やり直し人生、今さら後悔されても遅い第1話
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旦那の隼人と一緒に、年末に実家へ帰る途中だった。
……そのはずが、事故に巻き込まれて、気がついたら――恋人になる前の時間に戻っていた。
前の人生では、七年間、彼と結婚していた。お互いに礼儀正しく、表面上は平穏な夫婦。でも、彼は最後まで一度も子どもを望んでくれなかった。
あとになって、私はやっと気づいた全部わかったのは、死んだあとだった。彼の心の中にはずっと「思い人」の影が残ってたんだ。
だから私は決めた。今回は、彼を解放してあげようって。
黙って連絡先を消して、距離を置いて、それぞれ違う道を選んだ。
――そして、七年後。
彼は株の世界でトップに登りつめ、思い人の水瀬水無瀬さんと一緒に、同窓会で堂々と婚約を発表した。
私が一人でいるのを見ると、彼は皮肉を込めた笑みでこう言った。
「詩羽、俺のこと、二度の人生どっちでも一番愛してたって自覚してるけど……だからって、いつまでも俺のこと待ってなくていいんじゃない?」
私は何も言わずに、そっと息子の手を取った。
その瞬間、隼人の顔から血の気が引いた。目を真っ赤にして、私を睨みつけながら叫んだ。
「……お前、『一生一緒にいたい』って言ったよな?『俺のためだけに子どもを産む』って……言ったじゃないか!」
* * *
朝倉隼人(あさくら はやと)と再び顔を合わせたのは、あれからちょうど七年後の同窓会だった。
手術を何件もこなして、クタクタだった私は、身なりを整える気力もなくて、そのまま宴会場に入った。
彼は、いつの間にか人だかりの中心に立っていた。隣には水無瀬遙香(みなせ はるか)――彼の腕にしなだれかかり、まるで誇らしげに賞賛の声を受けていた。
「隼人、さすがだよなぁ!ニューヨークのウォール街に行ってまだ数年だろ?それで今じゃトップトレーダーとか、A市市立第一高校の誇りだよ!」
「そうそう、聞いたよ。現地の大物投資家たちが、隼人のために食事まで用意してくれるって!アドバイス料が何百万?俺たちの年収以上じゃん!」
「俺も最近株やっててさ〜。なあ、昔のよしみで、ちょっとだけインサイダー情報、教えてくれよ?」
そんな中で、誰かがふと訊いた。
「てか、隼人と遙香って、もう婚約するの?」
彼は腕の中の彼女に目を向け、優しい声で答えた。
「ああ。12月20日に婚約する予定だよ」
周囲からは一斉に「おめでとう!」の声が飛び交った。
それでも誰かが続けた。
「そういえば隼人、詩羽とはもう連絡取ってないの?あの頃、すごく熱烈だったよね。お前の初めての曲、詩羽のために作ったって話だったし」
私の名前が出た瞬間、彼の表情がわずかに固まったのがわかった。視線の奥が、ほんの少しだけ陰った。
そんな隼人の様子に気づかないふりをして、水無瀬さんが品よく笑って口を開く。
「やだ、何言ってるのよ。私たち、もうすぐ結婚するのよ?ああいう若い頃の恋って、長続きしないものよ。それに、詩羽のことなんて、隼人はとっくに忘れてるんだから」
その場が再び笑いに包まれた。でも、私だけは知っている。
あの曲は、隼人が私に告白するために、自分で書いたものだったってことを。
前の人生、私たちは高校で出会って、一目惚れだった。あのとき、彼は真剣な瞳でこう言った。
「詩羽、俺の目を見て。俺、お前のことが好きだ。目は、嘘をつけないから」
私は、あの言葉を信じていた。
けれど、前の人生の彼は、やっぱり嘘をついた。
静かに目元の表情を整えて、私は会場に足を踏み入れた。
目ざとい同級生が、すぐに声をかけてくる。
「詩羽!来るの遅いじゃん!」
「その格好で来たの?せめて着替えてきなよ〜」
「まさか仕事終わり?どこで社畜やってるの?成功者もいるんだから、誰か紹介してもらえばいいじゃん。ちょっとは楽できるよ?」
私の服装を見て、何人もの同級生が遠慮なく口にした。
でも、私は気にしなかった。にっこり微笑んで、最低限の礼儀だけは忘れずにいた。
隼人は、私が入ってきた瞬間から、ずっと私を見ていた。
私は彼に向かって、ごく簡単に言った。
「久しぶりね」
一瞬、彼は面食らったような顔をし、すぐに何かを隠すような目をして、それから皮肉な笑みを浮かべた。
「詩羽、何年経ってもお前は変わらないな。やっぱり上昇志向ゼロだ」
そのとき、水無瀬さんがじっと私を睨んでいた。
彼女は隼人の腕にギュッと抱きつきながら、私の目の前で、いかにも「私のものよ」と言いたげに甘えた声を出した。
「隼人、そんなこと言っちゃダメだよ。詩羽だって、いろいろ大変だったんだからさ。もう、そんなにズケズケ言わないであげて。ね?」
そして、私の全身をじっくり見下ろしてから、あからさまな嘲りを浮かべた。
「でも詩羽、その服装って……何て言うか、中途半端?もう若くないんだから、ちゃんと身なりに気を使わなきゃ。ね?そのままだとお嫁にも行けないよ。だってさ、男の人って、清潔感のない女の子、好きにならないでしょ?
メイク道具、貸してあげよっか?」
その一言が落ちた瞬間、場の空気がざわめき、あちこちからクスクスと笑いが起きた。
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