初恋の呪い、裂かれた妻の魂第3話
この話は約1713字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は自分の耳を疑った。
そんな言葉が、私がこの世で一番愛した夫の口から出るなんて、なんて皮肉なんだろう。
「そうだよな、あんな奴に、警察なんて務まるわけない!」
海斗も頷きながら軽蔑の声を上げた。
「あの人でなし、死んで当然だし、記録からも抹消してやるべきだ!」
「もうすぐだな」
剛志はドアノブに手を置き、押して外に出ていった。
私の頭は真っ白になった。
記録には、私が命懸けで得た栄光が一つひとつ、鮮明に刻まれている。それは命より大事なものだ。
それなのに、ただ香織のために、それさえも抹消するつもりなのか!
本当に、彼の胸倉を掴んで問いただしたい。
――剛志、あなたは私を愛したことがあるの?
「もしもし、香織?」
歩いている途中で、剛志は電話を取り、その瞬間、自然に笑顔が浮かんだ。
電話の向こうからは甘えた声が聞こえてきた。
「剛志、もう終わった? どのドレスもすごく可愛くて、選ぶのに迷っちゃう。早く来て一緒に選んでよ」
「わかった、すぐ行くよ」
剛志はその優しい声で返事をし、足早に歩き出した。
そして、私はそのまま引きずられるように、ウェディングドレスの店へと連れて行かれた。
「剛志!」
香織は白いマーメイドドレスをまとって、彼の胸に飛び込んだ。
剛志は微笑みながら、彼女の輝くティアラを直して、頬に軽くキスをした。
「本当に綺麗だよ」
「これだけで綺麗?」
香織は顔を上げて鼻を鳴らした。
「後ろのドレスの方がもっと綺麗だったら、どうするの?」
「赤ちゃん、一つだけ言わせてくれ」
剛志は彼女の腰をそっと抱きながら、優しい口調で言った。
「君が美しいから、どのドレスも素敵に見えるんだよ」
香織は恥ずかしそうに微笑み、軽く彼を叩いた。
「もう、いやらしい!」
その光景は、あまりにもロマンチックだった。
ウェディングドレス店のスタッフも羨ましそうに笑い、二人はまさに「お似合いのカップルだ」と囁いていた。
かつて、私がウェディングドレスを試着した時、剛志はこんな風ではなかった。
「忙しいから、君が気に入ったものを選べばいい」と言っただけ。
でも、何がそんなに忙しかったの?
――香織の仕事のレポートを手直ししていたんだ。
「ふぅ......」
突然、香織が眉をしかめ、震えた。
剛志はすぐに彼女の腕を放し、優しく椅子に座らせた。
「また足が痛むのか?」
香織は笑顔を見せた。
「ちょっとだけよ」
「ふん、俺は絶対に理沙という裏切り者を捕まえてやる」
剛志は歯を食いしばりながら言った。
「当時、君は彼女に協力するために、わざわざ人質になって危険な場所に飛び込んだのに、彼女は君の両足を傷つけ、終身障害になりかけたんだ!」
違う!
そんなことはない!
本当は彼女こそが裏切り者なんだ!
なぜ彼女の一方的な言い分だけで、私の無実を完全に否定するの?
剛志、あなたのあの正義感と細心の注意深さはどこに行ったの?
私は怒りで体が震えそうだったが......それでも彼らの愛し合う姿を邪魔することはできない。
「先日、骨科の専門医を紹介されたんだ。結婚式が終わったら一度見てもらおう。君はハイヒールが好きだからな」
「別に必要ないわ。どうせ妊娠したら、フラットシューズを履くようになるし」
「それとは全然違うよ」
剛志は彼女の手を握り、深いキスを落とし、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「香織、俺はこれから先、君が毎日、自分の好きなように生きられることを願っているんだ。もう、無理をして何かを選ぶ必要はないんだよ」
香織は目に涙を浮かべ、「剛志......」と囁きながら、二人は再び抱き合い、キスをした。
その光景を見ているだけで、私は胸が締めつけられた。
耳元に、死の間際に香織が嘲笑う声が蘇る。
「たとえあなたが剛志と結婚したとしても?」
「私という『初恋』には、絶対に敵わないわ!」
そう、私には敵わない。
剛志の心の中で、私は一度も彼が信じる「第一の存在」ではなかった。
香織こそがその「第一」だったのだ。
彼女は豪邸に嫁ごうと必死になって、金持ちのボンボンに尽くした挙句、出自を理由に彼の母親に追い出され、再び剛志のもとに戻ってきた。
それでも、彼女は「純粋無垢な初恋」のままだ。
全ては彼女の「苦労」と「やむを得なかった事情」のせいだ。
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