失われた愛のかけら第2話
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沙羅は家に戻り、自分の証明書や古い資料をきれいに並べると、それらを金属のトレーに入れて静かに火をつけた。
炎が勢いよく立ち上り、彼女の過去を物語るすべての紙が瞬く間に灰になっていった。
あと数日で「深山沙羅」という名前がこの世界から完全に消えるのだと思うと、自然と笑みがこぼれた。
ようやく解放されるのだ。
十年の交際、沙羅は拓真と共に、未熟だった時代から大人になり、貧しかった頃から成功するまで一緒に歩んできた。
二人で一番苦しかった時は、チャーハン一皿しか買えなかった。
それでも沙羅は一度も辛いと思わなかった。
愛さえあれば水だけでも満たされる――本気でそう思っていた。
拓真はかつて、空に誓い、地に誓った。この命ある限り、愛するのは沙羅だけだと。
けれど、その誓いも結局、人の心変わりには勝てなかった。
沙羅は信じていたが、彼は忘れてしまった。
沙羅は引き出しから、瑠璃の夫婦御守りを取り出した。
これは結婚した時、拓真が新婚祝いとして贈ってくれたものだった。
「沙羅、これは職人さんにお祓いもしてもらった夫婦御守りだよ。これからも、ずっと二人が心離さないようにって」
当時の拓真の言葉が今も耳に残っている。
沙羅が手を離すと、お守りは床に落ちてバラバラに砕けた。
やっぱり虹はすぐに消えるし、ガラス細工は壊れやすい。二人の愛も、思ったよりずっと脆かった。
沙羅は破片を拾い集め、用意していたギフトボックスにそっと納め、さらにその上に一通の手紙を置いた。
最後の火花が消えかけた時、拓真がドアを開けて入ってきた。
「沙羅、今日は僕のこと考えてくれてた?発表会が終わってすぐ帰ってきたんだ。お腹すいてるだろうと思って、君の好きなスイーツも買ってきた。ちょっと食べてから、夜はご馳走連れてくから」
拓真は沙羅の背後から腕を回し、そっと彼女の肩に頭を乗せた。
沙羅は彼の息づかいを感じ、少しだけ顔を背けた。
「私はお腹すいてない」
沙羅は横にあるスイーツの袋をちらりと見た。いつも自分が通うあの洋菓子店のものだった。
こういう気遣いに関しては、拓真は本当に完璧だった。
好きなものも、嫌いなものも、誰よりも拓真が理解している。
「どうした、今日に限って食欲ないの?怒ってる?ここ数日、発表会の準備でずっと帰れなくて悪かった。ごめんって、許してよ」
拓真は沙羅の顔を両手で包み、少し拗ねたような目で見つめる。
沙羅はふと、拓真の体から漂う甘い香水の匂いに気づく。自分は香水を使わない。この香りは、他の女のものだ。
最近は毎晩のように理々と密会していたのに、真顔で「ずっと残業だった」と言い張る拓真。
沙羅は問い詰めもせず、「怒ってない。気にしないで」とだけ返した。
拓真は嬉しそうに沙羅にキスをして、ポケットからハート型の車のキーを取り出して、宝物のように差し出す。
「このプレゼント、どう?この車、君のためだけに作ったんだ。AI搭載で、もう絶対道に迷わないよ。沙羅が行きたい場所、どこにでも連れていくから」
拓真はどんどん興奮していく。
「君は神様が僕にくれた最高のご褒美だよ。この車が発売されたらたくさんの人が気に入ってくれて、僕の会社の株も一気に上がったんだ。僕ももうすぐフォーブスに載るような大金持ちになるよ……」
沙羅には、拓真の話がやかましく響いた。ハート型のキーを手に取ると、不思議なほど心が冷えていった。
「拓真、私のこと、ずっと愛してる?」
拓真はまるで冗談みたいに笑って答える。
「もちろん、そんなの聞くまでもないだろ?この先も、来世も、その次も、ずっと沙羅だけを愛してるよ」
この言葉を、沙羅はもう何度も聞いた。
昔は疑いもせず信じていた。でも今は、ただの侮辱にしか聞こえない。
「覚えてる?結婚式のとき私が言った言葉。もし私を裏切ったら、本当にあなたの前から消えるって」
沙羅はわずかに口元をゆがめ、遠くを見るような目でつぶやいた。
拓真の瞳は澄みきったままで、微塵の迷いも感じられなかった。
沙羅の顔に頬を寄せて「心配しなくていい。僕は一生、君との誓いを忘れないから」と微笑む。
そのとき、拓真の携帯が鳴った。
画面をちらっと見て、慌てて着信を切る。
「会社の連中、ほんと空気読めないな。今日が君の誕生日だって分かってるはずなのに、電話してくるなんて」
沙羅は画面に【癒し系女子】の文字が映ったのを見逃さなかった。
電話がまた鳴り、拓真はもう一度切ろうとする。
「もしかしたら大事な用事かもしれないよ。出た方がいいんじゃない」
沙羅が促すと、拓真はほっとして「うん、すぐ戻るから」と言い残して部屋を出ていった。
沙羅は鏡越しに、ドアの隙間から拓真の笑顔を見ていた。
そっとドアを開けてみると、外から拓真の声がはっきり聞こえる。
「小悪魔ちゃん、まだ足りない?僕もう限界だよ、ちょっとは休ませてくれよ」
相手が何か言ったのか、拓真はさらに楽しげに笑っている。
「本当?今日はご褒美だな……」
沙羅はそれ以上聞きたくなくて、そっとドアを閉じた。
数分後、満足そうな顔で拓真が戻ってくる。
「沙羅、行こう。今日は君の誕生日だし、ちゃんとお祝いするよ」
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