傷だらけの再会第1話
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結婚三年目、私のボディガードを務める佐藤健人(さとう けんと)が、雨の中で私に傘を差しかける動画がバズった。
ネット上では瞬く間に、「クールな護衛」と「ツンデレお嬢様」というカップリングが尊いと祭り上げられた。
ネット特定班の執念は凄まじく、私の十年前の動画まで掘り起こされてしまった。
動画の中の私はハイヒールをぶら下げ、なりふり構わずD国の空港を疾走している。
友人の森田千雪(もりた ちゆき)が冷やかす。「嘘でしょ、結衣(ゆい)。本当に帰国してあの貧乏人に告白する気?あいつのどこがいいのよ」
手ブレの激しい映像には、私のあどけない顔が映り、その目元や眉間には二十歳の頃特有の無鉄砲さが溢れていた。
「健人が好きなの。彼は、私の愛全てを捧げる価値がある人よ」
その夜、動画を見た健人が錯乱状態で私の部屋に押し入ってきた。
「君が僕を愛していたなんて……僕はてっきり……いや、僕たちはこんな結末になるはずじゃなかった……」
私は上着を羽織り、その場に立ち尽くしたまま何も言わない。
その時、背後から嘲るような笑い声が響き、熱を帯びた手のひらが私の腰を強く掴んだ。
「佐藤さん。俺の目の前で、俺の妻と昔話に花を咲かせるなんて……俺が死んでると思ってんのか?」
* * *
結婚三年目、私のボディガードを務める佐藤健人(さとう けんと)が、雨の中で私に傘を差しかける動画がバズった。
ネット上では瞬く間に、「クールな護衛」と「ツンデレお嬢様」というカップリングが尊いと祭り上げられた。
ネット特定班の執念は凄まじく、私の十年前の動画まで掘り起こされてしまった。
動画の中の私はハイヒールをぶら下げ、なりふり構わずD国の空港を疾走している。
友人の森田千雪(もりた ちゆき)が冷やかす。「嘘でしょ、結衣。本当に帰国してあの貧乏人に告白する気?あいつのどこがいいのよ」
手ブレの激しい映像には、私のあどけない顔が映り、その目元や眉間には二十歳の頃特有の無鉄砲さが溢れていた。
「健人が好きなの。彼は、私の愛全てを捧げる価値がある人よ」
……
アシスタントからタブレットを渡されるまで、私はネット上で自分と健人のカップリングが盛り上がっていることなど露知らずだった。
アシスタントは気まずそうに補足した。
「奥様の十年前の動画もトレンド入りしています」
画面では画質の粗い映像が自動再生され、コメントが幾重にも重なって流れていく。
【やっぱりただならぬ関係だと思った!雇い主を見る目が、餌を待つ忠犬そのものじゃん】
【残念だけど、高橋結衣(たかはし ゆい)お嬢様はもう結婚してるみたい】
【政略結婚でしょこれ。身分差がありすぎて引き裂かれる鬱展開、もう脳内で再生されたわ】
動画の注目度は上がり続けていた。
コメント欄ではすでに、私と健人を主役にした、身も心も引き裂かれるような壮絶な愛のシナリオが書き上げられていた。
繊細な言葉で描かれたありもしない葛藤や無力感に、私自身さえ信じ込んでしまいそうになるほどだ。
事情を知っているらしい少数のコメントだけが、呆れたように反論していた。
【は?何言ってんの?健人と高橋お嬢様、付き合ってないから。昔、高橋お嬢様が一方的に追いかけ回して、バッサリ振られただけだし】
そのコメントをタップすると、反論の嵐が巻き起こっていた。
【ありえない。健人は絶対高橋お嬢様を愛してる。目は口ほどに物を言うってね、彼の瞳には彼女しか映ってないよ】
私はタブレットの画面を消し、それ以上馬鹿げた言葉を見るのをやめた。
十年前、私も健人が私を愛していると思っていた。
だから私は、人生で初めてプライドも打算もすべてかなぐり捨て、脇目も振らず彼のもとへ走った。
けれど、ありったけの勇気を振り絞って海を越えたその行動は、結局のところ、誰からも拍手されない、ただの滑稽な一人芝居でしかなかった。
その後、私はD国に戻って学業を続け、彼は国内で恋愛し結婚した。
私たちはそれ以来、交わることのない平行線となった。
最近になって夫と共に帰国した際、国内の分家筋が私たちのために護衛チームを手配してくれたのだが、その中に偶然、健人がいたのだ。
健人が私を愛しているかどうか。かつて私を眠れぬ夜に突き落としたその問いに、今の私はもう関心がない。
ただ、この賞味期限切れの愛を他人に品定めされるのは、多少なりとも胸糞が悪かった。
私が健人に出会ったのは十八歳の時だ。
その年、両親が私の意思を無視して婚約を決めた。
私は家出して、南方のひどく辺鄙な地方都市へと逃げ込んだ。
運が悪かったのだろう、駅を出てすぐに白タクを拾ってしまった。
車は三キロほど走ったところで、荒涼とした県道の脇でエンストした。
運転手は悪態をつきながら車を降りて点検し、その後、修理代として追加で一万円を要求してきた。
私が拒否すると、彼は汚い言葉で罵り、殴りかかろうとしてきた。
私はバッグを背負ったまま後ずさりする。あれは、私が生まれて初めて味わった本物の恐怖だった。
健人が現れたのはその時だった。
彼はモーターバイクを片足で支え、淡々とした視線を運転手に向けた。
「おい、やめときなよ」
運転手は唾を吐き捨てた。「てめえに関係ねえだろ!」
健人は顎で私に来るよう合図し、こう言った。「二キロ先に交番がある。警察でも呼ぼうか?」
結局、運転手は悪態をつきながら車で逃げ去った。
彼はようやく私の方を向いた。夕陽がその横顔を美しい茜色に染め上げていた。
「街へ行くのか?乗せてくよ」
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