八年尽くした彼に捨てられ、私は彼の叔父に嫁いだ第3話
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部屋に戻り、薬を一錠飲んで、ようやく崩れそうな感情を落ち着かせた。
その時、湊から電話がかかってきた。
通話ボタンを押すと、彼の優しい声が聞こえてくる。
「美月、送ったウェディングドレスの写真は見てくれたかい? どれが気に入った?」
私は殊勝な態度を装い、素直な声で答えた。
「見ました。どれもすごく綺麗でした。
一番好きなのはあの深い藍色の、裾に月と星があるドレスです。でも、結婚式であんな暗い色なんて、縁起が悪くないでしょうか?」
湊は楽しげに笑った。
「まさか、若いのに縁起を気にするなんて、珍しいな。君が気に入ったなら何色だっていいんだよ。これは私たちの結婚式だ。君が絶対的な主役なんだから」
私は少し呆然とした。
主役、か。私のような罪人の子でも、主役になれるのか?
正直なところ、こんなに温かい言葉を聞いたのは久しぶりだった。
蓮と関係がこじれてからというもの、かつて私に媚びへつらっていた人たちは皆、敵意を向けてくるようになった。
時々、私の目の前にいるのは言葉を話す人間ではなく、私を切り刻もうとする無数の刃物のようにさえ思えた。
もう二度と、私に優しくしてくれる存在なんていないと思っていた。
よかった。まだ私と普通に話してくれる人がいたんだ。
心がふっと軽くなり、声にも自然と笑みが混じった。
「では、あれにします。ありがとうございます、ドレスすごく気に入りました」
その時、背後のドアが開いた。
振り返ると、蓮が焦った様子で飛び込んできた。「ドレス? 何の話だ?」
私はすぐに電話を切った。
結婚相手が誰なのかはまだ教えるつもりはないが、結婚すること自体を隠すつもりはない。
私は淡々と言った。
「私のウェディングドレスよ。私、結婚するの」
蓮の瞳の奥で、動揺がさざ波のように広がった。
彼は険しい顔で言った。
「何を馬鹿なことを!お前が結婚などできるわけがないだろう?」
その時、雪乃も部屋に入ってきて、私の言葉を聞いた途端、吹き出した。
「美月さん、冗談はやめてくださいよぉ。それって絵里さんのドレスの話じゃないですか?」
一宮絵里(いちみや えり)は彼女たちのグループの中で、かつて私と一番仲が良かった友人だ。
彼女は一ヶ月後に結婚する予定だ。
けれど、蓮に捨てられてからは疎遠になり、婚約パーティーにすら招待されなかった。
蓮の表情から緊張が消え、代わりに露骨な嘲笑が浮かんだ。
「やっぱりな。お前が結婚なんておかしいと思ったんだ。俺がいなけりゃ、この界隈の誰もお前を相手になんかしない。誰が結婚してくれるって言うんだ?」
呼吸が止まりそうになった。
彼は最初から知っていたのだ。あの取り巻きたちが、私に対して偽りの友情しか持っていなかったことを。
彼が私を庇わなかったのは、きっと彼も、私にはその程度の扱いがお似合いだと思っているからなのだろう。
蓮に対して初めて、生理的な嫌悪感を抱いた。
もう彼と話す気にもなれず、私は荷物の整理を始めた。
蓮が眉をひそめる。「荷造りなんかしてどうするつもりだ?また家出か?どうやら、部屋に閉じ込めたくらいじゃ反省が足りないようだな」
私は畳んだ服を握りしめ、顔も上げずに言った。
「季節の変わり目だから、服の入れ替えをしてただけよ」
蓮は少し気まずそうにしたが、相変わらず憎まれ口を叩いた。
「お前が小賢しい真似ばかりするから、俺も誤解したんだ」
私は何も答えなかった。
彼がさらに何か言おうとした時、雪乃が突然お腹を押さえた。
「蓮さん、お腹が急に痛くてぇ……」
蓮は私になど構わず、すぐに雪乃を抱き上げて部屋を出て行った。
二人の背中を見送り、私は心底ほっとした。
いつの間にか、蓮と同じ空間にいるだけで息が詰まるようになっていたのだ。
……
三日はあっという間に過ぎた。
幸い、この三日間は蓮も忙しかったようで、家に帰ってこなかった。
私はその隙に、不要な物を捨てたり寄付したりして処分した。
そして彼から貰ったプレゼントだけは一つの箱にまとめ、部屋の一番目立つ場所に置いた。
こうしておけば、私が去った後、彼が部屋に入ればすぐに目につくだろう。
最後の日、朝早くに階下へ降りると、蓮と雪乃が朝食をとっていた。
雪乃は私を一瞥すると、期待に満ちた顔で蓮に言った。
「叔父さんが結婚するんですってね。蓮さん、当日は私も連れて行ってくれますよね?」
蓮は溺愛するような笑みを見せた。
「もちろんだ。君は俺の婚約者なんだから」
雪乃は恥じらうように笑い、私を見て言った。
「美月さんも一緒に行きましょうよぉ」
私が答える前に、蓮が拒絶した。
「連れて行くわけないだろう。向こうで騒ぎを起こされたらどうする?
また俺が恥をかくのは御免だ」
雪乃はわざとらしく残念がった。
「そうですかぁ……残念ですぅ」
私が無表情のまま、二人の会話など気にも留めていない様子を見て、蓮は不機嫌そうに眉を寄せた。
彼は低い声で言った。
「俺はこれから雪乃とオーストラリアへ発つ。
明日は叔父さんの結婚式だからな、今日はお祝いの品を選びに行く。
叔父さんはお前のことも気にかけてくれていたから、お前から渡す分も、俺が一緒に買っておいてやる。
俺たちがいない間、大人しく留守番してろよ。逃げようなんて馬鹿な真似はするな。いいな?」
私は笑いを噛み殺した。
私がここから出て行かなければ、結婚式で、誰が花嫁になるというのか?
だが、この期に及んで彼を不機嫌にさせて、監視をつけられるのは御免だ。
私は素直なフリをして、明るい声で答えた。
「安心して。どこにも行かないわ。家で二人の帰りを待ってる」
雪乃の顔色がさっと曇った。
彼女は私がこの隙に逃げてくれることを望んでいたのだろう。
だから、私が図々しく居座り続けると聞いて、腹が立ったのだ。
彼は、あまりにも聞き分けが良すぎる私に違和感を覚え、探るような目を向けた。
しばらくして、彼は私の変化を反省したからだと都合よく受け取り、満足げに言った。
「ああ。土産でも買ってきてやるよ」
まるで施しを与えるようなその口ぶりに、吐き気がした。
私はにっこりと微笑み、さらりと言った。
「お土産なら、一つだけで十分よ」
本当はあなたが用意する「新婦への結婚祝い」だけでいいのだ。
それ以外の余計なものは要らないし、必要ない。
蓮は私の言葉の真意に気づかず、鼻で笑った。
「当たり前だろ。二つもやるとでも思ったか? 欲張りなやつだ」
……
間もなくして、彼は雪乃と共に空港へ向かう車に乗り込んだ。
私は二階の窓から、遠ざかる車を冷ややかに見下ろした。
オーストラリアでの再会が、今から楽しみでならない。
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