婚約者に内緒で中絶して別の人と結婚したら、彼は狂った第1話
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私は、まだ三ヶ月にも満たない命を、自らの手で終わらせた。
けれど、婚約者はそのことを何も知らない。
彼は今、忘れられない初恋の女性と情熱を再燃させている真っ最中だった。
「彼女に帰ってきたって感じさせたいんだ」
そう言って、私たちの寝室だった主寝室を、何のためらいもなく彼女に明け渡した。
さらには——
本来、私と彼の婚約披露宴として準備していた席を、彼女の歓迎パーティーに変えてしまった。
招かれた親戚や知人たちの前で、私はただの笑い者になった。
私は静かに婚約ドレスの裾を切り落とし、そして、見合い相手との結婚を受け入れた。
* * *
姉から、お見合い相手の写真が送られてきた。
私は数秒だけ眺めてから、すぐに画面を閉じた。
「いいよ。先に段取りしてくれる?ただ、三日だけ時間が欲しいの」
そう返信した。
三日——
それだけあれば、この場所ときれいに決別するには十分だった。
私たちの婚約披露宴は、結局、香月澪奈(こうづきれいな)の歓迎会にすり替えられた。
もうこの家にいる理由なんて、どこにもない。
ただの笑い者になるために居続けるつもりはなかった。
切り裂いた婚約ドレスをゴミ袋に詰め込み、私は実家に戻る準備をした。
けれど、それすらも許してくれない人がいた。
「紗月さん、ほんとごめんなさい。婚約の準備でお忙しいところを……でも、どうしても今日がいいって凌翔が言い出して。歓迎会なんて断れないじゃない?怒らないでね?」
澪奈がにこにこと笑いながら、わざとらしく首元を傾けた。
その首筋には、わざと見せるように、はっきりとキスマークが残っていた。
またか。
彼女は私の嫉妬を煽って、醜く取り乱す様子を楽しむのが常だった。
でも、今回は違う。私は、もう何も感じなかった。
「うん、別に気にしてないから」
そう答えると、彼女の顔から一瞬で笑みが消えた。
用意していた言葉がすべて喉に詰まったようだった。
私はバッグを持って、何も言わず家に帰った。
だが、帰宅してすぐ、激しい痛みに顔が真っ青になる。
やはり、身体はまだ回復していなかった。
一週間前のこと。
私がどれだけ反対しても、神原凌翔(かんばらりょうしょう)は澪奈を家に迎え入れた。
「出てってやる」と脅しても、結局彼女はこの家に住みついた。
その時、私ははっきりと理解した。
この人にとって、誰も——私ですら——彼女には敵わないのだと。
翌日、私はひとりで病院へ行き、中絶手術を受けた。
ソファに倒れ込んだまま、痛みに耐えながら鎮痛剤を探す。
薬を飲み込んだ、その瞬間——
玄関が開き、凌翔が帰ってきた。
彼はソファで丸くなる私に気づかぬまま、コートを投げ渡してきた。
「ただいま」
いつものように、それを受け取ってハンガーに掛ける私を想定していたのだろう。
けれど、私は一歩も動かなかった。
すると、彼の表情が曇る。
「今日の会が急に変更になったのは分かってるけど……そんな露骨に態度に出すなよ。
途中で帰るとか、澪奈が気まずい思いするだろ?」
私たちの婚約披露宴を勝手に変更したのは、彼のほうなのに。
私の屈辱は、彼にはまったく見えていない。
黙っている私に苛立ったのか、彼が腕を掴もうと近づいてきた。
だがその時、私が顔を歪め、腹を押さえているのを見て、足が止まる。
「大丈夫か?」
「胃がちょっと痛いだけ」
私は適当にごまかした。
彼は眉をひそめながらも、テーブルに袋を置いた。
「体調悪いなら仕方ない。これ、君に買ってきた。さっきの会の件の埋め合わせってことで。温めて食べてくれ」
それは、彼なりのごめんねの表現だった。
私たちはこれまで、喧嘩するたびにこうやって仲直りしてきた。
けれど、私はその袋を持って、無言で台所へ向かった。
確かに、今日はろくに食べていなかった。
でも、袋の中身を見た瞬間、胃の奥がまた痛んだ。
中に入っていたのは——宴会の残り物。
しかも料理の中には、歓迎会の装飾用のリボンまで紛れていた。
私は無言で袋ごとゴミ箱に捨てた。
戻ると、彼はソファに腰掛けてスマホの画面を見て笑っていた。
その画面には——
今日の宴会で、彼と澪奈が熱く抱き合い、皆が茶化す中で笑い合う映像が映っていた。
ソファも彼に取られた今、私はスマホを持って寝室へ向かった。
ちょうどその時、姉から電話がかかってきた。
「紗月、全部手配しておいたわ。ようやく決心がついたのね。やっぱり凌翔なんて信用できないと思ってたのよ。
昔、あの女のことで鬱になって、死にかけたのは彼の方でしょ。そんな男、他の誰かを本気で愛せるわけないでしょ?」
たしかに。
澪奈は、彼が三年間付き合い、結婚まで約束していた本物の初恋だった。
私はというと、両親が事故で亡くなった後、神原家に預けられた居候に過ぎない。
彼女が突然国外へ行って消息を絶ったから、たまたま私が彼の傍にいた、それだけのことだった。
「だから、もう終わりにするの。私は、彼のもとを離れるよ」
そう口に出したとき、不思議と心は穏やかだった。
「紗月、本当にバカね……身体が弱いのに、あんな奴のせいで子どもまで失って」
「もう大丈夫だよ。終わったことだから」
私は話題を変えた。
「ねえ、私のこと気にしてくれるのはありがたいけど……流産のこと、紹介された人、本当に気にしてないの?」
すると姉は明るい声になった。
「心配しないで!一切気にしてないって言ってたわ。むしろね……」
姉は電話口で、彼のお人柄がどれだけ素晴らしいか、熱弁し始めた。
「話を聞いてると、なんか私までワクワクしてきちゃった。この結婚、ちょっと楽しみかもね」
私が苦笑しながら口にしたその時——
背後から、凌翔の低い声が響いた。
「結婚?何の話だ?」
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