ゾンビ溢れる世界、彼は幼馴染のために私の活路を絶った第3話
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彼が口にした通り、穂香への誓いを守り抜くのか。
それとも……生死の狭間で、人間性の最も醜い一面を晒すのか。
救援の約束と、シェルターの潤沢な物資。
それらは、この数日間優太を縛りつけていた不安を溶かしていった。
彼は穂香を伴い、物資を湯水のように使い始めたのだ。
浄水器の真水で服を洗い、救急用の抗生物質を栄養剤のように服用し、果ては電子機器のバッテリーを抜き取って音楽プレーヤーに供給する始末であった。
三日目の夕刻――救援到着まで、残すところ三十分。
優太が血相を変えて飛び込んできて、私と隊員たちの会議を遮った。
「文乃、早く血清を寄越しな」彼は、開口一番そう命令した。
私は眉をひそめて顔を上げる。「血清を何に使うんだ。まさか、誰か感染したのか?」
しかし、優太の返答は、その場にいた全員を唖然とさせた。
「違う!だが穂香ちゃんが熱を出したんだ。今、三十九度まで上がっている。解熱剤も効かない!
余計なことはいい。早く血清を出すんだ。彼女に注射する!」
私はゆっくりと立ち上がり、その声音は氷のように冷たくなっていた。
「この血清が何を意味するのか、分かってる?これは、私が三年を費やして研究開発したものだ。感染後五分以内に、ゾンビウイルスの拡散を阻止できる唯一の手段だよ!
まだ試験段階ではあるけれど、これが今の人類にとって最後の希望なんだ。そして、この手元にあるのは、これが最後の一本」
「ああ、もう、分かっている!」優太は苛立たしげに手を振った。
「だが、抗毒血清というのは、本質的に全てのウイルスに有効なのだろう?穂香ちゃんは今、とても苦しんでるんだ。ぐずぐずするな、早く渡せ!」
会議室は、水を打ったように静まり返った。
副隊長が、見るに堪えないというようにテーブルを叩いて立ち上がる。
「林優太、貴様の脳味噌はゾンビにでも食われたのか!たかが発熱で、これほど貴重な血清を無駄にするつもりか!」
「無駄だと!?」優太は甲高い声で反論した。
「穂香ちゃんは元々、体が弱いんだ。もし重症化したらどうする。それに……血清とは、人を救うためにあるのだろう!」
私が微動だにしないのを見て、優太の目つきがにわかに険しくなる。
あろうことか、彼は銃を抜き、その銃口を私の額へと突きつけてきた。
「出せ。俺を追い詰めるな!」
「林優太、貴様、正気か!?よくも……」
一人の仲間が制止しようと前に出たが、優太は躊躇なく引き金を引きかねない勢いだ。
このかつて深く愛したこの男を見つめ、どうしようもなく、馬鹿馬鹿しいと感じていた。
前の人生で――彼を守るために、どれほどの死線を越えてきたことか。
それが今、彼は穂香のために、私の命を盾に取る。
どれほど不本意であろうと、仲間たちはその唯一の血清を渡すしかなかった。
私たちはただ、優太が穂香にそれを注射するのを、見守るしかできなかったのだ。
わずか数分で、彼女の発熱は嘘のように引いていった。
熱が引いた後の、上気した頬を見せる穂香を、私は心の内で冷笑する。
彼女はか弱い仕草で身を起こし、目を赤くして皆に告げた。
「ごめんなさい……すべて、私が悪いのです……こんなに貴重な血清を使わせてしまって……私、本当に役立たずで……いつも皆さんに迷惑をかけて……」
隊員たちは次々と顔を背け、その白々しい芝居をまともに見ようとはしなかった。
「穂香ちゃん、そんなことを言うな。お前の命が、何よりも大切なんだ!」優太は心を痛めたように彼女の手を握り、目に涙を浮かべている。
穂香もまた、情愛に満ちた声で応えた。「優太さん、あなたがこれほどまでに尽くしてくれるなんて……誓いますわ、この命に代えても、あなたを守り抜くと!」
二人の睦言は、私思わず吐き気を催した。
前の人生で、命を懸けて優太を守ったことは数え切れない。それに対して返ってきたのは、彼の気安い一言だった。
「それがお前の役目だろう?」
それが今、穂香の、何の対価も伴わぬ口先だけの約束が、彼をこれほどまでに感動させるのだ。
実に、笑止千万な話であった。
程なくして、シェルターの外からヘリコプターのローター音が響き渡る。
救援の到着に、私たちは素早く装備を整え、外へと向かった。
優太は穂香を引っ張り、意気揚々とヘリに乗り込もうとしたが、兵士に腕を掴まれ制止される。
「お待ちください。身元の確認が必要です」
隊員たちが次々と搭乗していくにつれ、優太の顔から次第に笑みが消えていった。
「林優太、清水穂香……」兵士が名簿をめくりながら、眉をひそめた。
「申し訳ありませんが、名簿にお二人の名前は見当たりません」
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