夫の死後、私たちは盛大な結婚式で再会した第1話
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夫の真田昴(さなだ すばる)が墜落死して四年目、私はようやく彼が残した四千万円の借金を返し切れるだけの金を貯めた。
病んだ体を引きずって返済に向かったのに、警備員に乱暴に突き飛ばされた。
「今日は久我家の本物のお嬢様の世紀の結婚式なんだよ。ホームレスはあっちへ失せろ!」
私は振り向き、そこで飾られていたウェディングフォトに、昴の顔を見つけた。
そんなはずがない。彼はたしかに、私の目の前で崖から落ちて死んだはずなのに。
私はホテルの裏手へ回り込み、はっきりさせようとした。
けれど不意に、昴の友人たちがからかうように笑う声が耳に入った。
「昴さん、わざわざ死んだふりまでして久我彩花(くが あやか)と結婚するなんて、そこまでしてこそ本物の愛だよな!」
「だって本物のお嬢様だからな。久我瑞希(くが みずき)みたいな偽物のお嬢様じゃ、昴さんのそばに控えることさえ身の程知らずだろ!」
昴が軽く咳払いした。
「彩花の体は今年を越せそうにない。彼女と結婚するのも、その最期の願いを叶えてやるためだ。五年の約束が終わったら、俺は瑞希のところへ戻るよ」
私は必死に口を押さえた。指の隙間から血がにじみ出る。
でも、昴。
私は五年目まで生きられないのよ。
* * *
夫の真田昴(さなだ すばる)が墜落死して四年目、私はようやく彼が残した四千万円の借金を返し切れるだけの金を貯めた。
病んだ体を引きずって返済に向かったのに、警備員に乱暴に突き飛ばされた。
「今日は久我家の本物のお嬢様の世紀の結婚式なんだよ。ホームレスはあっちへ失せろ!」
私は振り向き、そこで飾られていたウェディングフォトに、昴の顔を見つけた。
そんなはずがない。彼はたしかに、私の目の前で崖から落ちて死んだはずなのに。
私はホテルの裏手へ回り込み、はっきりさせようとした。
けれど不意に、昴の友人たちがからかうように笑う声が耳に入った。
「昴さん、わざわざ死んだふりまでして久我彩花(くが あやか)と結婚するなんて、そこまでしてこそ本物の愛だよな!」
「だって本物のお嬢様だからな。久我瑞希(くが みずき)みたいな偽物のお嬢様じゃ、昴さんのそばに控えることさえ身の程知らずだろ!」
昴が軽く咳払いした。
「彩花の体は今年を越せそうにない。彼女と結婚するのも、その最期の願いを叶えてやるためだ。五年の約束が終わったら、俺は瑞希のところへ戻るよ」
私は必死に口を押さえた。指の隙間から血がにじみ出る。
でも、昴。
私は五年目まで生きられないのよ。
中ではまだ笑い声が続いていた。
「昴さん、あの頃の演技ほんと神がかってたよな。瑞希なんかその場で泣いて気絶してさ、目が覚めたら自分も後を追って飛び降りそうな勢いだったし。こっちは笑いをこらえすぎて、内出血でもするかと思ったわ!」
「でもさ、彩花に五年付き添うって約束したんだろ?瑞希が耐えきれなくなって、ほかの男のところへ行ったりしないのか?」
昴はネクタイを整えながら、呆れたように言った。
「まさか。あいつは俺に惚れ込みすぎて、生半可なことじゃ離れられないんだよ。死んだふりでもしなきゃ振り切れなかったくらいだ。それに、あの四千万円があるだろ。あいつに逃げ場なんてない」
私は指を強く噛んで泣き声を押し殺した。涙が止めどなくこぼれ落ちる。
四千万円の借金から、私はたしかに逃げられなかった。
昴はため息をつき、いたわるような声で言った。
「瑞希にはまだ先が長い。けど彩花は肺がんで、余命は五年しかないんだ。死ぬ前にたったひとつ、俺と結婚したいって望んでる。そんなの、がっかりさせられるわけないだろ」
私は胸の痛みを押さえたまま、呆然と立ち尽くした。口元から血がにじんでも構わなかった。
彩花も、いつ肺がんになったの?しかも余命まで、五年なの?
