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夫が娘の命を捧げて愛人の腎臓を救った第3話

この話は約1818字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

翌日の未明、私は娘の骨壺を抱え、行き場のない魂のように家に戻った。

ソファに座り込み、午後になるまで茫然としていたところ、ようやく斉藤が帰ってきた。

16歳の頃から斉藤と一緒に社会に出て働き始め、21歳である程度成功を収め、結婚し子供を持った。

気づけば娘ももうすぐ成人だ。

23年間の伴侶としての時間が、一瞬で無に帰ってしまった。

家に入るなり、彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに冷たい表情に戻り、口を開いた。

「しずちゃんが渚に腎臓を提供したことを黙ってたくらいで、そんなみすぼらしい姿を晒して、俺を怖がらせようってのか?」

私は髪はボサボサ、目の下に隈を作り、見るも無残な有様だった。

彼は不満げに靴を蹴り飛ばし、テーブルへ向かい水を飲もうとする。

だが、水差しは空だった。

「お前、家で楽ばっかりして、何もせんとはどういうことだ?せっかく家に帰っても一杯の水もない。これで俺に文句を言えるのか?」

そう言うと冷蔵庫を開けて冷たい水を取り出した。

彼が松本と付き合い始めてから、夜も帰らないことが多くなった。

そのことで私たちは何度も言い争い、斉藤が初めて離婚を切り出したのもこの時だった。

私はカッとなり、即座に同意したが、娘が高校の休暇中にその話を聞いて泣き喚き、大騒ぎになった。

娘のために、私たちは離婚の話を封印した。

しかし、娘がもういない今、私には彼と一緒にいる理由がなくなった。

私は事前に準備していた離婚届を彼の前に差し出した。

「斉藤、離婚しましょう。もう娘のためにお互いを無理に縛り付ける必要はないわ」

斉藤は冷たい水を一気に飲み干し、怒りを必死に抑えているようだった。

「渚に腎臓を提供したことで、まだ怒ってるのか?お前も大人になれ。病人にいちいち腹を立ててどうする?

俺が食わせてやってんだぞ。離婚して、お前がまともに生きていけると思うか?

お前と離婚しないのはしずちゃんに『完璧な家族』を与えるためだけなんだ。そうでないととっくに離婚したぞ。

お前がいい母親を演じる気がないなら、俺は少なくとも約束を守る父親でいなければならない!」

かつて命をかけて愛してくれたはずの男から、こんな冷酷な言葉を浴びせられるとは。

目頭が熱くなり、胸が締め付けられる思いだった。

「しずちゃんはどうした?渚が退院したなら、しずちゃんだってもっと早く退院してるはずよね。

呼んできてよ。ほら、しずちゃんが好きだったマンゴーケーキを買ってきたよ。明日は彼女の成人式だけど、私は予定があって参加できないから、早めにお祝いしようと思って」

彼が玄関の棚から精巧なケーキの箱を取る姿を見て、私は冷笑を漏らした。

松本のために、自分の娘の一生に一度の成人式にも行かないのか。

「斉藤、娘がもうすぐ成人になるというのに、彼女がマンゴーアレルギーだってことも知らないの?」

斉藤は眉間に深い皺を寄せ、信じられないものを見るような目で私を見た。

「また何をバカなことを言ってるんだ?今までしずちゃんにケーキを買って帰るたび、彼女がどれだけ喜んでたか知らないのか?」

「彼女はただ、あんたを気遣ってそう振る舞っていただけよ。

自分がどれだけ娘を愛してると思ってる?実際、あんたは彼女を全然理解していない。

彼女が本当に欲しかったのは、愛に溢れる家族だったんだ。形だけの家族なんかじゃない。

彼女はあんたを引き留めるために、松本に腎臓を提供した。彼女は、それであんたが昔のように家族を愛してくれると思っていた。でも、彼女が死ぬまで、その願いは叶わなかった」

斉藤は反射的に私の顔を叩いた。

「娘を侮辱するな!」

彼は怒りに震えながら私を睨みつけ、娘の部屋に向かった。

「しずちゃん、父さん帰ってきたぞ。体調はどうだ?」

2分待っても返事がない。

彼は私を一瞥すると、部屋のドアを開けた。

中は空っぽだった。ただ、机の上にはピンク色の箱のようなものが置かれている。

「松田、しずちゃんをどこに隠した?彼女は安静が必要なんだ。頼むから俺を苦しめないでくれ!」

彼の一言一言が胸にナイフを突き刺してくるようだった。

私は思わず声を荒げて問い詰めたくなった。

「なぜ松本にはあれほど尽くしておいて、娘には何一つ気遣わなかったのか!」と。

だが、その言葉は喉元で止まり、結局、口にする気力さえ湧かなかった。

彼が娘の死を知ったとき、どんな気持ちになるのだろう。

私は笑いながら机を指さした。

「そうよ、私はしずちゃんを隠したわ。あのピンク色の骨壺の中にね」

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