さよなら愛、終わらない罰第1話
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夫である柴田翔太(しばた しょうた)の浮気を知った望月菜々子(もちづき ななこ)は、彼に離婚を申し出た。
しかし、家に帰る途中で交通事故に遭い、記憶を失ってしまう。
彼女が目を覚ますと、そばには何食わぬ顔で夫の顔をした翔太がいて、菜々子に拉致されたショックで記憶を失ったのだと説明した。
その日を境に、菜々子は山頂の別荘に閉じ込められることになった。
なぜなら、「お前がこれ以上、少しでも傷つくことは耐えられない」と翔太が言い、菜々子を守るためだけに、わざわざセキュリティ万全の別荘を建てたからだった。
こうして菜々子は、翔太によってまるで鳥籠の中のカナリアのように3年間も匿われていた。
そんなある日、別荘に一人の女が乗り込んでくるや否や、花瓶を手に取り、菜々子の頭を殴りつけた。
しかも、いつも菜々子の言うことを何でも聞いてくれていた使用人たちも、助けようとしないどころか、その女を「奥様」と呼ぶ。
その瞬間、激しい頭痛とともに菜々子の記憶がすべて蘇り、自分の頭を殴った女こそ、翔太の浮気相手だったことも思い出した。
それは、菜々子が実の妹のように可愛がり、ずっと金銭的に助けてきた女子大生だった。
* * *
夫である柴田翔太(しばた しょうた)の浮気を知った望月菜々子(もちづき ななこ)は、彼に離婚を申し出た。
しかし、家に帰る途中で交通事故に遭い、記憶を失ってしまう。
彼女が目を覚ますと、そばには何食わぬ顔で夫の顔をした翔太がいて、菜々子に拉致されたショックで記憶を失ったのだと説明した。
その日を境に、菜々子は山頂の別荘に閉じ込められることになった。
「お前がこれ以上傷つくのは耐えられない」翔太はそう言って、彼女を守るためだと、このセキュリティ万全の別荘を用意した。
こうして菜々子は、翔太によってまるで鳥籠の中のカナリアのように3年間も匿われていた。
そんなある日、別荘に一人の女が乗り込んでくるや否や、花瓶を手に取り、菜々子の頭を殴りつけた。
しかも、いつも菜々子の言うことを何でも聞いてくれていた使用人たちも、助けようとしないどころか、その女を「奥様」と呼ぶ。
その瞬間、激しい頭痛とともに菜々子の記憶がすべて蘇り、自分の頭を殴った女こそ、翔太の浮気相手だったことも思い出した。
それは、菜々子が実の妹のように可愛がり、ずっと金銭的に助けてきた女子大生・杉山美優(すぎやま みゆ)だった。
……
意識を取り戻した菜々子は、鼻につく消毒液の匂いを感じた。
なんとか必死に目を開けようとするが、まぶたが重く上がらない。ただ耳元で、翔太が誰かを低く咎める声だけが聞こえてきた。
「美優、お前やりすぎだろ。
菜々子を傷つけていいなんて誰が言った?」
「ごめんって。ちょっとヤキモチ妬いちゃっただけじゃない」
美優のとろけるような甘い声を聞き、菜々子の背筋に悪寒が走る。
「火木土は菜々子のところに行くけれど、月水金は私と一緒にいてくれるって約束してくれたでしょ?でも……」
美優は恨めしそうに翔太を見つめ、赤い唇を軽く噛んだ。そして甘えるような声を出す。「この1週間、ほとんどあの女と一緒にいたじゃない。誰だって、ヤキモチぐらい妬いちゃうよ」
その言葉に気を良くしたのか、翔太の表情が少し和らいだ。「だからといって、頭を殴るなんてだめだろ?
それに、お前がこんなことしたら、俺は菜々子になんて説明すればいいんだ?」
翔太は、咎めるような顔つきで美優を見る。
しかし美優は悪びれる様子もなく、彼の袖を引っ張った。「それなら本当のことを話せばいいじゃない。だって、一生別荘に閉じ込めておくわけにもいかないんだから。
それに、彼女は今、記憶をなくしてるのよ。自分がお嬢様だったってことも忘れてる。それに、あなたの本当のお嫁さんは、私なんだから」
美優は顎をくいと上げ、鼻で笑った。「本妻が愛人を叩いただけじゃない。いちいち説明する必要なんてあるかしら?」
その言葉に、ベッドの上の菜々子の心臓が大きく跳ね上がる。
3年前、美優から、翔太とベッドにいる写真を送りつけられたことがあった。その時、菜々子は怒りを抑えきれず、翔太の会社に乗り込み、二人それぞれに平手打ちを食らわせたのだった。
そんな菜々子を翔太はきつく咎めたが、菜々子は平然と言い放った。「本妻が愛人を叩いただけじゃない。いちいち説明する必要なんてあるかしら?」
まさか、この言葉が今、美優の口から出るなんて。
しかし、そんなことよりも翔太の最低な行いの方が許せない。
この数年、彼は美優と結婚しただけでなく、記憶喪失の自分を騙して愛人にし、こんな惨めな立場に自分を追い込んだのだ!
