八年尽くした彼に捨てられ、私は彼の叔父に嫁いだ第1話
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日陰の存在のまま、私は八年間、ただひたすらに西園寺蓮(さいおんじ れん)に尽くしてきた。
車椅子生活から立ち直るまで彼を支え、うつ病の底なし沼から彼を救い出したのも私だ。
いつかきっと、この長い夜が明けて、報われる日が来ると信じていた。
しかし、彼の想い人が帰国したことで、その願いは残酷にも打ち砕かれた。
彼は私に、余計な恋心を捨てて、ただ友達としてそばにいろと言った。
彼は彼女のために私を冷遇し、私の尊厳を踏みにじった。
彼は知らないだろう。
彼のうつ病を治すために、私がどれほどの絶望を飲み込んできたか。
彼が完治したその日、皮肉にも私の心は壊れ、重度のうつ病と診断されたのだ。
もう、限界だ。
自分を救うため、私は彼への愛を捨て、彼の叔父と結婚することを決意した。
しかし、私の結婚式当日、あれほどプライドの高かった彼が、皆の前でなりふり構わず跪いた。
「お願いだ、俺を見捨てないでくれ!」
* * *
日陰の存在のまま、私は八年間、ただひたすらに西園寺蓮(さいおんじ れん)に尽くしてきた。
車椅子生活から立ち直るまで彼を支え、うつ病の底なし沼から彼を救い出したのも私だ。
いつかきっと、この長い夜が明けて、報われる日が来ると信じていた。
しかし、彼の想い人が帰国したことで、その願いは残酷にも打ち砕かれた。
彼は私に、余計な恋心を捨てて、ただ友達としてそばにいろと言った。
彼は彼女のために私を冷遇し、私の尊厳を踏みにじった。
彼は知らないだろう。
彼のうつ病を治すために、私がどれほどの絶望を飲み込んできたか。
彼が完治したその日、皮肉にも私の心は壊れ、重度のうつ病と診断されたのだ。
もう、限界だ。
自分を救うため、私は彼への愛を捨て、彼の叔父と結婚することを決意した。
しかし、私の結婚式当日、あれほどプライドの高かった彼が、皆の前でなりふり構わず跪いた。
「お願いだ、俺を見捨てないでくれ!」
……
「叔父様、私……あなたのお嫁さんになります」
病室のベッドに横たわり、スマホを耳に当てたまま、私・如月美月(きさらぎ みづき)は空いた手を目の前に掲げた。
血の滲むガーゼが巻かれた手首を、虚ろな目で見つめる。
自殺を図ったのは、これで何度目だろう。
もう覚えてもいない。
ただ、抑えきれない感情の波に襲われるたび、生きる気力さえ跡形もなく消え失せてしまうのだ。
電話の向こうで、西園寺湊(さいおんじ みなと)は真面目な声で私を正した。
「美月、私は蓮の叔父であって、君の叔父ではないよ。これからは『湊さん』、あるいは『ダーリン』と呼んでみるかい?」
「蓮」という名を聞いた瞬間、心臓をゴムでパチンと弾かれたような痛みが走った。
蓮は、私が十年もの間、深く愛し続けた男。
物心ついた頃から、私たちはいつも一緒だった。
その時、如月家の娘は行方不明で、私は彼らに養女として迎えられ、ずっと令嬢として扱われていた。
近所に住んでいた彼は兄のような存在で、私たちは毎日飽きもせず一緒に遊び、幼馴染として育った。
その後、本物の令嬢である如月雪乃(きさら ゆきの)が戻り、私が家を追い出された時も、蓮は私を見捨てなかった。それどころか、私を自分の家に連れ帰ってくれたのだ。
あの日から、彼は私にとってかけがえのない存在になった。
けれど今、私は彼を諦めることにした。
「湊さん……」私は素直に呼びかけた。
湊は満足そうに笑った。
「いい子だ。じゃあ、一週間後に会おう」
「ええ、一週間後に……」
通話を終えた直後、背の高い姿が病室に入ってきた。
その姿を見た瞬間、私は慌ててスマホを隠した。
そこに立っていたのは蓮だ。オーダーメイドの高級スーツに身を包み、その佇まいは洗練されている。
背筋を伸ばして立つ今の彼には、かつて車椅子に乗っていた頃の荒んだ面影など微塵もない。