誰かが調子を合わせるように笑った。
「そりゃあ彩花にあんなによくしてやるわけだよな。昔はまったく台所に入らなかったのに、わざわざ海外まで薬膳を習いに行って、四年も毎日あの手この手で作ってやってたんだから!」
「そうそう。昴さんなんて昼も夜も彩花につきっきりで、一歩も離れなかったもんな。まるで掌の上で大事に大事に包み込むみたいにさ!」
昴は手を振った。
「彩花には最高のものを与えるべきだ。俺が、あいつにいちばん盛大な結婚式を贈る」
中から楽しげな笑い声が弾けた。
私は拳を強く握りしめたまま、掌に食い込む痛みにすら気づかなかった。
この四年間、私は一度だってぐっすり眠れたことがない。毎晩、彼が崖から落ちるあの瞬間の悪夢で目を覚ました。
あまりにも突然の死で、私は妊娠五週目だったことすら彼に伝えられなかった。
彼を掴みとめられなかった自分が許せず、罪悪感に押し潰されながら、彼が落ちた崖のそばに三日三晩ひざまずいた。その三日間で、髪は真っ白になった。
足を引きずりながらようやく家に戻ると、彼が残した四千万円の借用書が届いていた。
彩花に家を追い出された私は、一文なしで、日雇い仕事を掛け持ちして返済の金を貯めるしかなかった。
配達の仕事もした。屋台で軽食も売った。荷運びの力仕事もした……
苦しさも、疲れも、貧しさも怖くはなかった。
ただひとつ、息子の真田思希(さなだ しき)にだけは申し訳なかった。
妊娠中の鬱屈がたたり、あの子は生まれつき心臓が弱く、三歳でこの世を去った。
貴重な薬膳なんて言うまでもない。生きているあいだ、あの子は一度だってまともな食事を口にできなかった!
あんなに幼かったのに、私と一緒に墓参りに行ったときには、半年も食べるのを我慢していた棒付きキャンディを、会ったこともない「お父さん」に供えてくれた。
それなのに今、昴は何事もなかったかのようにそこに立っていて、あれは死んだふりだったと言うの?
胸が激しく上下し、そのたびに肺の痛みが全身へ広がっていった。
ちょうどそのとき、ハイヒールの音が近づいてきた。
私は物陰に身を潜めたまま、ウェディングドレスをまとい、完璧に着飾った彩花が中へ入っていくのをただ見ていることしかできなかった。
「あなたぁ~、もう二時間も顔見てないのよ。すっごく会いたかったぁ!」
彼女は昴の首に腕を回した。
「ねえ、私きれい?」
昴は優しく彼女の髪を撫でた。
「もちろんだ。君は俺のいちばん大切な妻だよ」
彩花はドレスの裾をつまみ、鏡の前で軽やかにひと回りした。すると何かを思い出したように、甘える声で鼻を鳴らした。
「じゃあ、瑞希は?ちゃんと覚えてるんだからね。あなた、昔あの子と結婚したとき、二人だけの誓いを込めた特別な指輪まで贈ったじゃない」
昴は顔色ひとつ変えず、鼻で笑った。
「しょせんあの女は下劣な紛い物だ。君と比べる価値もない。君に言われるまで、そんな女のことなんてとっくに忘れていた」
私は震える手で、何もはまっていない薬指に触れた。顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
この世にひとつだけの指輪をはめ、夫婦となる。この命が尽きるまで、想いは変わらない。
そう言ったのは、たしかに彼だった。
幼なじみとして育ち、大人になって夫婦になるまで、私は一度も彼の心を疑ったことなどなかった。
彼が堕落死したあと、私は指輪をはめたまま聖地への巡礼に出た。救いを求めるように、一歩進んではひれ伏し、一歩進んでは額を地につけ、長い道のりを血まみれになりながら進んだ。
どうか、神様があの人の魂を覚えていてくださいますように。来世では、穏やかで幸せな人生を歩めますように
どれほど落ちぶれ、ゴミ箱を漁って不用品を拾い、それを売って金に換えるような暮らしをしていたときでさえ、私はあのダイヤの指輪を売ろうと思ったことは一度もなかった。
思希が亡くなったとき、私は自分の髪を切り、その指輪と一緒にあの子の骨壺へ入れた。
いつか天国で、私たち三人がまた家族として巡り会えますようにと、ただそれだけを願って。
結局、この何年ものあいだ、ひとりで勝手に想い続けていただけだったのだ。
「まもなく挙式を始めます!新郎新婦はご入場ください!」
司会者の声が、私の思考を断ち切った。
二人はそのまま幸せそうに腕を組み、甘く寄り添いながら、私の目の前を通り過ぎていった。
この上なく賑やかだった。
片隅でうずくまる私に、目を向ける者は誰ひとりいなかった。
割れんばかりの拍手の中、甘やかな歌声が流れ始めた。
私は目を見開いたまましばらく呆然とし、それからよろめきながら立ち上がると、結婚式場へ向かって駆け出した。
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