和紙文前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 · 第3話設定≡

前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意第3話

この話は約3250字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

奈津美の言葉が終わると同時に、外から涼の秘書が慌てて駆け込んできた。

涼という男は、普段なら何が起きても動じない人物だった。

先ほどの婚約破棄の話にも平然としていたのに、この時ばかりは瞳孔が縮み、明らかな動揺を隠せないでいた。

奈津美にはすぐ分かった。綾乃が自殺を図ったという知らせが届いたのだと。

険しい表情で立ち去ろうとする涼の前に、奈津美は立ちはだかった。

「涼さん、私たちの話はまだ終わっていません」

「邪魔するな」

涼の声は冷たく、危険な雰囲気を漂わせていた。

目の前のこの女は、会社と祖母を納得させるための道具に過ぎず、彼女に対する感情など一切持ち合わせていなかった。

奈津美と結婚することはできる。だが今日、綾乃に何かあれば、簡単には済まないつもりだった。

奈津美は一歩も引かず、尋ねた。

「そんなにお急ぎなのは、白石さんのところですか?」

その言葉に、涼は嘲りを込めて答えた。

「そうだが、何か?

綾乃はお前たちに追い詰められて自殺未遂まで追い込まれた。

言っておくが、黒川家の夫人の座は与えてやるが、それ以上は期待するな」

涼の言葉を聞いて、奈津美は虚しさを感じた。

彼女は綾乃に何一つ仕掛けていない。誰にも何もしていない。

なのに涼と綾乃は、彼女に最も深い傷を負わせた。

彼らの愛の生贄にされたのだ。

奈津美は声を張り上げた。

「涼さん、今日はあなたと私の婚約パーティーです。

もしここを出て白石さんのところへ行くなら、私たちの婚約は破棄させていただきます」

奈津美の声は大きくなかったが、周りの招待客全員に届くほどだった。

報道陣のカメラフラッシュが二人を照らし続けた。

涼は危険な目つきで眼を細め、言い放った。

「破談をちらつかせて脅すつもり?滝川奈津美、随分と図々しい女だな」

そう言い放つと、涼は奈津美の横を素通りして立ち去った。

彼は奈津美に黒川家との婚約を破棄する勇気などないと確信していた。

涼が去るのを見届けた奈津美は、凛として壇上に上がり、招待客に向かって微笑んで告げた。

「本日、涼は白石綾乃さんのために婚約を破棄されました。

私、滝川奈津美はそれを受け入れます。これからは涼とはそれぞれの道を歩み、無関係な者となります」

その言葉を聞いて、他の奥様方と談笑していた美香の顔色が一変し、手に持っていたシャンパングラスを落としてしまった。

まさか?

破談?

この奈津美は正気を失ったのか?

一方、車内で。

「社長、先ほど滝川さんが破談とおっしゃいましたが、もし本当なら、会長様の件は......」

破談?

涼は冷笑を浮かべた。

滝川家は必死に奈津美を黒川家に嫁がせようとしていた。

奈津美に至っては綾乃の真似をしてまで彼の気を引こうとしていた。

やっと願いが叶うというのに、破談するはずがない。

滝川家がそんな馬鹿げたことを奈津美にさせるはずもない。

「三浦夫人に伝えろ。芝居はもう十分だと。

黒川家の夫人の座が欲しくないなら、他にいくらでも候補はいる」

もしおばあさまが早く孫の嫁を迎えたいと焦っていなければ、こんなに早く婚約などしなかった。

「社長、では......本当に婚約を取り消すんですか?」

涼は冷淡に答えた。

「滝川家にはまだ用がある。婚約は予定通り進める」

「では先ほどの......」

「婚約は進めるが、滝川家には分をわきまえてもらう必要がある」

「滝川さんに説明を入れた方が......」

「必要ない」

奈津美の名前が出た途端、涼の目には軽蔑と嫌悪の色が浮かんだ。

「どうせ一日も経たないうちに、謝りに来るさ。こんな手は飽き飽きだ」

この三ヶ月間、奈津美は彼に取り入ろうと必死だった。

彼の好みを探り、日々のスケジュールを把握し、しょっちゅう祖母の元へ通っては機嫌を取っていた。

本当に吐き気がする。

おばあさまが奈津美を気に入り、さらに滝川家に利用価値があるからこそ、このような女との婚約を承諾したのだ。

今回、奈津美が婚約パーティーで駆け引きをするつもりなら、決して妥協するつもりはない。

夕方、滝川家の邸内。

奈津美が車から降りると、すぐ後ろに美香の車が止まった。

美香は車から降りるなり怒鳴り始めた。

「奈津美!正気を失ったの?

