君に捧げた一生、背負うは千行の涙第3話
この話は約1492字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
彼らと一緒に会場に入った紗奈は、見覚えのある顔をいくつも見つけた。
それは彼女と隼翔の共通の友人たちだった。
一瞬にして、場の空気が気まずくなる。
「紗奈、怒らないで、真奈の病気は本当に待ったなしなんだ」
「そうだよ、俺たちも今日の結婚式がただの形式だと知っているから、気にしないで」
隼翔が真奈と結婚することは、彼ら全員知っていた。
けれど誰一人として紗奈に知らせてはくれなかったのだ。
むしろ今は逆に、紗奈に理解を求めてくる始末だった。
紗奈は無表情のまま小さくうなずく。
「分かってる」
離れていた四年間で、自分の周りの人間は皆、真奈の味方になったらしい。
紗奈は冷たさと皮肉が胸の奥から込み上げてきた。
やがて式が始まり、真奈と隼翔は司会者の指示に従い、互いに見つめ合いながら淡々と儀式を進めていく。
隼翔はポケットからゆっくりとダイヤモンドリングを取り出し、真奈の指に嵌めた。
その光景を見た瞬間、紗奈の胸が抑えきれずに痛んだ。
その指輪は人生でたった一人にしか贈れない。隼翔がその意味を知らないはずはない。
彼の表情は揺るぎなく、演技とは思えなかった。
要するに、隼翔の心はもうとっくに決まっていたのだ。
では、なぜ自分が帰国した後に、あえて近づいてきたのか。
紗奈はどうにか感情を抑え、ただ一刻も早く式が終わることだけを願っていた。
誓いの言葉が終わると、司会者は場を盛り上げるように二人へ「キスを」と促した。
隼翔は思わず紗奈の方を見てしまう。
だが紗奈は一瞥もせず、黙ってスマホをいじっていた。
隼翔の胸に得体の知れない苛立ちが込み上げる。
――どうしてこんなに平然としていられるんだ?
昔の紗奈なら、ちょっと他の女と話すだけで拗ねていたはずだ。
それなのに、今では自分が妹と結婚するというのに……こんなに冷静でいられるなんて。
わけの分からない不安が、隼翔の心にじわじわと染みていった。
真奈に腕を引かれて、ようやく現実に戻る。
けれどそんな隼翔の心境には気づかず、紗奈は必死に航空券を予約していた。
だが数日は便がなく、紗奈は苛立ちを隠せない。ここに長居すればするほど、心が擦り減ってしまうからだ。
医者に「食生活に気を付け、心を穏やかに保つこと」と言われていた。そうでなければ、後遺症を招く恐れがある。
その頃、参列者の催促に押され、隼翔は歯を食いしばり、真奈を抱いて唇を重ねた。
ちょうどその瞬間、紗奈は顔を上げて、その一部始終を目に焼き付けてしまう。
心は激しく締め付けられたが、それもほんの一瞬のことだった。
紗奈はバッグを手に取り、そっと席を立とうとした。
ところが舞台上の真奈に呼び止められる。
「お姉ちゃん、最後に祝福の言葉をお願いしたいの。
これで式もおしまいなんだから、お姉ちゃんも協力してくれるよね?」
昔なら紗奈は怒りで震えて、いっそ真奈を叩きつぶしたかっただろう。
だが今の紗奈は、ただ観念したようにバッグを置き、一歩ずつ壇上へと上がった。
「分かったわ。祝福するよ
真奈と隼翔が、末永く幸せで、早く子宝に恵まれますように。
これでいい?」
その言葉に、隼翔の顔が一気に険しくなる。
周囲も気にせず、紗奈の前に突っ込むようにして手を掴んだ。
「どういう意味だ!もういい加減にしろよ。何度言えば分かるんだ?これはただの幻みたいな式だ。終わったら俺のすべてはお前のものだ。それじゃ不満なのか?」
司会者は舞台の三人を呆然と見つめ、状況が理解できずにいた。
紗奈は隼翔の手を振り払い、二歩下がって冷たい目で睨みつけた。
「隼翔、なんで私が結婚した男を、また受け入れると思うの?
あなたはこれから私の義理の弟になるのよ。もっと分をわきまえなさい」
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