娘を救うはずだった心臓が、夫の隠し子に移植された第2話
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明士はその場に固まったまま、目を大きく見開いて信じられないという顔をした。
まさか私が、自分から離婚を切り出すなんて?
「初(うい)、どうかしてるのか?俺と離婚するって言ったか?」
私は深く息を吸って、はっきりと言った。
「耳が聞こえないの?私はあんたと離婚したいって言ってるのよ!」
そう言って、事前に用意しておいた離婚協議書を彼の目の前に投げた。
「財産はいらない。私は何も持たずに出ていく。唯一の望みは、すぐに離婚するってことだけ。
もし明日、時間があるなら、一緒に役所へ行きましょう」
その瞬間、まるで世界が静まり返ったかのようだった。
葵でさえ、いつものように騒がず黙り込んでいた。
明士は地面に落ちた離婚協議書を拾おうともせず、額の血管がピクピクしながら怒鳴った。
「お前、いつまでふざけるつもりだ!
心臓が陽葵に回らなかったくらいで、そこまで怒ることか?萌々の方が必要としてたって、まだわからないのか?
初、お前も母親だろ?どうして少しも思いやれないんだ!」
葵も隣で涙を浮かべて芝居がかった声を出した。
「初さんがこんなに怒るって分かってたら、たとえ萌々が死ぬとしても、絶対にこの心臓なんて使わせなかったわ。
全部私が悪いの。罵られても叩かれても構わないよ」
明士は葵をソファに優しく座らせた。
「自分を責めるな、これは俺が決めたことだ。体が弱いんだから、もう泣くな。俺が何とかする」
私に向き直った時、彼の顔はまるで冷たい氷のようになった。
「離婚なんかで俺を脅すつもりか?心臓はもう萌々に渡したんだ。お前がどう喚こうが、もうどうにもならない!
はっきり言っておくさ。本当に離婚したいなら、お前は二度と娘に会えなくなる」
そう言い捨てると、明士は葵を支えながら寝室へ向かった。階段の途中で振り返り、私を睨みつけた。
「離婚なんて二度と言うな!」
ドアがものすごい音で閉められた。
私は骨壺を抱きしめて、まるでまだ娘がこの腕の中にいるような気がした。
家に戻ってから今まで、明士は一言も私や娘を気遣う言葉をかけなかった。
彼の目に映っているのは、みすぼらしくなった私の姿だけで、彼の顔に泥を塗ったとでも思っているのだろう。
しかし彼は、私が抱いている骨壺に気づこうともしなかった。そこには娘の写真が貼られていたというのに。
広すぎるこの部屋で、私はかつて娘と過ごした日々を思い出していた。
娘はここで踊ったり遊んだりしていたが、最後には無力で地面に倒れ込んだ。
何度抱き起こそうとしても、私は彼女を支えきれなかった。
明士は、娘の最期に立ち会うこともなかったし、私の最期を見ることも、きっとないだろう。
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