私は暗闇の中でずっと座っていた。

その時、突然、スマホの通知音が鳴り響いた。

【昨夜は興奮しすぎた。胸元のキスマーク、ちゃんと隠しとけよ。旦那さんが見たらマジでキレるぞ?】

* * *

夫の宮城瑛人(みやぎ えいと)は天才ピアニストだが、その偏執ぶりにおいてもある意味天才だった。私への執着は、もはや病的と言えるほどだった。

結婚して八年。私は仕事を持たず、家中の隅々まで監視カメラが仕込まれていた。知らない男と一言交わすことさえ許されない。

そんなある日、私は彼が絶対に触らせてくれなかった金庫の中に、十年分の誕生日プレゼントを見つけてしまった。

どのカードにも、たった一人の名前が刻まれていた。

「愛しき夏見へ」

霧島夏見(きりしま なつみ)。それは、瑛人の少年時代の初恋の人だった。

瑛人はプレゼントを奪い去り、その瞳を暗くして私を睨みつけた。

「死んだ人間のことに、いちいちこだわる必要はないだろう」

彼は冷たく言い放つと、私の顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。

「それより、お前、今日の宅配業者を一瞬でも見つめたのはどういうことだ?」

だが、その直後、彼の秘書がこっそり送ってきた写真が、私の心を抉った。瑛人が、ある女性を抱き寄せ、涙を拭っている。その優しさは、まるで壊れやすいガラス細工に触れるかのようだった。

その女性は、夏見に酷似していた。

暗闇の中で呆然と座り込んでいると、突然スマホの通知音が鳴り響いた。

【昨夜は興奮しすぎた。胸元のキスマーク、ちゃんと隠しとけよ。旦那さんが見たらマジでキレるぞ?】

数秒後、さらにメッセージがポップアップした。

【昨夜お前、薬盛られたんだろ。俺が送った時、俺も酔ってたけどな】

【けど、あいつがお前を放置して出て行った時、完全にシラフだったぞ】

たった数行のメッセージが、昨夜封印されていた記憶を抉り開けた。

瑛人は幼い頃からアルコールアレルギーで、昨夜の接待でも、私は彼のために一杯ずつ酒を呷った。喉が焼けるように熱く、視界が揺らぎ、天井のシャンデリアは二重にブレて見えた。

その時、彼のスマホが専用の着信音を鳴り響いた。画面を盗み見ると、「霧島秋穂(きりしま あきほ)」と表示されていた。

夏見と名前まで似ている。だからこそ、彼は心を奪われたのだろう。

彼はためらうことなく、いや、考えるより先に電話を取った。そして、彼の声には、私には初めて聞く焦燥と優しさが入り混じっていた。

「怖がらなくていい。その場で動くな。すぐに行くから」

変な酒のせいで妙な熱が上がっているのを感じた。「瑛人、行かないで……」と懇願したが、彼は私を一瞥すらしないどころか、完全に無視して、ジャケットを掴み、ドアの外へ消えた。

その後、私を助けてくれたのは、瑛人が最も憎むライバル、相沢陸生(あいざわ りくお)。彼自身も酒臭かったが、混乱した廊下で私を見つけ出した。

陸生はスーツの上着を震える私に羽織らせながら、歯を食いしばって罵った。

「宮城瑛人、この野郎」

密室の車内にて。

体内の薬が効き始めた。

酒の臭いと、陸生の身体から漂う見知らぬシダーウッドの香りが、混沌と絡み合った。

最後に見た光景は、彼が赤い目で私に迫り、鎖骨にキスを落とす瞬間だった。今、この体に残る青紫の痕跡が、昨夜の過ちの証拠だ。

鏡の中の自分を見つめ、私は多くのことを思い出した。

結婚一年目、瑛人がアルコールアレルギーで倒れた時、三本の通りを走って病院に連れて行ったのは私だ。

それ以来、接待のたびに、私は無意識に彼の盾となってきた。

八年間で私が代わりに飲んだ酒は、彼の自慢のピアノを水浸するのに十分な量だろう。

二年目、天才の奇妙なこだわりを理解しようと、彼の偏執的な独占欲を徐々に受け入れた。外出禁止、社交禁止、男との接触禁止。

三年目、彼の偏食のために、私は八十八種類の朝食を覚えた。

四年目、彼が埃にアレルギーがあるから、毎日床を三度、膝をついて磨いた。

五年目、彼が不眠症だから、私は夜通し子守唄を歌ってあげた。

だが、彼は一瞬たりとも、夏見を忘れてはいなかった。

私が彼に尽くした毎年の裏で、瑛人は常に過去を生きていた。送ることのできない誕生日プレゼントを、毎年用意しながら。

そっくりさんの電話一本で、彼は私を、見知らぬ店に放り出した。

どうやって、死んだ人間と争えというのだろう?

心臓のどこかが、完全に砕け散った気がした。

私は化粧台のハサミを手に取り、自慢のロングヘアに刃を当てた。

ここは、彼が最も愛おしそうに触れるところだ。

彼は言った。「お前の髪は、俺のためにだけ伸ばすのだ」と。

ハサミが閉じようとした瞬間、ドアが乱暴に開けられた。

一晩中外出していたためか、瑛人は、髪も服も乱れ、ひどく疲れた様子で玄関に立っていた。

彼は私の手の中のハサミを睨みつけ、呼吸は荒く、切迫した。

「下ろせ」

彼の声は恐ろしく掠れていた。「梓(あずさ)、言ってるのが聞こえないのか! 下ろせ!」

私は彼を見つめ、ただ、疲れ果てた。

「瑛人、離婚しましょう」私は囁くように言った。

空気が一瞬で凝固する。

次の瞬間、彼は一気に駆け寄り、ハサミを叩き落とした。ハサミが床に叩きつけられる音がやけに響いた。

「離婚?」

彼は低く笑った。

「俺たちが結婚したその瞬間から、お前は俺のものだ。全身の隅々まで、体も心も、隅々まで。

離婚など、俺の辞書にはない!

たとえ死んでも、お前の墓石には必ず俺の名前が刻まれているんだぞ」

私は深呼吸し、襟元を掴み、キスマークを見せつけて、彼の独占欲を潰そうとした。

「瑛人、あなたは自己愛が強すぎるのよ――」

その時、彼のスマホの画面が点灯した。瑛人は画面を見つめ、なんと微かな笑みを浮かべた。

まるで恋を知ったばかりの少年のような表情だ。

瑛人は立ち上がり、メッセージを打ちながらドアに向かった。

もし彼が一度でも私を見れば、少しだけ開いた襟元に密集した噛み跡が見えたはずなのに。

だが、彼は一度も振り返らなかった。

ドアを開ける直前、彼は言った。

「夏見の代わりをしているだけのお前が、なにが不満なんだ?」

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