「けど、今の菜々子は、確かに性格がずいぶん丸くなったと思うよ」
そう呟いた翔太は少し考え込むと、ふっと笑った。「今のお前たちなら、うまくやっていけるかもしれないな」
菜々子は静かに拳を握りしめた。彼の思い通りなんかにはさせない。自分はもう、すべてを思い出したのだから。
望月家の令嬢である自分が、翔太の愛人だなんて。ふざけるな。
どれくらい時間が経っただろうか。菜々子がやっとのことで目を開けると、病室には誰もいなかった。
一息つき、目眩をこらえながらなんとか体を起こす。そしてまだ血の気が戻らない顔で、母親である望月若葉(もちづき わかば)に電話をかけた。
3年にもわたる閉じ込めと嘘。必ず翔太に報いを受けさせてやる。
しかし、菜々子が何度かけても、若葉は電話にでない。
彼女はスマホを握りしめると、今度は父親に電話をかけた。しかし、やはり繋がらない。
どうして?
胸騒ぎがした菜々子は最後の望みを賭け、親友の佐藤渚(さとう なぎさ)へと電話をかける。
「もしもし、どちら様?」今度はすぐに電話が繋がった。
ほっとした菜々子は、なんとか声を絞り出す。「渚。私よ、菜々子……」
菜々子が言い終わらないうちに、電話の向こうから渚の興奮した声が聞こえてきた。「菜々子!本当に菜々子なの?!生きてたの?」
「当たり前じゃない、死んでないわよ。どうして私が……死んだなんて思ってるの?」
菜々子は眉をひそめ、これまでのことを手早く渚に話す。
「翔太、あのクズ男!」
話を聞き終えるや否や、電話の向こうの渚は怒りを露わにした。
「3年前、菜々子が事故にあった時、おじさんとおばさんは海外から急いで戻ってきたんだけど、こっちに着いた時には、もうすでに菜々子が亡くなったと聞かされてた。それに、遺体はもう火葬された、って。
私も急いで帰国したんだけど、その時にはもうあなたのお葬式だったの。
それから、おじさんとおばさんは毎日悲しみにくれてた。そんな時に、翔太は美優をあなたの家に連れてきたの。そして、彼は……」
渚はそこで一度言葉を切り、悔しそうに続ける。「翔太は、あなたが亡くなる前に美優を義理の妹として認めていた、なんておじさんとおばさんに言ったの。だから彼女をずっとおじさんとおばさんのそばにいさせた。
結局、美優は望月家の養女になって、望月姓を名乗り、あなたのすべてを奪い取ったのよ。
それに、おじさんとおばさんは亡くなる直前、望月グループを翔太に託しただけじゃなくて、美優を彼に嫁がせることまで決めてしまったの……そして、これは一年前の話……」
渚が何かを言っているが、もう菜々子の耳には入らなかった。
頭がガンガンする。今聞いたことが信じられない。
両親はもうこの世にいない?
翔太は、両親の死に目にさえ会わせてくれなかったのだ。
それどころか美優に自分の立場を乗っ取らせ、結婚までさせた。一方で自分は、山頂の別荘で秘密の愛人として囲われていたなんて。
どうりで、翔太が自信満々に、自分と美優を仲良くやらせるなんて言ったわけだ。
自分にはもう、最後の頼れる人さえいなくなってしまったのだから。
たとえ記憶が戻ったところで、こんな自分に何ができるというのだろう。
翔太が望めば、自分を一生この山頂の別荘に閉じ込めておくことだってできるのだ。
菜々子の心が、まるで鋭い刃物でえぐられるように、ズキズキと激しく痛んでいる。
「菜々子、菜々子!大丈夫?」
心配する渚の声が聞こえた。「今どこにいるの?すぐに迎えに行く!」
「だめ!」
菜々子はかすれた声で答える。その声は氷のように冷たかった。「私を騙し、弄び、辱めた翔太に、必ず復讐してやるの」
「復讐?」
渚がそう繰り返した瞬間、背後から翔太の低い声が聞こえた。「菜々子、思い出したのか?」
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