あんな場で破談なんて言い出すなんて!頭がおかしくなったんじゃないの!」

奈津美は無視して歩き続け、身につけていたアクセサリーを次々と外していった。

女中の鈴木愛理(すずき あいり)は早々に戻ってきた奈津美を見て、不思議そうに尋ねた。

「お嬢様?今日は黒川様との婚約パーティーじゃありませんでしたか?どうしてこんなに早くお戻りに?」

奈津美は答えず、衣装部屋へと向かった。

首のパールネックレスを引きちぎり、ドレスを脱ぎ捨て、クローゼットから綾乃風の服をすべてダンボールに放り込んでいった。

「お嬢様!何をなさっているんですか......」

愛理は呆然とした。

奈津美は棚に並んだ香水の列を見つめた。

これらはすべて綾乃が好んでいた香水だった。

「パリーン」という音とともに、奈津美は香水を床に叩きつけて割った。

愛理は奈津美の突然の行動に驚いて飛び上がった。

「どいてください」

奈津美の冷たい声が耳に入り、愛理が反応する間もなく、奈津美はダンボールを抱えて階下へ向かった。

滝川家の裏庭で、奈津美はダンボールの中身を大きな金属製のドラム缶に空けた。

ガソリンとライターを投げ入れると、たちまち炎が上がった。

燃え盛る炎を見つめる奈津美の目は冷たかった。

天が彼女にやり直すチャンスをくれた。

今度は、もう綾乃の影武者にはならない。

そう思うと、奈津美は携帯を取り出し、親友の村上月子(むらかみ つきこ)に電話をかけた。

「月子、あなたのお家の新聞社に記事を書いてもらいたいの。

一時間以内にネットで話題になるような記事。費用は私が出すわ」

「え?今夜、涼と婚約したんじゃないの?婚約くらいで全国民に知らせる必要ないでしょ!」

「後悔したの」

「何を後悔したの?もっと早く全国民に知らせなかったことを?」

「破談にするって言ってるの」

「破談?冗談でしょ!

誰が破談するっていっても、奈津美は絶対しないはずよ!

三ヶ月も必死に涼を追いかけたんだもの!」

電話の向こうが黙り込み、月子はようやく事の重大さを悟った。

「まさか......本気?」

翌日、滝川家のお嬢様の破談宣言がネットで大炎上した。

この話題について様々な議論が飛び交い、神崎市中の誰もが知っていた滝川家のお嬢様・滝川奈津美が黒川財閥の社長・黒川涼に一途な想いを寄せていたことを。

ところが婚約パーティー当日、奈津美が突然破談を宣言し、黒川家との婚約パーティーを台無しにした。

これは黒川家の面子を完全に潰す行為だった。

「滝川家お嬢様の滝川奈津美氏が、黒川財閥社長の黒川涼氏のED疑惑と暴露。

将来の夫婦生活における不和を避けるため、やむを得ず破談を決意。

黒川家には深くお詫び申し上げます、とのこと!?」

会員制クラブの個室で、早見陽翔(はやみ はると)は携帯を手に大笑いしながら言った。

「おいい涼、マジかよ?お前、そんな問題があったのか?見せてみろよ!」

陽翔が手を伸ばしてきたのを、涼は払いのけ、顔を険しくして尋ねた。

「どこの新聞社だ?」

「どこって?村上新聞だよ。

今回は相当な数の媒体に配信したらしいぜ。一面トップの新聞も10万部刷ったって。

今やネット中が『黒川財閥の社長、ED疑惑』って大騒ぎだぞ。トレンド1位だ。見てみるか?」

陽翔がふざけて携帯を涼の目の前に突き出すと、涼の表情はますます暗くなり、グラスを握りしめながら殺気を帯びた目つきで言った。

「滝川奈津美の仕業か?」

「間違いないでしょ。滝川家のお嬢様と村上家の娘は幼なじみの親友だもん。

お前、何か彼女に酷いことしたんじゃないの?

だって、あれだけお前に夢中だった奈津美が、ここまでお前を全国的に貶めるなんて」

そこへ田中秘書が個室に入ってきて、声を上げた。

「社長......」

涼は険しい表情のまま尋ねた。

「調べたか?滝川奈津美はどこにいる?」

「あの......隣の部屋にいるようです」

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