「一週間後に、誰と会うんだ?」彼は疑わしげに尋ねた。
「昔の友達よ」私は冷たく答えた。
蓮はさらに眉をひそめた。彼は私の交友関係を全て把握しているはずだ。
ここ数年、私は彼に付きっ切りで、彼の周りの人間としか関わらず、本当の友達なんて一人もいない。
彼がさらに問い詰めようとしたその時、私のあまりに無関心な態度を見て、言うことを変えたようだ。
「リストカットなんて、楽しいか?」彼は低く沈んだ声で言った。
その冷酷な響きが、私を昨夜の記憶へと引き戻した。
私は別荘を出たいと申し出たが、蓮はそれを許さず、反省しろと言って私を寝室に閉じ込めたのだ。
私は何も間違ったことなどしていなかったのに。
ただ彼から離れ、彼への執着を断ち切りたかっただけなのに。
抑えきれない感情が爆発し、うつ病の闇に飲み込まれた私は、朦朧とした意識の中で手首を切った。
あの時、私は本気で死にたかった。
けれど蓮はそれを誤解したようだった。
蓮は、私が彼の気を引くために敢えて自傷をしたと思い込んで、私を病院に運び込んだが、そこで医師にこう命じたのだ。
「縫合の際、麻酔は必要ない。その痛みを体に刻み込ませてやれ」
私が人一倍痛みに弱いことを、彼は知っているはずなのに。
彼は無表情のまま、私が殺処分を待つ家畜のように押さえつけられ、針と糸が皮膚を貫くたびに悲鳴を上げる様を、冷ややかに見下ろしていた。
あの骨まで響くような激痛を思い出し、私は思わず震え上がった。
蓮を見る目にも恐怖の色が滲む。
彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに苛立ちを露わにした。
ドンッ、と彼が私のベッドに拳で殴りつけた。
その拳が耳をかすめ、ヒリヒリとした痛みが走った。
彼は歯を食いしばって吐き捨てた。
「また可哀想なフリか? いい加減にしろ!お前がリストカットなんかするから、雪乃に振られるところだったんだぞ!
あの子はお前が傷つくのを見たくないと言ったんだ。もしお前に何かあれば、一生悔やむことになるって。
雪乃があんなに優しい子なのに、お前はどうしてそんな卑劣な手段で、俺を彼女から奪おうとするんだ?」
以前なら、私は泣き叫んで訴えていただろう。
雪乃に騙されないで、彼女こそが恩知らずで、虚栄心が強く、裏表のある女なのだと。
けれど、今ようやく分かった。蓮は彼女を愛しているからこそ、無条件に信じているのだ。
かつて私が彼のためにそうしていたように。
私は微かに微笑み、従順な声色で言った。
「前は私が間違ってたわ。でも安心して、もう目が覚めたから。
雪乃さんには謝っておくね。もうあなたへの未練はないって、ちゃんと伝えるから」
この答えを聞けば彼も喜ぶだろうと思ったが、蓮は意外そうに私を凝視している。
しばらくして、彼は安堵したように言った。
「自分の立場を理解できたなら、それでいい」
その時、病室の外から雪乃の甘ったるい声が聞こえてきた。
「蓮さん、終わりましたよ」
氷のような表情が、一瞬でとろけ、甘いものへと変わる。
彼は背を向け、雪乃の方へ歩み寄りながら尋ねた。
「どうして向こうで待ってないんだ? 指はまだ痛むか?」
雪乃は彼に甘えるようにもたれかかり、絆創膏の貼られた指を目の前に突き出した。
「んもう、ナイフでちょっと切っちゃっただけですよぉ。
蓮さんが大袈裟なんですよ。お医者さんにも笑われちゃいました。あと少し遅かったら、もう治ってたかもねって」
蓮は真剣な顔で答えた。
「君のことなら、どんな小さなことでも俺には一大事なんだ」
雪乃は幸せそうに微笑んだが、ベッドにいる私を横目で捉えると、急に怯えたような小声になった。
「私、来ちゃいけなかったですか……また美月さんを怒らせちゃうかも……」
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